28「アングレットの連合騎士」
第一王都アングレットにあるバシュラール家の屋敷は、別館に住まうジラルデ・バルニエ卿が周辺の我が家の領地も含めて管理してくれています。
元騎士の男爵で幼少の頃から面識のある、親しみやすい叔父様でした。
「いやあ、ご無事で何よりです。ディアーヌお嬢様」
「ご無沙汰しております。バルニエ様」
「すぐにご入浴の支度をさせますよ。お着替えも用意しておりますから。それとも食事ですか?」
思わず苦笑いいたします。私にも冒険者の風格がでてきたのでしょうか。
「本日は予定もございませんので、お急ぎにならないで下さい。明日の朝に護衛の迎えが来ますので、外出はそれからですわ」
「私からも、お話がございます。いや、まずは風呂ですよ。いつまでもお嬢様にそんな格好をさせていたら、ジェルマンの兄貴にドヤされちまいますから」
「まあっ――」
バシュラール・ジェルマン。私のお父様です。二人は若い頃からの盟友なのです。
本館に用意されたお風呂を頂き、自分の部屋に入り着替えます。そしてバルニエ様の執務室を訪ねました。生活は別館でおこない、領地の管理業務などはこの本館を使っております。机で書類を眺めておられました。
「さて、お座り下さい」
ソファーに座ると、すかさず控えていたメイドがお茶を入れケーキを出してくれました。実はもうお腹ペコペコなのです。
バルニエ様が正面に座りました。
「ジェルマン様から何度か書状を頂き、状況は把握しているつもりです。今回の一件、アングレットの現国王陛下もお怒りだとか……」
「それほど話が広がっているのですね」
「こちらはほとんどがバシュラール家寄りです。アジャクシオは割れているとか。嘆かわしい」
バルニエ叔父様は眉間にしわを寄せて首を振ります。
「明日からは父の旧友たちを訪ねてみますわ」
「それがいいです。支援を約束してくれるでしょう。さっ、どうぞ――」
とお茶とケーキを進めてくれました。助かります。
「妻が婦人会の会合に出ておりましてね。そちらもバシュラール家優勢ですよ。当然ですな。夕食で話が聞けるでしょう」
「はい」
第一王都はバシュラール家にとても優しいです。
ささやかな夕食会にはバルニエ卿と夫人、そしてジラルデ家のまだ幼さが残る二人の令息が集まりました。
ラシェルはメイド服で配膳をいたします。ジョルジュは厨房を手伝っております。別館男爵家の使用人は数が少ないのです。
「ディアーヌ様のお兄様は、騎士団長なのですか?」
「すごーい……」
たぶんバルニエ叔父様が話されたのですね。騎士はちびっ子男子の人気者ですが、団長ともなればその中でも格別な存在なのです。男の子の興味はやはりそちらですね。
「いえいえ、名前だけなのですよ」
ちょっと謙遜させて頂きました。ごめんなさいお兄様。
「若くして第七騎士団を任されるなど、もう兄貴を越えていますよ」
「お父様に兄様がいるの?」
下の息子さんが不思議そうに父親を眺めます。
「いや、ディアーヌ様のお父上のことだ。命を助けて頂いて以来、勝手に兄と呼んでいる」
「へー……」
「ふーん……」
「お前たちも互いに助け合い、真の兄弟になってみせろ」
「「はいっ!」」
残念ながら相続の問題などで、仲違いする兄弟がいるのが貴族です。男の子二人の教育は、なかなかに気を使いますね。
◆
翌朝、食事を終わらせお茶を頂きながら、控えの間で護衛を待ちます。バルニエ叔父様が呼びにやって来ました。
「お嬢様。迎えが来ましたが――、とんでもないのが……」
「とんでもない?」
エントランスホールには、第二種騎士礼装に身を包んだシルヴがいました。帯剣し胸には連合とリヴィエール家の紋章を付けております。
ジラルデ家二人の令息様は、目をキラキラさせながら見ておりました。ここでも騎士様は大人気です。もしかしてシルヴはこれがやりたかったのでしょうか?
だけど、たかが伯爵令嬢の出迎えには、二種はちょっと過剰ですね。本当なら三種が適当でしょう。
シルヴはサッと歩み寄り片膝を付きます。
「リヴィエール・シルヴァンでございます。本日はこの命に替えて、ディアーヌ様を御守りさせて頂きます」
「あなたが守るべきは、この街全ての令嬢と御婦人たちです。そう心得なさいな」
「はっ!」
芝居には、芝居で返させていただきました。純真無垢な子供たちが見ておりますから。
その秀麗騎士様は立ち上がり顔を寄せました。
「どう? 騎士っぽく見えるかな?」
「まあまあね」
私も小声で応えます。
「では……」
シルヴは三歩下がって踵を返し、一人で外に出ました。窓には用意されたバシュラール家の馬車が動くのが見えます。
「連合の紋章は、王宮騎士から選抜された連合騎士ってことですなあ。リヴィエール侯爵家ならばさもありなん。それにあれは、剣技の天才と噂されている三男坊ですな。さすが兄貴は手回しがいい」
バルニエ様は感心しきりです。
「はい」
そういう事にしておきましょうか。元、ただの護衛冒険者では威厳と威光が消えてしまいそうです。
「さて、お前たち。いいぞっ!」
当主の号令で夫人が御子息たちの背中を押しました。二人は玄関の二枚扉を開けます。私が外に出ると、騎士は馬車の扉を開けました。手を借りて乗車いたします。
シルヴはジラルデ家の皆様に一礼して乗り込みました。
「久しぶりに騎士の真似をして緊張したよ」
「真似ではございませんわ。素晴らしい騎士ぶりでした。でも冒険者の方がカッコ良かったかも……」
「俺もそう思いますよ……」
騎士様は、ちょっとふてくされたように言いました。冗談が過ぎましたね。ごめんなさい。




