第62話 ホワイト企業の闇④
先日の居酒屋の一件以降、田野島が無駄に懐いてくる様になった。
いわく、俺の事を「ラブの意味で」好きらしい。かといって別に何かしてくるわけでも無いのだが…
「しのぶさん!ねぇ、これ見て!」始業前に田野島は俺に女性誌のコスメ特集ページを見せに来た。
「最新コスメ…へぇ。ラクそう」
「しのぶさん、今のメイクにしてから出来るだけ簡単なのが好きでしょ?これ、絶対似合うから!」
「買ってみようかな」
「じゃあ私も買おうかなー…ふふっ」
「えーお揃い?」
「いいじゃないですかぁ」
…いや、なぜ俺はメイクの話で盛り上がっているんだ!やめろ!
「…田野島さん。それより今日の訪問準備はできてるの?」
仕事の話に切り替えよう。うん。
「昨日のうちにサクさんに見てもらってます。大丈夫!」
「それで油断しないの。最後の詰めもしてからこういうの読みなさいね」
なんだか最近、女らしい言葉が自然に出る。うぅむ…魂と記憶は男なんだが、いかんせん脳みそが女なので、女であることが自然になって来ている気がする。良くない傾向だ。
「はぁい」
そう、あの日から田野島は仕事も真面目になり、作田からも認められつつある。いい傾向だ。自然と等々力や栗田も彼女を評価し始めている。
まともに仕事をする様になって分かったのだが、田野島は決して最初からやる気がないわけでもなく、頭も悪くない。
仕事そのものにやる気がなかったしのぶや、高卒の栗田とは違うはずだ。なぜ、3課にいるのだろうか。
「じゃ、行ってくる」
「行ってきます!」
作田と田野島が出て行く。
「行ってらっしゃい」
俺は今日は午後アポしかないので見送る。
梅木は今日も出張だ。なぜこんなに出張が多いのか、ちょっと疑問だ。
事務室には俺と等々力だけが残る。
「…課長、ちょっといいですか?」
「ん?なんだ?」
「田野島さんなんですけど」
「ああ、最近頑張ってるな!東雲とも随分打ち解けた様だが、何かしてくれたのか!」
「あ、いえ。少し悩みを聞いた程度…というか、その話なんですけど。彼女、なんでウチに配属になったんでしょう」
「…ああ。それでやる気がなかったのか?」
「ええ…まぁ」
「…田野島の同期は、ほとんどが東京のトップ大学の出身でな」
「学歴で決めるんですか!?」
今時そんな配属の仕方があるのか。大企業らしいというか…
「いや。学歴じゃない。学閥だよ」
「ガクバツ?」
「要は、それぞれの部署に…その大学出身者の派閥があるんだ。特に本社にその傾向が強い。人事がそれを考慮して配属したんだろう。本当は、地方大の出身で入社できた田野島の方が実力ははるかに高いんだ」
母校同士でお仲間ぁ?
どこ中か聞いてくるヤンキーかよ?
「そんな事で…?」
「彼らにはそれが大事なんだよ。田野島は誰にも負けないくらい実力をつけてから、彼らの中に送り込まなければならん。栗田は…男だからなんとかなるだろう」
「え?」
男だから?
「ああ…まあ、そういう会社だ」
男性優遇がまだあるのか!?
俺の勤めてたブラック企業でさえ、課長は女性だったぞ!?
「じゃ、私は…」
もう、女の方が自然、なんて思ってる場合じゃない。清光商会で出世するなら男、一択だ。
「その話だが…病院でした話、覚えてるか?」
天衣社ガス漏れ事故。実際はエルヴィンのまやかしの外法のせいだが…結局、あれ以来何も報道されずに、まるでなかった事の様にされている。
等々力はその事をネタに、どちらかを脅す様な事を言っていた。
「課長、違法行為は…」
「何を言ってる?」
「へ?」
「まさか、あの事故を公にすると言えば脅せるという意味で聞いてたのか?」
俺は無言で頷く。
「そんなことしたら俺がクビになって終わりだよ」




