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45.街中で起きた奇跡

見つからない様に行くのは無理なのではないかと思っていたが、私とマリクは無事に城の外へと出る事が出来た。


マリクの言う通り、城の中の警備の数が前よりも減っている様な気がする。

不思議に思いながらも、私はマリクと一緒に移動馬車へと乗り込んだ。


ガタガタと音を立てて進む馬車の中で、マリクはホッと吐息を溢した。


「無事にねえちゃんに会えて良かったよ」


「危ない事をさせて、ごめんね」


「良いんだ!ただ、薬なんだけど……」


「あるよ!家に保管してある分が、まだ残っているの」


「うん……」


何故かマリクの口が重くなっていく。

私は首を傾げた。


「どうかしたの?」


「……あのさあ。ねえちゃんはもう、薬を売る仕事はしないの?」


「えっ?どうして?」


「だって、城で生活しているだろ?急に生活を変えられると、俺達だってさ……」


「売るよ!今、城での仕事を任されているだけなの。だから今度からは、空いている時間に薬を売りに行くね」


「分かった。それなら良いんだけどね」


マリクはようやく納得した様だった。

私が困っている時に、パッと手を差し出してくれたマリク。

この子が望むのなら、いつまでも薬を売り続けたいと思っている。


「ごめんね。高い薬を買わせちゃった?」


「それなんだけどさ……。なんか俺達、ねえちゃんの不味い薬に慣れすぎて、普通の飲んでもイマイチなんだよな……」


「不味い薬……」


久しぶりにマリクのグサッとくる発言が来た。

相変わらず、酷い。


「実はさ。あの不味い薬のお陰で、良くねえちゃんから薬を買ってる人達とも仲良くなってさ。なんて言うの?運命共同体みたいな、不味い薬仲間みたいな感じでさ。俺達にも出来る仕事とか、回して貰えたりしてるんだぜ」


