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聞きなれない魔石師との奮闘記  作者: さんご
成長と旅立ち

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30階目前へと迫る。

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

あの岩オークは、やはり、ただの個体ではなかった。

皮膚の硬度、魔力抵抗、そして怯みづらさ。

すべてにおいて、並の個体より数段上。


おそらく“特殊個体”……

偶然か、それとも28階層直前の門番のような存在だったのか。


「……やけに硬かったね、あれ」

ユキが息を整えながら、ぽつりと漏らす。


「うん。でも……倒せたわ」

マキは少し笑った。

自分たちの連携が、確かな手応えを残したことが、なにより嬉しかった。


その言葉に、ユキが小さく息を吐いた。


「つまり、運が良かったってこと?」


「違うわ」


マキはすぐに首を横に振る。


「運じゃない。ちゃんと倒せた。連携で崩した。……それは事実でしょ」


エメダも頷く。

「お二人のおかげです。……次は、もっと役に立てるように」

その言い方は、謙遜というより誓いに近かった。


ユキが軽く笑う。


「十分役に立ってたけどね。エメダが引き付けてくれたから、いなかったら絶対きつかった」


「そうそう。魔法唱えながら攻撃避けるとか、こっちが先に折れてたよ」

マキもフォローする。


そのやり取りの中に、戦闘後特有の緩やかな熱が残っていた。

勝利の確認は、言葉にしなければ薄れてしまう。だからこそ、何度でも確かめる。

そうして一同は、小さな勝利の余韻を胸に、

岩の残骸を越えていよいよ28階層へと足を踏み入れる。



28階層。


踏み入れた瞬間、空気が変わる。


湿度は低いのに、なぜか重い。音が吸い込まれるように消え、足音だけがやけに明瞭に響いた。


ユキが眉をひそめる。


「……静かすぎない?」


「うん。さっきまでと違う」


マキも周囲を見回す。


罠の気配も薄い。魔物の反応も断続的で、まるで“空白”の中を歩いているようだった。


エメダが小さく地図を確認する。


「この階層はもう少し魔物密度が高いはずです」


「記録通りじゃないってこと?」


ユキの声に、わずかな警戒が混じる。


マキは少し考え、言葉を選ぶように答えた。


「……さっきの岩オークが、全部持ってったのかもしれないね」


ユキが首を傾げる。


「どういうこと?」


「強い個体が“場”を支配して、他の魔物を狩っていた可能性。」


エメダが目を細める。


「つまり……均衡が崩れた状態、ということですか」


「たぶんね」


その言葉に、ユキは小さく肩をすくめた。


「じゃあ逆に不安なんだけど。嵐の前の静けさってやつでしょ、それ」


マキは微笑む。


「似てる。でも、今は進めるだけ進もう。慎重に」


ユキが即座に返す。


「慎重って言う人ほど、だいたい突っ込むよね」


「それは偏見」


「事実でしょ」


短い掛け合いに、わずかな緊張がほどける。


エメダも小さく息を吐いた。


「……こういう空気、嫌いじゃないです」


「物騒な感想だね」


ユキが笑う。


「でも分かる気はする。静かだと逆に落ち着かないから」


マキは歩き出しながら言う。


「じゃあ、ちょうどいいね。何か起きる前に、できるだけ進もう」


三人の足音が、再び一つのリズムになる。



29階層。


ここもまた、異様なまでに穏やかだった。


魔物はいる。だが、どれも戦闘を避けるように距離を取る。まるで“この先に近づくな”とでも言いたげに。


ユキが小声で呟く。


「なんかさ……見られてる感じしない?」


「する」


マキも即答した。


エメダが周囲を警戒する。


「視線のような反応はあります。ただ、位置が特定できません」


ユキが顔をしかめる。


「それ一番嫌なやつじゃん」


マキは足を止めずに言う。


「でも、逃げてる感じはある。迎撃じゃなくて、誘導」


「誘導?」


「上に行かせたいのか、止めたいのか……どっちか」


その言葉に、三人の間に一瞬だけ沈黙が落ちる。


ユキが小さく笑った。


「どっちにしてもさ。選択肢ないよね」


「そうだね」


マキも笑う。


「ここまで来た以上、進むしかない」


エメダが静かに頷く。


「30階層が“節目”である可能性は高いです。注意を最大に」


ユキが剣の柄に手を置く。


「了解。で、たぶんそこからが本番ってやつでしょ?」


マキは前を見据える。


暗闇の奥に、見えない扉のようなものを感じながら。


「たぶんね」


乾いた足音だけが続く。


静けさは、優しさではない。

それは、次に来るもののために用意された“間”だった。


そして三人は、その間を切り裂くように、30階層へと歩を進めていく。

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