30.大切な人達を失った日
次の日の朝。
私は朝一番で城へと向かっていた。
昨日家に帰ってから、ずっと泣きながら一人で考えていた。
でもどうしても、私がロッチアに嫌われた理由が分からなかった。
(もう一度、ロッチアと話をしよう。もしかしたら、何か誤解があるのかもしれないし)
城の中に入った私は、騎士団の方へと向かおうとして、その足を止めた。
(どうしよう……。なんか、怖い)
勇んで乗り込んで来たまでは良かった。
でもいざとなると、足が重くなってしまう。
(もしかしたら、ヌェイリブさんが何か聞いてくれたかも)
昨日の様子から、私とロッチアの事を気にしてくれたみたいに見えた。
家に帰ってから、ロッチアと話をしてくれたかもしれない。
私はロッチアに会う前に、ヌェイリブさんの所に行く事にした。
ヌェイリブさんの執務室に入って行くと、私の姿を見たヌェイリブさんが驚き、そして視線を下に移してしまった。
(なんだろう……。なんか、ヌェイリブさんも変……)
不安になった私は、そこから一歩も動く事が出来なくなった。
そんな私を見て、ヌェイリブさんは立ち上がると、歩み寄って来た。
「サナ。少し話がある。ソファーに座ってくれ」
「はい……」
私がソファーに着くと、ヌェイリブさんは真剣な眼差しで私を見つめた。
「単刀直入に言わせて貰う。城での薬の販売と、我が家への出入りを今後控えて貰いたい」
まさかの言葉に、全身の血の気がサァーッと引いて行った。
「ど……うしてですか?」
辛うじて出せた言葉に、ヌェイリブさんは首を振った。
「すまないが、理由を話す事は無い。しかしこれが、一晩考えた私の決断だ。ロッチアにはこれ以上、関わらないで欲しいんだ。頼む」
ヌェイリブさんは、深々と頭を下げた。
「親として、あいつを守ってやりたいんだ。どうか、受け入れてくれ」
「……分かりました」
立ち上がった私は、ヌェイリブさんに頭を下げた。
「今まで、本当にありがとうございました」
「いやっ!勘違いをしないでくれ。ロッチアのいない時間帯なら、マノアに会いに来てくれて構わない」
「分かりました。ですが、暫くはそれもやめておきます。本当に、すみませんでした」
もう一度頭を下げた私は、ロッチアから預かっていた入場許可証をヌェイリブさんへと渡し、直ぐに部屋を後にした。
どうしても納得出来ないし、全然気持ちの整理が出来ない。
しかし何度聞いたとしても、理由を教えて貰える事はないだろう。
ヌェイリブさんがあそこまで言うのだから、それ相当の理由があるのだと思う。
(どうして急に、こんな事になったんだろう……)
いくら考えても、答えはやっぱり見つからなかった。
私は門から出る前に、もう一度後ろを振り返った。
入場許可証を返してしまった今、この門を簡単にくぐる事は出来なくなってしまった。
ロッチアに直接会いに行く事も、もう出来なくなってしまう。
もう一度会いたいと言う気持ちに後ろ髪を引かれながら、私は前を向いて城の門をくぐり抜けた。
「ねえ、あなた。ちょっと待って!」
城から出た私は、後ろから駆け寄って来た一人の人に呼び止められた。
振り返ると、山吹色の髪をした、私より少し年上の女性と、その後ろには数人の女性達がいた。
「あの……。なにか?」
「貴女がサナ?私のロッチアに纏わり付いているって聞いたんだけど!」
「えっ!?」
私の……ロッチア?
その言葉に、私は愕然とした。
一言も話せない私に、彼女達は口々に私を責め立てた。
「貴女、レミナ様とロッチア様が婚約者だって知らないの?」
「レミナ様が学習院に通っている隙に、ロッチア様に近付くだなんて。なんて図々しい人なの!」
「身の程を弁えなさいよ!」
後ろにいる女性達の言葉を背に、レミナさんは、私をジッと見つめた。
「貴女とロッチアの噂を聞いたのよ。ずっと貴女を探していたんだけど、なかなか捕まらなかったの。でもこれで、分かってくれるわよね。ロッチアには、もう二度と近付かないで!」
「……はい。彼には、もう会いません。彼に貴女の様な方がいるだなんて知らなかったんです。本当に、ごめんなさい」
私は彼女達に頭を下げると、馬車の停留所に向かって歩き出した。
(婚約者がいたんだ……)
ようやく自分の中で、ロッチアの急な態度の変化に納得がいった。
学習院に通っていた婚約者の人に、私の事が伝わってしまったからだったんだ。
ヌェイリブさんの家柄から言って、ロッチアに婚約者がいてもおかしくない。
私の事が原因で、家同士の問題になってしまったのかもしれない。
(何も知らないで、一人でドキドキしていただなんて……。私、馬鹿みたい……)
窓に映った私の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちていった。
私は今日、失恋をした。
それと同時に、大切な人達を失った。
(もう、あの人達に迷惑は掛けられない)
私はこの街で……この世界でたった一人になってしまった。
私には、もう誰もいない。
誰も知り合いはいない、頼る人もいないこの世界は、私には孤独過ぎた。
(こんな所になんて、来たくなかった!)
いくら泣いても叫んでも、私の孤独が変わる事はなかった。
ただ生きる為だけに、機械の歯車の様に働き続ける。
絶望しかない私の生活は、それから一ヶ月半も続いて行った。
そんな身も心もボロボロになっていた私の前に、突如として、あの人が現れたのだった……。