「ええ!そうなの?なんか、私の薬も意外と役に立っているんだね!」


「うん、そうなんだよね。だからって訳じゃないけど、他の人達もねえちゃんが居なくなった事、凄く心配してたよ」


「そっか……。なんか悪い事しちゃったな……」


そんな事になっていただなんて、全く考えてもいなかった。

毎回欠かさずに買いに来てくれていた人達に、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


私は急いで家に帰ると、マリクに手伝って貰いながら保管してあった薬を全部、荷車に乗せた。

そして、それを持って広場へと向かって行く。


今日は火風の日なので、本来なら調合の日だ。

いつもは販売しない日なので、お客さんの姿はない。

それを見たマリクが、みんなを呼びに行って来ると駆け出して行った。


私は、荷車に乗ってる薬を見つめた。


もう私を迎えに来てくれる人は誰もいない。

私はずっと此処で生きて行くしかない。


そんな中で、私を大切にしてくれている常連さん達には感謝の気持ちでいっぱいだ。


「皆んなが、幸せであります様に」


私は薬を買ってくれるみんなの為に、祈りを捧げた。


「ねえちゃーん!」


お友達と一緒に走って来るマリクの後ろには、常連さんの大人の人達の姿もあった。

私の顔に笑顔が戻る。


常連さん達は私に歩み寄ると、笑顔を見せた。


「勘弁してくれよ、サナちゃん。急に居なくなったから、皆んなで心配したんだぜ」


「そうそう。お店を休む時は、ちゃんと知らせてからにしてくれよ」


私が薬を売りに来たと聞いた孤児院の人や六十人近い人達が、集まって来てくれた。

私はこんなにも沢山の人に支えられていたのだ。


「ごめんなさい!これからも、よろしくお願いします」


ペコリと頭を下げると、皆んなから拍手が沸き起こった。

そして次から次へと薬が売れて行く。


孤児院の人は子供達用の薬を持って帰って行ったが、薬を買った他の人達は、今日は直ぐに帰る事をせず、全員で薬を片手に集まり始めた。


「よし!全員買ったな。それでは、サナちゃんの復帰を祝って、かんぱーい!」


「「かんぱーい!!」」


コツン!っと瓶と瓶をぶつけて乾杯をした皆んなは、一気に薬を飲み干した。

そして皆んなでプハーッと息を吐き、良い笑顔を見せる。


「相変わらず、不味い!」


「やっぱり、この不味さだよな」


「そうそう。癖になる不味さだ!」


「「あははは!!!」」


六十人以上が集まった品評会は、マリク達の品評会と大して変わらない。


「もう!一生懸命作ってるのに、皆んな酷い!」


プックリと頬を膨らませた私を見て、ますます皆んなが楽しそうに笑う。

そして私も、みんなにつられて笑い始めた。


……その時だった。


集まっていた人達の体から、パァーッと金色の光が溢れ出した。

その光は一斉に発光して、直ぐに消えて行く。


私達は、一瞬の出来事に茫然としていた。


「なんだ?今の光……」


「分からん。一体なんだ?」


キョロキョロと辺りを見回す皆んなを前に、私はハッとした。


(まさか……)


私は大人達と一緒に辺りを見回しているマリクへと視線を移した。


「マリク!邪紋は何処にあるの?」


「えっ?なんだよ、急に……」


「良いから!早く見せて!」


「えっ?……まあ良いけど」


マリクは服を捲ってお腹を見せる。

 

「ほら、これだよ」


見せてくれたお腹には邪紋は見当たらない。

綺麗な肌色のお腹だけだった。


「無い……」


「えっ?」


「邪紋が無い!」


「ええ?」


マリクは慌てて自分のお腹を見てみた。

お腹に大きく広がっていた邪紋が綺麗さっぱり無くなっている。


「無い!俺の邪紋が無くなってる!!!」


マリクの言葉に、集まっていた常連さん達が、慌てて自分の服を脱ぎ始めた。

そして、驚きと笑顔を見せる。


「無い……。俺の邪紋も無くなってる!」


「無いぞ!邪紋が無くなった!!!」


「「やったぁ!!!!」」


みんなの歓喜の声が、周囲に響き渡った。

抱き合いながら喜びを見せる皆んなに、私はポロリと涙を流した。


嬉しかった。

大切な皆んなから邪紋が消えた事が、とても嬉しかった。

嬉し涙を流したのは、いつぶりだろう。


ただ、不思議な事がある。

涙を拭った私は、まだ売れていなかった薬を手に取ってみた。


この薬は、だいぶ前に作った物だ。

今まで売っていた薬と何ら変わりはない。

特にいつもと変わらない同じ薬の筈なのに、どうして邪紋が消えたのか。

その理由は、全く分からなかった。


大騒ぎになった広場では、彼らの騒ぎを聞きつけて、沢山の人が集まって来ていた。


ハッとしたマリクとその友達達が、私の腕を強く引いた。


「ねえちゃん、やばい!逃げるぞ」


「急いで、早く!」


「えっ?どうして?」


ふと顔を上げると、膨れ上がった人の波が、一気に押し寄せようとしている。


「薬!俺にも、邪紋が消える薬をくれ!」


「どれだよ。邪紋が消える薬は!!」


ロッチアに作って貰った荷車や看板は、押し寄せて来た人の波にグチャグチャにされて行く。

ガシャーン!っと、瓶が割れる大きな音も聞こえて来た。


「私の荷車が!」


「もう無理だ。諦めろ!」


慌てた顔の常連さん達が、戸惑う私を急いで裏路地へと導いてくれた。


「逃げろ、サナちゃん!早く行け」


常連さん達は、私達が入った裏路地に急いでバリケードを築くと一斉に逃げ出した。


私もマリク達と一緒に、裏路地を駆けて行く。

小さな体を使って、細い道や小さな穴を潜り抜けながら逃げ続けた。



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