伝説の剣、封印される
影の追跡者が去ったあと、私たちはしばらく目的を見失ったように呆然としていた。
勇者像を破壊した咎めを受けずに済んで安心したところではあるが、そもそも私たちは勇者像を訪れたその目的を果たしていない。
ナオトに転職を迫るメッセージを解明させられていないのだ。
「まったく……リリアン君、キミはこんな簡単な誘導すら満足にできないのかね」
インカムから九条専務の嫌味が聞こえる。
「もういい……勇者像は職人が修理中なので、現地にはまだ戻れない。あとはこちらでなんとかしよう」
「助かりますニャ……でも、いったいどうやって……」
聞いているそばから、今度は女神ノアの声が聞こえてきた。
「ナオト……勇者ナオト……聞こえますか……?」
「その声は女神様!」
ナオトは即座に顔を上げた。
「実はあなたに伝えることがあるのですわ……まずはステータスをごらんなさい」
「わかりました。ステータス・オープン!」
ナオトは素直に女神の声に従う。
「先ほど、あなたが勇者像の前でアルミームソードをかざしたことによって、あなたの真の力が解放されたのです……」
剣をかざしたと言うよりバチ当たりにも突き刺そうとしていたわけだが、どうやらほかにフラグとして使えそうな行動がなかったらしい。
「俺の……真の力……?」
「そうですわ……あなたの使える魔法を確認してみなさい」
「わかりました。魔法、魔法……っと。あ! 使える魔法が増えてるぜ!」
「そう……それこそが勇者の真の力……エンチャントの力ですわ」
「エンチャントの力!?」
「勇者たる者、決して己が力に任せて一人で戦おうとしてはいけません。仲間を信じるのです……これは、その証の力……」
「仲間を……信じる……」
ナオトは自分の手を見つめた。
私は非戦闘員。セツも非戦闘員。ナオト自身も実質は非戦闘員。
ロイヤしか戦える者がいないというのに、いったい彼は仲間の何を信じているのだろうか。
「あなたならばもうわかっているはずですわ……? アルミームソードは、本来、剣として使う物ではないのです」
「剣として使う物ではない……勇者像に書いてあったとおりだ……でも女神様! それではいったい、この剣はどうやって使う物なんだぜ!?」
「さぁ……?」
さぁ? って言った!
何も思いつかないからって、仮にも女神が今、さぁ? って軽く突き放したぞ!?
「こら天城君! そこは上手く答えたまえよ! 真の危機に瀕したときとか、然るべきときがあるとかなんとか!」
「にゃふ~ん! きゅぴきゅぴ~!」
インカムからは九条専務とノアの混乱が聞こえてくる。なんだかずいぶんと仲良くやっているようだった。
「あ~、えっと……コホン。勇者ナオトよ、聞こえていますか?」
気を取り直して女神の声が再び響く。
「はい! バッチリ聞こえているんだぜ!」
ナオトは目を輝かせて、こんなダメダメな女神を微塵も疑っていない様子だ。
「実は、訳あってアルミームソードの真の使い方は今はまだ伝えることができないのです……」
っていうか、剣に剣以外の使い方なんかあるわけないんだけどな……!
「いえ、それが聞けただけでも剣以外の使い方があるんだってことがわかるんだぜ……!」
いやいや、ねーよ。思いついてたら私たちがとっくに導こうとしてるわ!
「剣として使えないということは己の武器を失うことにもなり、不安に思うこともあるでしょう……ですが、アルミームソードはそのときがくれば必ず、自らその秘めたる力を発揮してくれるのです……だからナオト、そのときが来るまでは……」
「わかってます……! 剣としては使わないってことですね!」
上手く言ったな女神オイ!
これで『そのとき』とやらが来るまで剣を使えない縛り、すなわち、剣としての出番はもう実質ないってことじゃねーか!
封印。これではまるで伝説の剣の封印だ。
なんだかこう……ここまで信じる心を利用して行動を羈束するとなると、逆にナオトが不憫にさえ思えてくる私だった。
「よい心掛けです……ではナオト、あなたはこれから、仲間を信頼し、エンチャンターとしてその力を発揮するのですよ……?」
とても勇者をだまくらかしているとは思えないほど澄まして綺麗な声だよ。
「わかりました! 俺は……エンチャンターになるぜ!」
ナオトもナオトで単純だ。彼は強く拳を握りしめて言い切っていた。
なんだかナオトには気の毒であるのだけれど、それはそれで私たちも安定して業務に就けるわけでもあるし、前向きに捉えていくべきなんだろうな……。
そしてこんなに簡単に納得してくれるなら、ヘタに勇者像なんかを使って推理させようとはせず、最初から女神ノアに頼めばよかったと思う私たちであった。
妙にガッカリとして疲れた気分になりながら、私たちはそのまま冒険者登録をしにギルドまで向かうことになった。










