第5.5話『死神は、“意味のわからない恐怖”がこわいと思っている』
「……なあ、ユウタ」
「ん?」
「お前さっき書いてたやつ、あれ――実話か?」
「違うよ」
「ほんとに?」
「いや、ほんとに」
「ほんとにほんとに?」
「やかましいな」
シキはポテチを咀嚼しながら、ノートパソコンの画面をじっと睨んでいた。
「でもあれ、“っぽすぎる”」
「何が」
「“この席、空いてますか?”って、
なんかもう……日常に溶け込みすぎてて逆にこわい」
ユウタはコーヒーをすする。
「狙ったんだよ。意味が分かりそうで分からないけど、
なんかゾワッとする感じ」
「うまい具合に“解像度が高いけど説明されない恐怖”になってたな」
「さすが死神。怖がりポイントの分析が冷静すぎる」
「職業柄な」
「……俺的には、ハンカチのとこが一番やばかった」
「なんで?」
「いや、なんか……怖くない? 名前が書いてあるってさ」
「落としたの俺だからな?」
「でも、“返された”んだろ? 見えない誰かに。
それがさ、怖いんだよ。じわじわくるやつ」
ユウタは、くすっと笑った。
「深読みしすぎじゃね?」
「いや、よくわかんないけど……
なんか、“ちゃんとそこにいた”って感じがしてさ。
気配じゃなくて、痕跡?……いや、なんかそういうの。怖い」
「抽象的だな」
「そういうのが一番こえーんだよ」
しばらく沈黙があって、シキがぽつりと言った。
「でも、実際一番こわいのは、“意味のわからない怖さ”なんだよな」
「ん?」
「姿がないとか、声だけ聞こえるとか、そういうのじゃない」
「うん」
「“自分が見落としてた何かが、ずっとそこにあった”ってわかった瞬間が、いちばんゾッとする」
ユウタは、それには何も言わなかった。
ただ、隣の席に向かって、
ほんの少しだけ、視線をずらした。




