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ひと夜 4

 エルンストが屋敷に帰って来たのは五日ぶりのことだった。


 それは日付が変わる少し前。


「今日もご主人様は、あまり食事をされなかったね」


 ルイーザは食べ残しを捨てている。

 フィーアとルイーザは最後の片付けをしていた。

 ヘレナは腰痛が酷いと、早々に自室へと引き上げていた。


 ゾフィーの依頼を受けて早数日。時々、屋敷には帰って来ていたけれど、こんなに日をあけたのは初めてのことだった。


「大変な問題を抱えていらっしゃるみたいなの」

「へぇ、騎士って戦っているだけじゃないのね」

「毎日戦いがあったら、それこそ大変よ」

「あぁ、それもそうね」

「私にもあまり詳しくはお話されないから、よくは分からないのだけど」

「上級貴族様は大変ね」


 ルイーザの嫌味にフィーアは黙って笑顔を作るだけだった。


 実際最近のエルンストは、屋敷に帰って来てもあまり食事を取らないし、口数も減っていた。

 傍にいて、何の役にも立たない自分の不甲斐なさがフィーアの心を重くする。


 仕事の話は機密に関わることもあるし、話せないのだろうけれど。

 でも、せめて屋敷にいる間は仕事を忘れ、安らいで欲しいと思うフィーアだ。


「フィーア、あたしもそろそろ上がるわ。後の戸締りよろしく」

「うん、お疲れさま」


 ルイーザを見送ると、調理場の火が完全に消えているかを確認し、勝手口の鍵を閉める。

 台所の灯りを消し、ランタンを手にすると自室へと向かう。

 階段を登り切った先、三階のエルンストの両親が使っていた部屋の扉が開いているのに気づく。


 お掃除の後、閉め忘れたかしら?

 

 不審に思い中を覗くと、家紋が刺繍された重厚なソファーにエルンストが座っていた。

 視線はどうやら窓に向けられている。


 灯りをつけず、月明かりに照らされたエルンストの顔は青白く、どこか寂しげで儚そうに見える。


 この方こそ、私を置いてどこかへ消えて無くなりそう。


「エルンスト様」


 静かに語り掛けるように声をかけると、エルンストは無言でフィーアに視線を向けた。


 今夜のエルンスト様は、いつものエルンスト様じゃない。

 心がざわめいた。それは不安とも違う言いようのない感覚。


 呼びかけにエルンストからの答えはなかった。

 

 しばらくの沈黙が二人の間にあった。

 時間は重くゆっくりと流れているようだった。


 フィーアは頭を下げて部屋を出て行こうとした。その時。


「フィーア」

 

 背中にエルンストの声が聞こえたのだった。



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