第61話 ホワイト企業の闇③
「私の邪魔しないでくれる?」
田野島は他の男達の前では決して見せない、凶悪な面構えをしている。
まさか、転移者…?
「邪魔?」探りを入れよう…
「だからぁ、邪魔なのよ。アンタがチヤホヤされると。アンタ何で急にあのバカみたいなメイク辞めたのよ」
まさか…コルネリアが「魔除け」と称して施していたメイクを辞めた事で何かが起きているのか…!あとトイレ行きたい…!
「記憶喪失だから…やり方忘れて」
さあ、どう出る…?
俺も出そうだ。トイレ行きたい。
「本当に記憶喪失なの?そこからもう怪しいのよね。イメチェンしてモテる作戦?」
あれ?何を言ってる?も、モテ?
「別に…」
「別にって。じゃあまたあのメイクして、いつもめんどくさそうにして、ぼーっとしててくれる?」
いや、やはりあのメイクにこだわっている。なんなんだ。
あとトイレ…
「そうしたいのはやまやまなんだけど」
「じゃあしなさいよ。写真もあるわよ、ほら」
うむ…やらねばならんのか…
写真の中のしのぶは無表情だが、80年代のバブル期の女性の様なメイクをさらに濃くした様なメイクをしている。
トイレ…!
「うぅ…」
「なによ。できないの?」
「ごめんトイレ!」
俺は個室に駆け込んだ。
「ふぅ…」
「なんなのよ!」
外で田野島がわめいている。
「ごめーん」
仕方ないだろ。まだ女の尿意の加減がわかんないんだよ。生理じゃないのにナプキンつける日もあるほどなんだぞ。
「ごめんじゃないわよ!アタシはね!アンタより先に本社に行きたいの!」
ん?
どういう事?
えーと…もしかして、転移者関係ない?
とりあえずトイレから出た。
「はぁ、漏らすとこだった。ごめんね田野島さん。で、メイクがなんだっけ」
「メイクじゃなくて、課長に色目使わないでって言ってるの」
「なんだ。そんなことか…」どうでもいい話だった。
「そんなことって…」
「うーん、課長に対してそんな感情一切無いし、気に障ったなら謝るよ。出世したいなら協力するし。私もしたいけど、仕事で成果出すだけだから」
まあ、仕事しててワーワー言われたりするより、協力してやった方が楽だろう。
「…別に…協力なんか…」田野島はぶすっとした表情を作る。
「無いの?いいよ、なんでも」
「わかんない…」田野島はうつむいてしまった。
「わかんない?」
「課長に気に入ってもらえたら、出世出来ると思って…栗田くんは…しのぶさんがそのメイクになるまでたのまりちゃんたのまりちゃんって私を構ってくれたから…」
子供かよ…仕方ないなぁ…
「あのね、田野島さん。あなた1年目でしょ。今は?6月でしょ?まだまだ勉強する時期だよ。作田さんがついててくれるんだから。色々吸収しなよ。焦らなくても、きちんと仕事してれば、出世できるよ」
そう。俺の勤めていたブラック企業と違って…清光商会はホワイト企業なんだから。
黒田サービスではどれほど働こうが、出世はできなかっただろう。
「でも…しのぶさん…私…同期はみんなちゃんとした部署なのに…私だけ3課だから…悔しくて…うっ…うっ…」
今度は泣き始めてしまった。
入社して即窓際部署送りという自分の境遇が辛かったのだろう。ホワイト企業でも、辛いものは辛いんだな。
「ほら、メイク崩れるよ。まだまだみんなを見返せるんだから、頑張ろ」
「しのぶさぁん!ごめんなさぁい!」
田野島は俺の胸に飛び込んできた。
頭を撫でてやる。
「しのぶさん…優しいです…」
「ほら、早く涙拭いてメイク直しな。2人とも大きい方だと思われちゃうよ」
「…うわ、そこで下ネタですか」
田野島は笑顔になった。よしよし。
トイレから戻る途中…
「私、しのぶさんが好きになっちゃいました…」
「そりゃどうも」
「ラブ、の意味ですよ?」
「何!?」




