30「迎賓館の舞踏会」
昼は貴族の屋敷を巡り、夜はシルヴと共に話題のレストランや、時には冒険者が集う酒場にも行きました。ジョルジュとラシェルも誘い、庶民街の賑わいを楽しみます。
そしてリヴィエール・シルヴァン様から、王宮主催の舞踏会へのお誘いが掛かりました。バシュラール家の令嬢へ、だと受け止めますが――。
「ドレスがないですわ」
「任せてくれ。こちらで全て用意するから。ディアーヌの体一つあれば十分さ」
ちょっと引っ掛かるもの言いですけど、それならば――。
「それでは、謹んでご招待をお受けいたしますわ」
舞踏会が、何かが変わる切っ掛けとなるのかは分かりません。
そして当日の夕刻となりました。迎賓館の貴賓控え室には、リヴィエール家の用意したメイドさんたちとドレスが用意されていました。
「あの……、シルヴァン様がお見立てになったのですか?」
深い青に満天の星空と白色。古典を踏まえて現代の冒険を合せたようなドレス。品があり、それでいて艶やかな一着です。一目で気に入ってしまいました。
「いえ、母上と姉上が選んでくれました。お気に召しましたか?」
「はいっ、とても!」
女子としては、やはり心が躍りました。おざなりではなく、気持ちを込めて選ばれたドレスです。
シルヴァン様が退出し、メイドさんたちがテキパキと仕事を進めます。驚きました。用意されたアクセサリーは、宝石も希金属も全て本物です。
こんなに華やいだのは久しぶりです。鏡の向こうには、まだ幸せだった頃の私がおりました。
会場には着飾った女子たちと、エスコートする殿方が大勢いました。皆若い貴族ばかりです。そのような集まりなのでしょう。食事をされたり、歓談されたりしております。アジャクシオの夜会のような緊張などは、カケラもありません。皆笑ったり、はしゃいだりしております。
魑魅魍魎など微塵も存在しない絢爛の空間が広がっておりました。
「おっ、シルヴ。いつ戻ったんだ?」
「つい最近さ」
声を掛けてきた相手は学友のようです。私をチラリと見ました。
「学院にはいつ復帰する?」
「いつかな? 調整して、たぶんすぐだよ」
「そうか、またな」
「ああ」
それだけ言って、待たせていた令嬢の元に戻りましす。私が誰かは、さすがに分からないようです。詮索もいたしませんし、たぶんそのような集まりなのでしょう。
「シルヴ。やっと戻ったんだね」
「はい。これから大学院と、騎士修練にも復帰します」
何人か目の会話が始まりました。後ろには美しい令嬢が笑みを浮かべて立ちます。私も頑張って上品な笑みを作ってみました。
「そうか。西方はどうだった? 冒険者クラスはどこまでいったのかな?」
その男性はチラリと私を見て、表情を少し変えます。
「Bです。やはり冒険者は勝手が違います」
「上出来だよ。今度ゆっくり苦労話でも聞かせてくれ」
「はい」
それだけ話すと、他の知り合いを見つけて移動いたします。
「あの人は?」
「第一王子のバティスト様だ」
「えっ!?」
信じられません。アジャクシオならば、王族の席が上座に必ずありますので。
「隣が婚約者のセレスト様。男爵家の令嬢さ」
「私に気が付いたふうでしたが……」
「王族は君の肖像画を見ているからね」
「そうですね」
「実は俺も見たことがあるんだ」
私の絵は三枚描かれ、第一から第三の王宮に送られました。王族の皆様に、私の人柄と共に姿も伝えられているのです。シルヴも重鎮の令息なので見る機会があったのでしょう。
「よく描けた絵だったね。一目見て、すぐ君だと分かったよ」




