22「新人シルヴの加入」
輸送隊列は中間地点の街メイジューまで、あと一日の距離までやって来ました。「お嬢様――、いや、ディアーヌ。ちょっと話があるんだけどなあ……」
ジョルジュが手綱を握ったまま、のんびりと言いました。旅は順調です。
「実はシルヴのヤツが、タンプルに行くって言ってるんだ」
「へー、偶然ね。私たちと一緒なんて」
「お嬢様――、いえ、ディアーヌが話したんじゃなのね」
「ええ、その話はしていないわ」
ラシェルも、どうしても素に戻ってしまいます。
「まあ、見聞を広げるとか、ただの寄り道だとか言ってたけどね」
「だったら、護衛に雇いましょうか。心強いわ」
「早速、声を掛けてみますよ」
「助かります。旦那様に無断で予定を変えるのですから」
二人の気持ちを察して、こちらから提案してみました。護衛は多いに越したことはありません。私としてもリヴィエール家の、御子息の行動は気になります。
「ヤツは戦力になりますよ。野盗も魔獣もいないでしょうけどね。俺から話しておくよ」
◆
一台、また一台と荷馬車が輸送隊列から離れていきます。それぞれが郊外の倉庫街に向かいました。メイジューの城壁が見えてきます。
アジャクシオからの護衛冒険者たちは、ここでクエスト終了となります。
隊列の前からシルヴがやって来ました。
「俺は達成報告で、冒険者ギルドに行かなくちゃならないんですよ」
「そうだな。宿は決まっているから後で合流しようか。俺たちは馬車を運んでから買い出しだ」
「なら、私もギルドに行くわ。情報も欲しいしね」
「と、言うことだ。シルヴ、リーダーの護衛クエスト発動だぞ。報酬は直接交渉してくれ」
「ディアーヌがリーダーなのか……」
「はい。私はなかなか厳しいリーダーですよ」
街壁門を通ってから二手に分かれました。私とシルヴで、昔と同じ活気の街を歩きます。
「宿はどこなの?」
「いつもの貴族の定宿よ。ただし使用人棟ね」
「俺はいつも別邸だったなあ。ディアーヌ嬢を連れてこいって父親がうるさくてね。クエスト失敗だな」
「政争はごめんよ」
今の私は本当に傷心旅行中で、他に個人的な興味が少々。政治の話はアングレットに着いてから、お父様の関係者だけと決めています。父を無視してリヴィエール侯爵家と直接話はできないのです。許されるのは第三令息との世間話程度でしょうか。
ギルドに到着し、シルヴは報酬チケットを出しに受付カウンターへ、私はクエストの掲示板をのぞきます。
タンプルのまでの間道は、クエストはなしですね。道沿いは薬草採取に開放されたままですか――。
どうやら安全は確保されているようです。
「働いていただく金は重みが違う。どう? 俺の血と汗の結晶で、今晩食事でも」
シルヴは小ぶりの革袋を掲げます。たぶん私をダシにして、両親から逃げるつもりなのでしょう
「久しぶりに親孝行しなさいな」
「そうするかあ……。安全みたいだね。受付嬢も問題なしって言ってたよ」
話題を切り替えて、クエスト掲示板を見やります。
「なんでタンプルなんて行くの? ただの鉱山街よ」
「一度も行ったことがないから、見聞を広げようってね。真面目だろ?」
「それだけ?」
「ここ一年、オリハルコンがまったく出ないんだ。枯渇してはいないとは思うんだけどね」
「ふーん……」
動機付けとしては十分です。魔力に作用するオリハルコンは、非常に価値がある希少金属なのです。
「それなりに危険な寄り道になるかしら?」
「ジョルジュさんと俺がいれば問題ないさ。あの街にたいした戦力はないよ」
私は魔獣との遭遇を考えましたが、シルヴは人間のことを考えているようですね。どうやら彼の目的はそこにあるようです。
「そういえば、報酬額の提示がまだだったわ。リーダーの私が一任されているの」
「俺はけっこう高いよ」
「その、革袋と同金額でどうかしら?」
「じゃあ俺は交換で、血と汗を提供させていただくよ」
シルヴは良心的な冒険者なのですね。ずいぶんお買い得な血と汗です。
◆
私たちは貴族専用ホテルの別館、使用人たちの棟に泊まりです。
「なんだ。シルヴは来なかったのか」
「ええ。泊まる屋敷があるみたい。明日の朝、こっちに来てくれるわ」
「ふーん……」
高級貴族の子弟だとは今は言わないでおきましょう。
「買い出しで、タンプルについて聞き込みしましたけど、特に変わった様子はないようね」
「冒険者ギルドも同じ感じだったわ」
ジョルジュは飲み仲間が来なくて残念なのでしょう。ラシェルも情報を集めていてくれました。




