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21「二人劇場」

 ホテルが用意した浴衣に上着を羽織った姿はどのお客も同様です。皆保養地らしいくつろいだ姿ななっております。

 シルヴはレストランの入り口で待っておりました。私も早く来たつもりなのでしたが、さすが騎士様の習慣が身に付いております。

「お待たせ……」

 なかなか言葉遣いには馴染めませんが、頑張って続けてみます。

「俺も今来たところさ――」

 と教科書どおりの返答をします。

「――て言うんだよね」

「そうねえ。人によるけどね」

「入ろう」

「ええ」

 ちょうど夏期休暇が終わった頃なので、それほど混んではおりません。年齢層は高めでしょうか。休学組みの私たちは、ちょっと後ろめたいですね。

 席に案内されると、シルヴはすかさずメニューを取りました。

「任せてくれる? 御馳走するよ」

「ええ。お任せするわ」

 なかなか手慣れておりますね。

「……今夜のお勧めディナーでいいか、ドルノンのおもちゃ箱――。よく分からないセンスだな」

 ダメですね。これは……。

「ちょっと貸して」

「はい……」

 シルヴが素直に差し出すメニューを受け取って箱の中身を確認します。

 ローストは子羊でここの特産です。オードブルとサラダは地元の季節野菜とキノコ類の組合わせで、山菜のアレンジですか。魚はマスのソテー、シャーベットはミルク系で。甘味はなしの、果物はお任せですか――。赤ワインが付きます。五年前と大きな変化はないですね。シェフは同じままなので安心です。

「ちょっと男の人には物足りないかもね。追加のミートローフをグレイビーソースでもらいましょう」

「助かるよ」

「ここのパンは絶品よ」

 シルヴはスタッフを呼び、オーダーを伝えました。

 なんだか不思議な気分です。このあいだ婚約破棄された令嬢が、保養地でよく知らない男性と夕食を共にしているのです。

 それには理由がありました。私たちは互いに利用価値があるのです。

「こうやって二人で話す機会もあまりないから、単刀直入に聞くよ。西方の連中ってどうなんだ?」

 いきなりきましたね。そう、私にも時間はありませんから。

「強引ね。政務も経済も、進出が早いわ。それだけ強引……」

「そうか。冒険者の世界も同じだな」

 シルヴは天を仰いでこれからの展開を考えます。ここは私主導で仕掛けましょう。

「私はバシュラール・ディアーヌ。あなたは?」

「隠すつもりはないんだ。俺はリヴィエール・シルヴァン」

「! リヴィエール侯爵家の……」

「三男坊さ。下っ端だよ」

 リヴィエール侯爵は第一王都の重鎮です。たとえ第三令息だとしても、領地が欲しければどこからも切り取り放題との噂があります。

「評判、悪いかな?」

「いいえ」

 相手は大物なので、思わず顔に出てしまいました。あくまでそれは噂で、実際そんなに強引なことはしていません。それだけ力があるとの、例え話です。

 料理が運ばれてきました。話は一時中断して、注がれたワインで乾杯いたします。

あの(・・)女に会ったことは?」

 やはり知っていますね。冒険者の世界でも、原因はそこだと噂になっているのでしょう。

「何度かあるわ。会話は一度だけ。魅力的な人よ。評判どおりの」

「恨んでる?」

「どうかしら? それはないかも……」

あの(・・)――か、そこが最大の問題だな。よりによってとんでもないのを、第三王都に入れてしまった。阻止していれば、婚約破棄もされなかったのに」

「どうかしら? それは私の問題よ。シルヴたちはどうしたいの?」

「排除だよ」

 シルヴはローストビーフにフォークを突き立てました。

「西方めっ! 平定をこちらに頼んでおいて、まとまれば浸食にかかってくる。連合王国の意味が分かっているのか?」

「声が大きいわ……」

 それは第三王都前史です。ルフェーヴル王国は多大な労力と犠牲を払って、西方を平定いたしました。貴族を名乗る野盗や盗賊、魔獣を討伐し、いがみ合う小貴族の仲裁に入り西の戦乱を終わらせたのです。

「平気さ。いざとなれば、叩き潰してやる」

「ちょっと――」

「ここにいる客は身内ばかりさ。今夜はリヴィエール家の貸し切りなんだ」

「……あきれた」

「ちなみに君の右のテーブルにいるのが、俺に何回も見合いをさせる両親だ」

「えっ!?」

 そのテーブルでは品の良い叔父様とご婦人が、にこやかに会話をしていました。こちらのことなど、気にもしないで料理を楽しみ笑い合います。

 挨拶を――。

「無視してくれ。今夜は俺たちの観劇らしい。見合いじゃないのになあ……」

「面白い趣味だわ。本当のお見合いでもやってたの?」

「まさか。顔ばれしているし無理だよ」

「ふふふ、私の監視ね。あなたも?」

「さあ?」

 この時期にバシュラール伯爵家の破棄令嬢がやって来る。その真意を計りかねていたのでしょう。ただの傷心旅行なのですけどね。それにしても、ここを貸し切るだなんて……。

「聞かれてもいいような、楽しい話をしましょうか」

「小声で話せば大丈夫。この演出はただの野次馬さ」

 と言われても、婚約破棄が話題になっては困ります。それに元婚約者とのプライベートだって話せません。お見合いのような話だって無理でしょう。

「使っていない昔の女性用露天だけど、あそこは魔力が多く湧き出る場所なの」

「そうなの?」

「ええ。自然【癒し】(ヒール)の効果があるわ」

「助かるよ」

「いいえ」

「これから入って確かめてみるかな?」

「あはは、女子に嫌われる冗談ね」

「冒険者仲間にはうけるんだけどなあ……。その件は支配人に話しておこうか」

 話がある知り合いとは、両親のことなのですね。ホテルの敷地警備も、たぶんそちらからの指示なのでしょう。最後に身内に安全を確認させたのです。

 リヴィエール侯爵家の、おおよその方針も分かりましたので、私にとっても有益な劇でありました。


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