24「人知れずの教会」
翌日の夕刻、私たちは目的の街タンプルに入りました。
「さて。取り敢えず宿に落ち着くとして、それからどうする?」
「私は街を見て回りたいの。明日は自由行動ね。ジョルジュたちもそうして」
「鉱山より奥だけど、小さな温泉場があるらしい。行くか?」
そう言われてラシェルは目を輝かせました。
「そうねえ。たいして見て回る場所もないし、そうするわ」
ジョルジュはきちんとした気遣いのできる紳士冒険者なのでした。
恋人同士の二人には、自由にしてほしいです。私は気を利かせて遠慮いたしましょう。
それに温泉に興味はありますが、私は街中を見て回りたいのです。
「シルヴはディアーヌの護衛を頼むぞ」
「よろしくね」
「任せて下さいよ」
私の冒険者はそう言って胸を叩きます。
街外れの倉庫に馬と馬車を預けて、必要な荷物を各自持ちます。街の中心部まで歩き、まあまあの宿に入りました。
夜は四人で楽しい夕食です。女性陣は話を控えて、主に殿方の冒険譚などを拝聴いたします。
ジョルジュもシルヴもわざと婚約話を避けてくれる、なかなかの紳士ぶりでした。ラシェルはごきげんで二人に突っ込みを入れます。温泉の効果ですね。
◆
翌日は宿の玄関に出て、二人でジョルジュとラシェルを見送ります。
「じゃっ、行ってくるよ」
「危険な場所には近づかないように……」
ラシェルはウキウキ気分を押し殺しながら言いました。私の性格をよく知っているのです。
「大丈夫よ」
二人は仲良く温泉場に向かいました。どうぞよいお湯を。
さて、残された二人はどうなりますでしょうか。
「リーダーはどこに行くの? 付き合うよ。俺は取り敢えず教会に行けば、あとは街中をブラブラしたいだけだし」
「ディアーヌって呼んで。私も教会に行きたいわ。それと森の散策かしら」
「じゃあ、俺も行くか。一応護衛だし」
「街歩きも付き合うわよ」
殺風景な街並みですが鉱山街の活気があり、別段問題があるようには見えません。シルヴが通行人に教会までの道順を聞いて、目的地に向かいます。
街外れに森を背にした教会が見えました。
私たちは無人の聖堂に入ります。左右の窓は何枚ものステンドグラスになっていました。
とても美しいです。そのひとを透けた光が、聖堂の中を色とりどりに照らしております。
「これなのですね……」
「知ってたのか?」
「ええ、知り合いから聞いていました」
手前の左右二枚は少女で、次の二枚は成長し剣を持つ姿。そして次は戦いの装備を着込み、最後は鎧を身に付けた騎士姿の二枚です。
正面には女神ルーミーナの彫像。その後ろには女性聖騎士のステンドグラスがあります。
「シルヴはなぜ知っているの?」
「我が家では昔から有名な人なんだ。アテマ王国で聖騎士となり、現ブルクハウセンに渡って魔人を倒して平定した。そしてここ、ルフェーヴル王国にやって来た」
「ここの街にいたのかしら?」
「いや、実は聖騎士の絵画やステンドグラスは、あちこちの小さな街や村に何点かあるんだ。そこのどこかかもしれないし、ここかもしれない……」
実は私は、アスモデウスさんから聞いて知っていました。この街こそが、聖騎士様が天寿をまっとうした地であると。何度も名前を変えて住む場所もあちこちに移動して、そして最後はこの地にたどり着いたそうです。
「このステンドグラスは素晴らしいなあ」
「そうねえ……」
教会は神が信仰の対象ですが、それよりも神の啓示を受けた人間が身近な対象として人気です。聖人、聖女、そして聖騎士などです。
「以外ねえ。シルヴの憧れが女性騎士だなんて」
「純粋に伝説の聖騎士へ、だよ!」
「ムキにならないでよ。私の憧れでもあるわ」
同じ女性の伝説ですから。
この人がアスモデウスさんと旅をしていたのですね。私と同じように……。
◆
続いて森を散策しますが、小物魔獣の気配すら感じません。貴重な鉱山があるせいか、討伐には熱心なのかもしれません。
「街に行きましょうか」
「うん。ここは街の方が危険かもしれない」
「?」
はしたなくも屋台で買い食いしつつ、シルヴは少々治安が悪いような地域に向かいます。森が平和なのに街が危険などとは不思議な場所ですね。
ガラの悪そうな冒険者ふうの男たちがジロジロとこちらを見ています。気が付けば後ろに三人が歩き、前方には五人がたむろしていました。
どうやら囲まれてしまったようです。
シルヴが立ち止まりました。
「どうだい? 希少金属を秘匿するにはもってこいの場所だろ?」
と顔を近づけて小声で話します。
「知ってて来たのね。これからどうするの?」
不安はまったくありません。相手はどうみても、数が多いだけの小物です。




