第54話 命がけの商談⑥
「エルヴィン、貴様の目的はなんだ!?」
「女神だ」エルヴィンは即答した。
「女神…?エルヴィン、君は…」
エドガーは愕然とする。
「そうだエドガー、私はこの世界で女神の力を奪い、神となる!」
エルヴィンは高笑いしている。
全くついていけない。なにこれ。映画かな…?
俺がマヌケな顔をしていると、エルヴィンが急に俺を指差して叫んだ。
「魔女コルネリア!君の力はまやかしの外法をかけている間に確認させてもらった!素晴らしい魔力だ!まずはその力を貰い受ける!」
「え?えーと…」
「ははは!命乞いかね!」
「あの、私はコルネリアじゃなくて」
「今更嘘をついてもムダだ!君の溢れんばかりの魔力は隠せないぞ!」
「そうじゃなくて…」
「あぁ、なんと素晴らしい!その魔力が私のものとなるのだ!」
「だからぁ!」
「私は神になるのだ!何を言ってもムダだ!」
「だから話を聞いて…」
「魔力を頂くぞ!」
プツン。
「…」
「なんだ、その顔は?」エルヴィンは眉をひそめる。
俺はエルヴィンに近づく。
「なんだ?私に魔力を提供する気になったか?」
さらに近づく。
「…よくわかんないけどさぁ、どいつもこいつも異世界人は人の話を聞かねぇで…」
「し、しのぶさん…?」曽根崎は慌てている。知ったことか。
「お前ら…」
「「…ら?」」曽根崎とエドガーも反応した。
「仕事の邪魔してんじゃねぇぞ!」
「「「今その話!?」」」
「そうだよ!等々力さんがあんなに気合い入れて臨んだ営業をムダにしやがって!俺の提案資料見て喜んでたんだぞ!どうすんだよ!」
俺はエルヴィンにさらに歩み寄る。
「な、なんだ!?まやかしの外法に惑わされていたくせに!なにができるというんだ!」
エルヴィンは慌てて俺に手を伸ばす。
「あぁ!?」
エルヴィンの手を払いのける。
「あ、いや!なっ…」
ビンタ。スパーン!いい音が鳴る。
「ぶっ…」
ビンタ。スパーン!いい音が鳴る。あのイベントの経験が役に立つ。
「き、貴様ゆるさぶっ!」
ビンタ。
「はひっ…」
ビンタ。
「ふへぁ…」
ビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタ!
「ぼへぇ…ほまへ、ゆるさふ…ほげほげ…」エルヴィンは両頬をパンパンに腫れさせながら何か言っている。
「訳わかんねぇ事ぬかすんじゃねぇ!」
ヒールの先で股間を蹴り上げる。
「ほへぁ!」
エルヴィンは股間を抑えて苦しむ。
「し、しのぶさん?」曽根崎は信じられないという顔で俺を見た。
「ブラック企業勤めをなめんなよ!こんなくだらねぇ事で!」
ガン!抑えた手ごと股間を蹴り上げる。
「ひぇぁぉん!」
「ひとの!」
ガン!
「仕事を!」
ガン!
「邪魔するなァ!」
ドォン!
「ほふっ…」エルヴィンは気絶した。
「しのぶさん!」曽根崎が俺を抑える。
「あ…」
やり過ぎた…
「えーと、てへっ…」自分の頭をコツンと叩く。
「…」
「…」
こうして、俺の散々な営業活動は終わった。
天衣社の多目的スペースには、チューブで繋ぐ古いガスストーブがあったため、気絶した営業マン達と等々力についてはガス漏れ事故として救急車を呼んで処理した。
ーーーーー
天衣社から少し離れた人気のない公園。
気絶したエルヴィンを後手に縛り、縛った手が見えない様にベンチに寝かせた。
「で!」
「はい!」曽根崎は俺の前で硬直する。
「なんなんですか、コレは?説明してください!」
「その…これはだな…あの、姫様を狙う者が実は…エドガーは、その…」曽根崎はしどろもどろになる。
見かねてエドガーが曽根崎を片手で制止した。
「…巻き込んですまない、女神の遣いよ…私はエドガー。この世界では津島と名乗っている。私から説明しよう。この男と、私と、ガルガトルの現状を…」




