31.困った人達
明るい朝日の光に誘われる様に、ロッチアはベッドから体を起こした。
大きく伸びをして体を伸ばし、そしてベッド横にあるサイドテーブルを見つめる。
そこに置いてあった回復薬を手に取り、一気に飲み干した。
「……まずっ」
相変わらず不味い。
パァーッと広がっていく回復薬の効果を、瞳を瞑ってしっかりと感じ取った。
あれから二ヶ月近く経ったが、サナには一切会っていない。
それでも彼女を感じていたくて、サナの知らない友達を使って、自分の分の回復薬を買いに行って貰っている。
友達が言うには、サナは元気そうだと言っていた。
でも、サナに会った事がない人が見て元気そうに見えても、本当は違うかもしれない。
自分の目で見て確かめたいけど、会いに行く訳にはいかない。
まだ自分の心の中に、彼女を思う気持ちが残っているからだ。
会いたいけど会いに行けない。
葛藤の日々は続いている。
(あいつ、大丈夫かな。……マノアさんなら、分かるかも)
ロッチアは服を着替えると、ダイニングへと向かって行った。
用意されていた朝ご飯を食べながら、チラリと横に座るヌェイリブを見る。
彼は朝食を終えており、身支度をする為に立ち上がるとダイニングから出て行った。
それを確認したロッチアは、パパッと朝食を食べ終えると、使用人と共に後片付けをするマノアへと視線を移した。
「あ……あのさ」
「ん?どうしたの?」
「……あいつ、最近どう?」
「ごめんなさいね。私には、分からないわ……」
「あっ!いや、別に……。ちょっと聞いてみただけで……」
ロッチアは慌ててその場から立ち去った。
二人が自分の為に、サナの事を思い出させない様にしてくれている事は感じていた。
だからなんとなく自分も、サナの事を口に出す事はなかった。
マノアには会いに来ているのかもと思っていたが、どうやらそれすらない様だ。
やっぱり少し心配になる。
「おーい、ロッチア。そろそろ行くぞ」
「あっ!ちょっと待って!今、行く」
返事を返したロッチアは、直ぐに支度を済ませ、ヌェイリブと一緒に城へと向かって行った。
もう少しで城だという時、嫌なものを発見する。
ロッチアの眉間に深い皺が寄った。
「ロッチア!」
駆け寄って来た女は、ロッチアの腕にその手を絡ませた。
無言で顔を引き攣らせるロッチアの横で、苦笑いのヌェイリブが口を開いた。
「おはよう、レミナ。今日も学習院に行く前の挨拶運動かな?」
「おはようございます、ヌェイリブ様。ロッチアに挨拶をしたので、これから学習院に向かいますわ」
「ああ、そうか……」
「鬱陶しいんだよ。引っ付くな!」
ロッチアは、掴まれている腕を無理矢理引き離すと、ズカズカと歩いて行く。
「いやん!婚約者に対して酷い!」
「誰が婚約者だ。勝手に決めるな!」
「ええ!ヌェイリブ様は、私とロッチアの婚約を認めて下さっていますよね?」
「うーん。それは前にも断った様な……」
「何度も断ってんだろうが!この女、妄想癖でもあるんじゃねえの?学習院に行く前に、病院に行け!」
ロッチアはレミナを無視すると、サッサと城の中へと入って行った。
見るからに機嫌悪く歩いて行くロッチアの背に、ヌェイリブは深いため息をつく。
(これはまたバーレスに苦情を言わんとな……)
困ったものだと、自分の家の馬車へと向かって行くレミナを見送った。
バーレスはヌェイリブの同僚にあたる男なのだが、昔から自分の娘にはロッチアを!と言い続けている。
それは、ロッチアが将来有望な騎士として城に仕え始めてからは、一段と酷くなった。
お陰でレミナも完全にロッチア一筋で、いくら断っても諦めない。
ロッチアはレミナがあまり好きなタイプでは無いらしく、どれだけレミナがアプローチしても気にも止めていない。
とても鬱陶しい存在としてしか、認識していない様だ。
早く諦めて欲しいものだが、父親が焚き付けている為、これからもレミナの態度は変わらないだろう。
(それでなくても、恋愛関係の話は、今のロッチアにとって地雷でしかないのに……)
ため息をついたヌェイリブの頭に、ふとサナの姿が浮かび上がって来た。
あれからずっと、サナは姿を現してはいない。
マノアには会いに来ているかと思ったが、やはりそれすらない様だ。
少し心配になったので、お金を使って雇った者に調べさせたが、普通に薬を売って生活をしているらしい。
家と広場と市場への往復の毎日だと伝えられた事で少し安心した。
仕方がない事なのだと思う反面、若い二人の傷付いた心を思うと、ヌェイリブも辛くなってしまう。
だからこそ、暫くの間ロッチアをそっとしておいて欲しいものなのに……。
(一度、アイツにはキツく言っておかないとな)
その瞳を険しくさせたヌェイリブは、執務室へと向かって行った。




