皇妃暗殺 2
エルンストが城に着くと、すでにファーレンハイトが駒寄で待っていた。
どうやら余程のことらしい。エルンストは眉を寄せる。
「閣下っ」
エルンストを見つけると、駆け寄ってくる。
多少のことでは動じない、ファーレンハイトが慌てている?
「どうした?」
落ち着きを装うことに失敗したファーレンハイトは、唾をゴクリと飲み込むと、
「皇妃様が幽閉されました」青い顔をする。
日頃冷静なエルンストでさえ、その言葉で全身が氷ついた。
「閣下の伯父上、ユンゲルス侯爵も一緒です」
「今すぐ陛下にお目通りするぞ!」
エルンストの声は怒気をはらんでいる。
「それが先ほどから願い出ているのですが・・・」
「俺が直接行こう」
マントをひるがえすと皇帝の居城へと歩きだしたのだった。
「皇妃を幽閉などと、正気のさたとは思えないっ」
「閣下、落ち着いて下さい」
「これが落ち着いていられるかっ」
大股で城の廊下を歩くエルンストの元に部下が走って来た。
「閣下、陛下へのお目通りが許されました」
「よしっ」
頷くと、エルンストとファーレンハイトはゲオルグの元へと急いだ。
*
女官の案内で、二人が通されたのは食堂だった。
ゲオルグは側室グレーテと朝の食事をしているところだった。
「陛下、皇妃様を幽閉されたと伺いました」
「朝から騒がしいぞ、エルンスト」
サラダを口に運びながら、ゲオルグはグレーテと見つめあっている。
「皇妃の裏切りによって幽閉したのだ」
「何を根拠にそう申されますかっ?皇妃様と姦通した男が捕まりましたかっ?」
「根拠だの、証拠だの余にはなんの意味もない。余が決めたのだ」
グレーテの甘言であることは疑う余地もなかった。エルンストは爪が皮膚に食い込むほど拳を握りしめた。
「皇妃様は、誰より陛下を大切に想っておられました」
「さて、どうだろうか」
「陛下っ!」
感情的になったエルンストをゲオルグは取り合わない。
それどころか、グレーテが口を挟んできた。
「話はこれで終わりよ。お下がりなさい。そもそも、シュバルツリーリエの団長だからと、こんなところまで押しかけて大声で喚き散らして無礼であろう」
もはや皇妃然として、忌々しそうにエルンストを睨んでくる。
小娘がっ。エルンストは苦々しげにグレーテに視線を返す。
「おおそうであった。そなたは皇妃様の従兄妹であったわね。皇妃様の姦通罪が成立したあかつきには、その身柄を捕縛する役目、そなたにさせてあげましょう」
わなわなと震えるエルンストの腕を抑えたのはファーレンハイトだった。そうでもしないと、今にも殴りかかりそうな勢いだ。
「騎士団長は礼節もわきまえない、不埒者のようですね。そなたの名声にてこの場は免じてやるが、二度とその顔、私に見せるでないぞっ。お下がりなさい」
グレーテの剣幕に、ゲルフェルトもため息をつく。
「もう下がれ、エルンスト」
顔の前でしっしっと手を払い、退室を促したのだった。
全身に不満をみなぎらせながら敬礼すると、エルンストは食堂を辞した。
陛下は完全にグレーテに骨抜きにされている。
確かに美しい娘ではあったが、性根の悪さが顔に出ていた。
何故あのような娘の言いなりになるのだ。
エルンストは唇をかみしめたのだった。




