20.初めてのお客様
「ねえ、お姉ちゃん。このAランクの薬、本当に千ニ百リェンなの?」
サナが呼ばれて振り向くと、十歳くらいの男の子が看板を見ていた。
「うん!だけど、味が不味いの。でも、効能だけは、鑑定士さんのお墨付きだよ!絶対に偽物じゃないよ」
「ふーん。……それじゃあ、Aランク頂戴。俺、飲んでみたい」
「うん!はい、どうぞ」
サナがお金と引き換えに薬の瓶を渡すと、男の子は瓶に明記されている文を読み始めた。
そして瓶を開けて飲んでみる。
「ウゲッ!マズ……」
ベッ!と舌を出したものの、男の子はそのまま薬を飲み込んだようだ。
うーん。と言いながら、自分の体内に広がる効能を感じ取り、確かめているようだった。
「お姉ちゃん、後ニ本頂戴!」
「うん!ありがとう」
男の子はAランクの薬を二本買うと、足早に去って行った。
「ロッチア、売れたよ!」
「ああ。良かったな」
「うん!」
なんだかとても嬉しかった。
遠巻きに見ているお客さん達も、どうしようか悩んでいるようだ。
「いらっしゃいませ!回復薬は、如何ですか?味は美味しくありませんが、効能だけは鑑定士さんのお墨付きです!」
なかなか売れないままニ十分ほどが経った頃、先程の男の子が、三人の大人を連れて戻って来た。
「このお姉ちゃんだよ!」
息を切らせた大人達が、立ち止まって看板を読み始めた。
サナは、再び呼び込みの言葉を口にした。
「いらっしゃいませ!回復薬は、如何ですか?味は美味しくありませんが、効能だけは鑑定士さんのお墨付きです!」
「あ、あの。本当に先程の薬が千ニ百リェンなのですか?」
「はい。味が美味しくないので、正規店で売る事ができないのです。だから、ここで格安で売っています」
「そうでしたか!それならあと三十本頂けませんか?私どもは、孤児院を開いているのですか、子供達に飲ませたいのです」
「はい!あっ。でも、とても不味いですよ?子供達は嫌がるかも……」
サナが眉を下げると、先程の男の子が自信満々に答えた。
「そんなヤワなガキは、あそこには居ないよ。だから平気!」
にっこりと微笑まれたサナは、コクリと頷きを落とした。
そして、三十本の回復薬を手渡した。
「お買い上げ、ありがとうございました」
頭を下げたサナは、手を振りながら帰って行く男の子に、目一杯大きく手をふり返しながら見送った。
そして少し心配げに、ロッチアへと視線を移した。
「あの薬、子供が飲むんだって……。飲めるのかな」
「確か八歳位までは、飲む量は瓶の半分で良かった筈だ。ひと飲みするくらいの量だから、我慢できるだろ」
「そっか。それなら、よかった」
本当なら美味しい薬をあげたかったのだが、不味いのしか作れないので仕方がない。
気を取り直したサナは、呼び込みを掛けようと前を向いて少しビックリとした。
先程まで、遠目から見つめていたお客さん達が、割と近くまで近付いて来てくれていた。
「いらっしゃいませ!回復薬は、如何ですか?味は美味しくありませんが、効能だけは鑑定士さんのお墨付きです!」
もう一度声を掛けると、数人の人が歩み寄って来てくれた。
瓶を持って、明記されている鑑定士の名前とランクを確認している。
「……じゃあ、Aランクを一本」
疑いは拭いされなかった様だが、先程の大量買いを見て、買ってみる事にしたようだ。
それを見てもう一人のお客さんも、声を上げた。
「俺も、一本」
「はい!ありがとうございます!」
この二人を皮切りに、サナのお店には沢山の人が押し寄せて来た。
沢山あった薬が一気に無くなっていく。
午前中だけで、Bランクの回復薬まで、全て綺麗に売り切れた。
「ロッチア!全部売り切れた!」
「やったな、サナ!」
「うん。ありがとう!」
こうして、サナのお仕事は順調にスタートを切る事ができた。
ちなみに、この世界にもカレンダーが有り、一週間は七日間ある。
月石、火風、水葉、木花、金暦、土龍、日祭の七日間だ。
とても覚え難いので、私は日本風に、月火水木金土日と言っている。それでもこの世界の人に通じるので、とても助かっている。
無理なく継続して仕事をして行く為に、広場での販売は、月、水、金の三日間。火、木、土は、薬作りの日にして日祭だけがお休みの日とした。
販売の日は、午前中だけ。午後からは、瓶の返却と新しい瓶の購入、薬の材料と食事の材料の買い出しをしている。
薬を作る日は、朝から調合、午後は鑑定士さんの所で鑑定をして貰って帰って来ている。
薬の入っている瓶だが、皆んな鑑定事務所から買っている。
使用後の瓶は、鑑定事務所のみが扱う特別な製法で処理をすると、再利用が可能となる為、回収もしてくれている。
一般人の持ち込みは無料での回収となるが、作成者の持ち込みは、十本で返金二百リェンとなる為、私もなるべく回収して持って行っている。
そして、私の薬を買ってくれたお客さんにも還元する為、私の名前が入った空き瓶を持って来ると、その場でひと瓶十リェン返金するようにしている。
瓶を持って来ながら、次の薬を買う。
リピーター確保の為、この還元はかなり役に立っていた。
二週間後の日曜日。
ようやく仕事も軌道に乗り、私はやっと自信を持って、マノアさんとヌェイリブさんの所に挨拶に行けた。
久しぶりに二人の顔を見た私は、数年ぶりに会ったかの様にワンワンと泣きながらマノアさんに抱き付いた。
その日は目一杯、マノアさんとヌェイリブさんに甘えてから、家に帰った。




