33「魅了の終焉」
そして更に長い年月がたちます。私たちは幸せでした。アルフォンス様は国王に即位し、私は本当の王妃となります。
部屋の扉が荒々しく開かれました。アルフォンスが怒りの形相で入って来ます。
「よくもこの私を謀かったな」
「何のお話ですか?」
「私の人生をっ、返せっ!」
老いた愛しい人は両拳を振るわせ、私に怒りをぶつけます。
「今あなたのいる場所が、あなたの人生です」
「貴様にもソランジュと同じ運命を味あわせてやるぞっ!」
「……」
あの人は所詮革命家の血。そんな人を王妃になどできませんでした。だから私は力を使いました。本来のあなたのいる場所に、ただあなたを引き戻しただけなのです。
「なぜ私との婚約を破棄しようと思われたのですか?」
老いた私たちには、今更もうどうでもよい話です。でも聞かずにはいられませんでした。
「気が付いたのだ。私の真の人生とはいったい何かと、気が付いたのだ! ソランジュのおかげだった」
「それが【魅了】だったのです。あなた……」
「いや、違う。断じて違う! 貴様こそが【魅了】だったのだ。ソランジュは【魅了】を防いでいただけだったのだ」
だから、それは違うのですよ。あの女は【魅了】を使い、そして私も【魅了】を使った。
あの女はアルフォンス様を権力として見ていた。私は愛しい人と見ていた。だから私の【魅了】が効力を発揮していたのです。
その力もついに切れてしまったのですね……。
「この魔女を連れ出し地下牢につれていけっ!」
憲兵団と王宮魔導士たちが部屋に入ってきます。私は両腕を抱えられ頭に魔導具の拘束袋をかぶせられました。
「ソランジュと同じ目にあわせてやるぞ!」
アルフォンス様は連れ出される私の背中に罵声を浴びせます。
◆
王宮最深部の地下牢。そこは火刑を待つソランジュ様を幽閉した牢獄でもありました。
あの令嬢は西方貴族特有の権力欲に目がくらんだだけの、つまらない女でした。
だけれどアルフォンス様と婚約し、たぶん本当に彼を愛してしまったのでしょう。ただそれだけで火炙りへの道に突き進みました。それで幾人の人々が死ぬかも考えないで……。
私の治世は上手くいきました。成すべきは成しました。もう遺書も残しております。
病に蝕まれた命は、もう長くはありません。愛するあなたの手で奪って欲しい。
それが私の最後の願いでした。
「やあ……」
背後精霊さんが現れます。いったい、いつ以来の再会でしょうか。
「あの力を使ったんだね」
「久しぶりですね、アスモデウスさん。あなたのことなど忘れていました」
「僕は他の世界から、時々君を見ていたけどね」
「他の世界?」
「力が衰えている」
「私ももう高齢ですから」
「【魅了】の効力も消えるよ。魔女さん」
「あなたの力添えです」
「君が運命を受け入れると決めたからさ」
「はい、覚悟のうえです」
「幸せそうだね?」
「愛する人のために生き、そして死ねるのですから」
「そう……」
「あなたの目的は何だったのですか?」
「火炙りさんにくっ付いていた背後精霊が気に入らなかったのさ。あいつを叩き潰すために、君に協力した」
「精霊同士の争いなどがあるのですか?」
「あの令嬢が王妃になり国を収めれば、この世界はもっともっと良くなった。そんなの面白くないだろ?」
「私の時代も平和でしたが……」
「君よりあの令嬢が上だったのさ。人間の世界ってさ、そこそこの平和があればいいのさ。理想を実現するなんて、クソくらえなんだよ。たかが人間風情が」
「よく分かりませんが、私は幸せでした。だからあなたには感謝しているのですよ」
「感謝? これだから人間は面白い。バイバイ……」
牢獄に現れた精霊は、それだけ言って消えました。
「バイバイ?」
バイバイとはどのような意味なのでしょうか? 人間の世界にはない言葉です。
あなたの人生に幸あれ? これから死ぬ私に?
または死ねば救われる、とでもいうような意味なのでしょうか?
それでは、私もそろそろこの世界から消えさせて頂きます。
「さよなら。私の【魅了】さん……」




