第53話 命がけの商談⑤
魔法はこの世界にも存在した。
女神の言葉は嘘だった。
そして、騙された俺は…
魔法を、使っていた。
「さっきのおもちゃみたいな火の玉はどうした?俺を殺すつもりで魔法を撃ってこいよ!」
俺は氷でできた大蛇の頭の上に立ち、相手を見下ろしていた。
魔女コルネリアの絶大な魔力を扱うのはたやすく、頭の中でイメージするだけでなんでもできた。
詠唱?そんなものは要らない。
節約?ナンセンス。
ただただ絶大な魔力に任せて、己のイメージした形を作り、現実のものとする。
それがコルネリアの魔法。
魔王とまで呼ばれた魔女の力。
「ひ、ひいぃ!」
「わははははははは!」
相手はただ逃げ惑う事しか出来ない。
「ギブ、ギブアッむぐっ!」相手の女の口を氷で塞いだ。言わせてたまるか。
最高の気分だ。
魔法があればなんでもできる。
「んー!むぐぅ!」
「あ?うるさいな」
俺は氷でできたヘビを女にぶつける。
女はリングの外まで吹っ飛ばされて気絶した。
「し、試合終了…清光商会の勝利…です…」
周囲がざわつく。
「…東雲…よくやった…が、少しやり過ぎだ…」等々力は引きつった笑顔で俺を迎えた。
「気をつけます」俺は微笑んだ。
「魔女コルネリア…これほどとは…」
紳士が俺に近づいてきた。
「素晴らしいチカラだ。魔女コルネリア。これならこの世界でも…」紳士の腕が俺に伸びる。
「やめろ、エルヴィン!」
聞いたことのある声が聞こえた。よく通る女性の声。
「曽根崎さん!?」
「な、なんだ貴様は!なぜ私の名を!?」紳士は後ずさった。
曽根崎の後ろには、キツネ顔の見知らぬ男がいた。あれは…毒島ではない。
「ユーリー、まずはまやかしの術を」キツネ顔の男は曽根崎をユーリーと呼んだ。ガルガトルの関係者か。
「しのぶさん。君は既にエルヴィンのまやかしの外法に飲み込まれている!これを飲んでくれ!」
よくわからない小瓶を手渡される。栄養ドリンクの様な見た目だ。
まやかしの外法…?なんだっけ、それ?
「えーと…」
「いいから飲んで!」
「はぁ…」
ドリンクを飲んだ。
その瞬間、闘技場は消えて無くなり、俺たちの居る部屋はちょっと広めの多目的スペースになった。
等々力を含めた他の参加者達は気絶している。
田所もいた。怪我ひとつない。
「え?え?」
「しのぶさん。かなり強力なまやかしの外法を受けていた様だね…性格にまで影響が出かけていたよ」曽根崎が悲しそうな笑顔を俺に向ける。
「曽根崎さん、これって…?」
「話は後だ。エルヴィン!しのぶさんにこんな術を使うなどと…許せん!」
エルヴィンと呼ばれた男…バトルの解説をしていた紳士は他の参加者とは違って気絶しておらず、部屋の端の方に立っていた。
「…ふぅ…エドガー。君はなぜ、私の邪魔をする。こんな魔力のカケラもない世界では、私とて…大した事は出来ないというのに。しかも、そこの美女は…姿は変わったが、殺したはずのユーリー団長殿ではないかな」
紳士は不敵に微笑んでいる。
エドガー?毒島がエドガーじゃなかったのか…何が何だかわからない…
「…」曽根崎は紳士を睨む。
「ははは。そう怒るな。団長殿。あなたほどの強大な魂は、魂の研究が遅れているガルガトルに留め置くのがもったいなくてね。解放してやったんだ。結果、この世界に転生とは残念だがね…ククク…」
「貴様…」
「そもそもなぜエドガーがここにいるんだ。私を追ってきたのか?」紳士はキツネ顔の男を睨む。
「姫様を狙っているのだろう!」キツネ顔の男、エドガーは語気を強めて言った。
「いやいや。あのお姫様は転移した時に魔力を全部ガルガトルに置いてきたのだ。用無しだよ」
「では何が目的でこの世界に来た!」曽根崎は怒りに震えている。
「女神だ」




