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26「魅了の館」

 ジョルジュとごきげんのラシェルが帰って来ましたので、四人で夕食となりました。話題の中心は温泉ですが、山岳部の魔獣の状況なども話に出ます。

「あんな山中で小物もいないなんてなあ。かなり熱心に掃討しているみたいだ」

「鉱山はどうでした?」

「活気があったよ。産出量もそれなりにあるみたいだ」

 つまりオリハルコンだけが枯渇しているのです。それは、同じ鉱脈ではありえないこと。ここならば他の金属があるなら、必ずオリハルコンが含まれているはずです。

 魔獣の件は――分かりません。何かしら理由があるのでしょうが……。私にはこちらの方が引っ掛かります。


 宴はお開きとなり、それぞれの自室に帰ります。私は次の予定に備えて、ベッドに潜り込みました。


  ◆


 深夜、私の中で警報が鳴りました。目を覚ました瞬間に、意識も鮮明さを取り戻します。

 鍵が勝手に開き無粋な騎士が部屋に滑り込んで来ました。そして内側から施錠いたします。

「来たよ、ディアーヌ……」

「はい、今目覚めました」

「服を着たまま寝てたのか」

「侵入者が来ると分かっていましたから」

「そりゃそうだ。行こう」

 シルヴは窓を開け放ちました。これから二人で深夜のお出かけとなります。

「けっこう高いけど、いける?」

「大丈夫」

 宿の塀を乗り越えて路地に降ります。シルヴは人の気配を読みながら、入り組んだ道を走りました。私も警戒しながら後に続きます。


 私たちは大きな建物の裏に着きました。目の前には更に高い塀がそびえます。

「ここの領主の屋敷だ。ちょっと中を覗かせてもらおうか」

「はしたないけど賛成するわ」

 ここで何かしらの核心が得られるかもしれません。この街の怪しさは領主の主導以外考えられませんから。

「【隠密】スキルは使える?」

「大丈夫よ」

 シルヴはふわりと飛び上がり、塀に取付きます。私もそれぐらいならできます。二人で屋敷の庭を覗きました。

「戦闘番犬が五頭もいるか。過剰だなあ……」

 それは魔力を持つ個体を選び、調教した犬たちです。あんなのに見つかれば大騒ぎですが、あいにく訓練された番犬は、いくら魔力(スキル)を隠しても嗅覚が侵入者を探知します。

「あの漆黒のリス(アイヒヘルヒェン)にやったみたいに動かせる?」

「任せて……」

 気配を探り、視認不可の場所にいる犬も捕らえます。

 さあ、お犬さんたち。あっちに御馳走がありますよ。

 突然目覚めた五頭は、幻のエサに向かって駆けて行きました。

「よしっ!」

 庭に降りて、屋敷の正面へ音もなく駆けます。どの窓にも明かりはなく、静まり返っていました。好都合です。

「どこが主の書斎かなあ……」

 貴族の屋敷など、使われ方はだいたい同じです。二階の中央、大きなバルコニーのある部屋がそうでしょう。人の気配はありません。

 シルヴは手を掲げて【念動】を使い窓の鍵を開けました。

「飛べる?」

「ちょっと、高いかな」

 私にはシルヴほどの【念動】はありません。

「じゃあ」

 抱きかかえられて、そのままバルコニーに飛び上がりました。ちまたで言われている女王様抱っこというやつです。アルフォンス様以外の男性に、初めて奪われてしまいました。ひどいです。

 すぐに窓を開けて、侵入いたしました。

 机とソファーが置かれ、大きな書棚と反対の壁には絵画が二枚掛かっております。そこは当主の執務室でした。当たりです。

 シルヴが小さな【光球】を掲げ、絵を照らし出します。

「聖騎士様……」

 それは白銀の鎧姿で、高貴な彩りの剣を掲げる女性でした。

「ここの当主も信奉者らしいね。問題は右の絵だ」

 そしてもう一枚を照らします。知的に整った表情に黒く長い髪。衣装はどこか異国を感じさせます。

「会ったことがあるヤツか?」

 まさか、こんな所で再会するとは思ってもいませんでした。

「ヴォルチエ・ソランジュ嬢ね……」

 それは、あの(・・)女の肖像画でした。西はこんな街にも手を伸ばしていたのです。


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