皇妃暗殺 1
朝の光は二人に優しかった。
白く輝く光が部屋を満たし、天使が降りてくる錯覚にエルンストは瞳を閉じる。
祝福されているようだ。
傍らに眠るフィーアの額に唇を寄せる。
「う・・・ん」
ため息とも取れる言葉を漏らし、寝返りをうつフィーアの白い背中に、自分が散らした赤い花びらの数を確認するように指でなぞり、そして今だ夢の中にいるフィーアを背中から抱きしめる。
触れ合う肌が、昨夜の出来事をよみがえらせる。
あれは夢ではなかったのか。
エルンストはフィーアの肩に押された奴隷の焼き印にそっと口づける。
情欲を吐き出すだけのそれは虚しさが残るが、今は幸福に満たされていた。
フィーアの背中に頬をよせ、あらためて愛し合った余韻に浸っていた時——。
突然、扉を叩く音と自分の名を呼ぶ声。
「ご主人様、ご主人様!」
コンラートだった。
その声で目を覚ましたフィーアは慌てて体を起こす。いつもの部屋と景色が違うことに、一瞬驚いたようだったが、エルンストの笑顔を見つけると、ブランケットを体に巻き付けて頬を赤くしてうつむいた。
そんな姿が可愛いと思ったが、今は外にいる老人をなんとかしなければならない。
「お前はここにいろ」
立ち上がると、ガウンを羽織り寝室の内鍵を回した。
「どうされました。いつもは鍵など掛けられないのに」
どうでもいいことを聞いてくる。
「さあ、酔っていたから良く憶えていない。そんなことより、こんな朝早くに何だ」
「お城から早馬が参りまして、至急登城をとのことでございます」
「そうか、分かった」
扉を閉めようとすると、止められてしまった。
「フィーアがいないのです。一体どこへ行ったのでしょう」
今日は随分しつこいぞ。頼むから早く帰ってくれ。
そう思いつつも、
「百合の手入れでもしているのだろう。支度はひとりで出来るから、お前は下がっていいぞ」
「いえ、フィーアがいないのですから今日は私がお手伝いいたします」
エルンストは苛立ちを抑えるために頭をかいたが、本音が出てしまった。
「お前は気が利かんな」
「はっ!?おっしゃる意味がわかりかねます」
少し不機嫌そうな表情だ。
エルンストはコンラートの肩に両手をかける。
「すまん。この時間だとヘレナはお湯を沸かしているだろう。そっちを手伝ってやれ」
コンラートの背中を強引に押した。
「はあ?」
さっぱり訳が分からない。と言いたげな顔をしつつもコンラートは引き下がった。
扉を閉めるとエルンストはため息を吐く。
「まったく」
コンラートがいなくなったことを確認すると、メイド服を着たフィーアが恥ずかしそうに姿を現し、クローゼットから軍服を出してきた。
「こんな朝早くから一体何事だと言うのだ。せっかく昨日の余韻を楽しんでいたというのに」
だが、エルンストは知っていた。こんな時間に早馬が来るときは大抵凶事であることを。




