22.黒の砦の王子様
騎士の皆さんを相手に薬を売っていると、ヌェイリブさんもやって来た。
「サナ。俺にも一本くれ」
「はい!」
薬を手渡すと、ヌェイリブさんも一気に飲み干した。
そしてその顔を思いっきり顰めた。
「本当に不味いな……。なんでだ?効能はAランクだし、サナの作り方に間違っている所は無い筈なんだがな……」
不思議そうに瓶を見つめるヌェイリブさんは、考え込んでしまった。
この味が改良されるのなら、いくらでも考えてください。
そして、解決策を導き出して欲しい。
祈りを込めて見つめる私に視線を移したヌェイリブさんは、空の瓶を私に渡しながら笑顔を見せる。
「うん。分からん」
かなりガッカリとさせられた。
「ちょっと期待したのに……」
「いや。こればっかりは、サナの技量が問題だとしか言いようがない」
「酷い!」
プウッと頬を膨らませると、ヌェイリブさんはハハッと笑って誤魔化した。
「ヌェイリブ。これは、なんの騒ぎだ?」
突如として後ろから掛けられた声に、ロッチアと騎士の人達が慌てて礼を取った。
濃い藍色の髪に、ダークグリーンの瞳。
長袖から出た手の甲には、漆黒の蔓が見受けられる。
服の色は皆と同じ黒色だが、上質な生地を使っており、とても偉い立場の人なのだと、一目で分かった。
「カリム殿下。こんな場所で何をなさっていらっしゃるのですか?確か今は、勉学の時間だったと思いますが?」
「細かい事を気にするな。それよりも、その少女は?」
「はい。この少女が、カムネッカ王国から送られて来た少女です」
「ああ!この娘が、カムネッカ王国の王族に対して不敬を働き、幽閉の判決を受けた犯罪者か」
カリム殿下の言葉に、幽閉の理由を聞いていなかったロッチアが驚きながらサナへと視線を移した。
「王族への不敬って……。お前、一体何をやったんだよ」
「そ、それは……」
口籠るサナに、ロッチアがまさかと口を開く。
「まさか、このクソ不味い薬を飲ませたのか!?」
「ち、違うもん!ちょっと突き飛ばしちゃっただけだもん!」
ハッとしたサナは、慌てて口を両手で塞いだ。
しかし、時すでに遅し……。
タラタラと冷や汗をかきながら、目の前で茫然とするカリム殿下とヌェイリブさんの顔を見た。
サナが王族に対して不敬を働いたことは聞いてはいたが、突き飛ばしたとは知らなかったヌェイリブは、驚きを隠せない。
「サナ……。突き飛ばしたって誰を?なんで、そんな事を……」
「だって……。私はあの人が、第一王子様だって知らなかったの。思いっきり突き飛ばして尻餅つかせちゃったけど、悪気があった訳じゃなくて、私の大事な物を王子様が踏んでいたからで……」
みんなに嫌われたくなくて、一生懸命説明をしてみたが、人気の高い王子様を私が突き飛ばしてしまった事実は消えない。
ロッチアもヌェイリブさんも、もう二度と私と話をしてくれなくなってしまうかもしれない。
そんな恐怖が私を襲い、ジワッと涙が溢れ出て来た。
その時、カリム殿下が口を開いた。
「あの第一王子を突き飛ばして……尻餅をつかせた……」
唖然としていた殿下は、言葉を反芻させると、次の瞬間、お腹を抱えて笑い始めた。
殿下の笑いを筆頭に、集まっていた騎士達が次々と大声で笑いはじめる。
茫然とその光景を見つめていた私に、必死に笑いを堪えたカリム殿下が、顔を向けた。
「其方、名はなんと言う」
「サナと言います」
「サナか。気に入った。覚えておこう」
笑い続けるカリム殿下は、クスクスと笑う従者の人と共に、この場から去って行った。
(あれ?気に入られた?)
いまいち状況が理解出来なかった私は、ロッチアへと視線を移してみた。
ロッチアはお腹を押さえながら、地面にしゃがみ込んでいる。笑いが止まらずに苦戦している様だ。
ヌェイリブさんも顔を真っ赤にさせながら、なんとか笑いを堪えようとしている。
向こうのお城の人達とは違う反応に、なんだか戸惑ってしまう。
笑いからようやく復帰した騎士達が、満面の笑顔を私へと向けた。
「いやぁ!今日は気分がいいな。そうだ!縁起の良いサナちゃんの薬を、もうひと瓶貰おうかな」
「あっ!俺も!」
「あっ!俺も、もうひと瓶、買う!」
「えっ?あ、あの……。ええ??」
私は戸惑いながらも、持って来た薬の百本を全部売り切った。
「いつでも遠慮なく、薬を売りにおいで」
何故か騎士団長様から特別な許可まで貰った私は、首を傾げながら、マノアさんの待つ家へと帰って行った。
夕飯の時に顔を合わせたロッチアとヌェイリブさんは、思い出し笑いに忙しい。
「なんで笑うの?」と尋ねてみたが、笑っているばかりで答えは教えて貰え無かった。
明日の朝の朝食を包んで貰った私は、遅くなる前に、家を後にした。
よく分からないけど、皆んなに嫌われなくて良かったと思う。
私はこの黒の砦で、なんとか落ち着いた生活が出来るようになっていった。




