43.黒の砦の聖女
戦場から離れた後、数日間、魔力で速度を上げた馬達を走らせ続けた黒の砦の騎士達は、無言のまま砦へと戻って来た。
後ろを振り向けば、漆黒の門が急ぎ閉じられて行く。
砦の壁の上は、城に残った騎士達で厳戒態勢が敷かれている。
見ただけで分かる。
砦を守る騎士達の士気が異様に高い。
目と目で会話をした騎士達は、城を目指して馬を走らせた。
城へと到着した騎士達は、そのまま室内訓練場へと集められた。
誰一人口を開かぬまま整列する騎士達の前に、カリムが姿を現した。
「我が騎士達よ。無事な帰還に感謝する。この砦は今、厳戒態勢を敷いている。各自、暫しの休息の後、直ちに持ち場へと復帰せよ!カムネッカ王国を含む、全ての国の者達を、この砦へと近付けるな!」
騎士達は、一斉に踵を鳴らして了承の返事を返した。
だが、その顔には少し戸惑いがある。
何故急に、他国からの侵略に警戒するのか。
それはやはりあの不思議な光景が関係しているのだろうか。
彼らの戸惑いを感じ取ったカリムが、再び口を開く。
「お前達の戸惑いは分かっている。だがこれは、我が国の未来を賭けての防衛戦となるだろう。お前達も、あの不思議な光を見た筈だ」
騎士達は、あの時の事を思い出していた。
自分達の場所からは、カリムが戦場の何処にいるのかは確認出来なかった。
しかし命令を受けたのだからと、全員で急ぎ安全な場所まで後退し、待機していた。
そんな彼らは少し離れた場所から、不思議な光と光景を目撃した。
戦場に波紋状に広がっていく光に触れた敵があっという間に消滅していく。
そして、それと相反する様に、戦場に倒れていた騎士や兵士達が次々と立ち上がっていったのだ。
茫然とその光景を見ていた彼らに、カリムからの砦への即時帰還が命じられた。
あの光はなんだったのか。
彼らの疑問に応える様に、カリムが口を開いた。
「あの不思議な力は、聖女の力。カムネッカ王国より我が砦へと幽閉されたサナこそが、真の聖女だったのだ!」
ロッチアは目を見開いた。
(あの力が……サナの力?)
それはおかしい。
何故サナがいない筈のあの戦場で、そんな力が使われたのか。
何かの間違いでは無いかと、ロッチアは口を開く。
「お待ち下さい、殿下。サナは砦にいたのでは無いのですか?」
「……あの時、私がサナを戦場へと連れて行っていた。悲惨な戦場の光景を見たサナの力が暴発したのだ」
「暴発……。サナは無事なのですか!?」
「あれだけの力を爆発的に使ったサナは、未だ眠りに就いている。だが、この砦の回復魔導師達が全力で回復をかけているから、身体に問題は無い。ロッチア。お前は、これが終わったら直ぐに、ヌェイリブの所へと行け。話がある」
「……ハッ!」
了承したロッチアから、カリムは立ち続ける騎士達へと、視線を戻した。
「お前達の戸惑いは理解している。だが、なんとしてでも、サナはこの砦で守らねばならない。その理由はこれだ!」
カリムは、バッと上半身の服を脱ぎ捨てた。
突然の行動に驚きを見せていた騎士達は、やがて不思議な事に気がついた。
カリムの体に現れていた筈の、邪紋が見当たらない。
まさか……と言う気持ちが湧き上がる。
「そうだ。サナの力さえあれば、邪紋を打ち消す事が出来る。だが、聖女の力を目の当たりにした他国の者達は、そんな事は関係無く、サナを手に入れようと押し寄せてくるであろう」
騎士達がギリッと奥歯を鳴らした。
カリムの言いたい事を理解したからだ。
他国にとっては、邪紋を消す事よりも、国のシンボルとして聖女を城に匿う事の方が優先される。
連れて行かれたら最後。
邪紋を消す事はおろか、二度と会わせては貰えなくなる事は目に見えている。
「サナを護り、そしてこの国から……この世界から邪紋を無くす!それが、我らの望みであり、希望でもある!」
「「おおお!!!!!」」
騎士達は拳を上げて、大きな声を上げた。
「サナは、黒の砦の聖女である!」
「「おおおお!!!!!」」
建物が揺れたのではと思う程の、大きな声が響き渡った。
ロッチアは、ギュッと握り締めた両手を見つめた。
(邪紋を消す事が出来る……)
彼の中で諦め掛けていた思いが、再び再熱する。
様々な男達の想いと共に、黒の砦は固く閉ざされ続けるのであった。




