皇妃暗殺 7
後ろ手に縛られ、床に座らされている女にエルンストは話しかける。
「そなたの雇い主の名は?」
女は固く唇を閉じている。
「あまり時間がないので、私ものんびりと尋問するわけにはいかんのだ」
女の顎を掴むと、自身の顔を近づける。
「白状しなくても構わんぞ。いずれ身元は分かる。さすればそなたに関わる一族郎党、皆殺しだ。何故なら罪状は皇妃暗殺未遂。ただでは済まん」
職務を遂行するエルンストの姿にフィーアは驚いた。
冷徹で鋭い視線を女に向け、情け容赦はないとばかりに話しかけている。
「だがっ」
エルンストは女の顎の形が変わるくらい力を込めた。
「正直に話せば助けてやらないこともない。見たところ、そなたまだ十代であろう。むやみに命を無駄にすることはない」
とうとうエルンストに迫力負けした女は、諦めたとばかりに重い口を開いた。
女の名はアメリーと言い、南方の村の下級貴族の娘だと言う。最近ゲルフェルト侯爵家に雇われたとのことだった。
下級貴族とは思えないほど、言葉は乱れていた。
貧しい地方の下級貴族の現状を思い知らされたエルンストだ。
侯爵家の執事から小瓶を渡され、中身を皇妃の食事に入れるようにと言われたこと。そして、今回のことは陛下のご意向であるとも言われた。と白状したのだった。
「陛下のご意向ですって!?」
いつの間にか広間に姿を現していたゾフィーが叫んだ。
「嘘よっ!」半ば半狂乱に近い状態になった。
両手で頭を抱え、意味不明な言葉を口走りながら泣き叫ぶ。
「皇妃様っ!」
フィーアが駆け寄り体を支えた。
「陛下が私を殺そうとしたって言うのっ!?」
「皇妃様、どうか落ち着いて下さい。この女の申すこと、まだ真実とは決まっておりません」
エルンストも必死に諭す。
「あたいが嘘言ってるって?冗談じゃないよっ。間違いないよ。皇帝は皇妃を殺したがってるって言ってたよ」
「お前のような下賤な女が知りえることではない。にわかには信じられんな」
その言葉にアメリーはむきになった。
「あたい聞いちまったんだよ。ゲルフェルトの旦那さんと執事さんが話してたところをさっ」
一同の視線がアメリーに集まる。
「側室が皇妃を殺したがってるから、殺すんだってさ。皇帝さんも同意したってさ。でゲルフェルトの旦那さんが娘によくやったって言ってたよ」
「それで、お前はゲルフェルト侯をゆする材料も手に入れたわけだな」
エルンストは口元を歪ませた。
「当たり前のことだろ。今回の仕事が上手く行ったら約束の三倍の金貨をくれるって言ったよ」
そんなアメリーをエルンストは無視した。
「エグムント殿、これで証拠は得られました。グレーテ及びゲルフェルト侯を皇妃暗殺の容疑で拘禁出来ますな?」
それに対し、エグムントは渋い顔をした。
「確かに拘禁は出来るが、果たして陛下が何と仰せになるか。陛下のお心次第ですな」
専制君主制の悪い所が出たとばかりに、エルンストは拳を握りしめていた。
「臣下や領民は法で裁けるのに、皇帝だけはそうはいかない。これが俺の守ってきた世界か」
「エルンスト殿、言葉を慎まれた方がいいですぞ」
エグムントはエルンストをたしなめた。
君主が善政をしいていれば問題はない。しかし国を私物化すれば、こうした歪みが生まれる。しかし、それを改善するすべはない。
―—いや、ひとつだけある。それは。
エルンストはそれを胸の奥に押し込んだ。
「あたいは皇妃を殺してないよ。だって生きてるじゃないか。それにあたいは執事さんの言いつけを守っただけなんだからさっ。だから家に帰しておくれよ」
命が惜しくなったようだ。
「黙れっ、痴れ者っ」
「何も知らなかったんだよ。まさかあの瓶に毒が入ってたなんてさ。あたいは皇妃を殺す気なんてなかったよ」
「そんな言い訳が通ると思うなよ」
怒りを抑えたエルンストの声は逆にアメリーの恐怖を誘ったようだった。
「助けてよ、あたいだって被害者なんだ」
泣きながらフィーアに助けを求める。




