第44話 ひと肌脱ぎます!②
「いやぁ、助かります!ウチの女子社員が急遽長期休暇に入ってしまって!」
俺は国枝食品の林田から、キャンペーンガールの衣装を手渡されていた。
ノースリーブのジャケットに、ミニスカ。これを着ろと?
「…栗田くん?」
俺は栗田を睨みつけた。
「いやー、ハハハ…」栗田は苦笑いしている。さては、分かってて俺を連れてくる様に等々力課長に進言したな…!
「あれ?東雲さん…?もしかして、お引き受け…頂けない…?」
林田は眉間にしわを寄せている。まずいな…
「あ、いえ…ちょっと衣装が私に合うかなーって。アハハ、ハハ…」
ーーーーー
「栗田ァ!」
「マジすんません!」
「栗田君…」
事務所には俺と栗田、あとは梅木がいる。
栗田は俺の前で土下座していた。
結局、俺はキャンペーンガールの話を引き受けて帰ってきてしまった。
「どーすんの、コレ?コレ着るの!?」俺はミニスカートを栗田の頭に乗せる。
「たぶん、めっちゃ似合いますよ…」栗田は土下座しながら俺に微笑んだ。
「うるさいよ!バカなの!?なんなの!?」
「おぉ!?どうした!?」
等々力が事務所に戻ってきた。
「あら課長。実は栗田君が東雲さんにセクハラをしたのよー」
「何!?栗田!どういう事だ!」
「実は…」
俺は事情を説明した。
「なるほど…東雲。これは本当にセクハラだ。嫌なら断れ。土下座はやりすぎだが…」
おお。さすがホワイト企業。
「そうですね。断り…」
「そ、そんな!俺、林田さんには『うちの東雲はコスプレ大好きだから喜んで着ます』って言っちゃったんスよぉ!」
「…なおさらダメだ。東雲、断れ」等々力は厳しい顔をしている。
「俺の…俺の出世…」栗田は泣き出してしまった。
「何が出世だ!他人の力で取引先に媚びようとするからだ!先方に謝って来い!」
「高卒で清光入って…頑張ってきたのに…」
そうか…高卒で営業…
「おまえの努力は知っているが、信頼は自分で取り返せ」
「仕方ないわよ」
「あの…やります」
「え?」栗田が顔を上げた。
「今回だけだぞ!」
我ながら甘いと思うが、俺が少し、恥ずかしい思いをするだけだ。
俺と同じ境遇で頑張っているヤツを見捨てる事はしたくない。
「し、しのぶさぁん!」
栗田が突進してきた。土下座の姿勢からの突進だったので、ちょうど俺の胸に顔面を突っ込んできた。
「栗田ァ!」
ーーーーー
「国枝の、ミルクたっぷりぷりんはいかがですかぁ?」
「しのぶちゃん、なにやってんの?」
ナターリャは俺のキャンペーンガール姿を見ながら呆れ声で言った。
「明日の練習だよ…」
「人間って大変だね…」
ナターリャは俺に憐れみの視線を向けている。
「ほんと、なんだよこの格好…」俺はミニスカートをめくり上げた。少しめくっただけで下着が丸見えだ。
「しのぶさん!エドガーと…」
曽根崎がドアを勢いよく開けて入って来た。
「あ…」
「しししししのぶさん!?」
曽根崎は鼻血を出して倒れた。
「あれ…?」曽根崎が目を覚ました。
「大丈夫ですか?」
着替えた俺は曽根崎の頭に濡れタオルを乗せた。
「あ、ああ…すまない…なんだかものすごく良いものを見た気がしたんだが…」
「気のせいです。で、慌ててウチに来ましたけど、どうしたんですか?」
「そうだ!エドガーと連絡がついた!だがヤツはやはりここには来ない。明日、北武デパートの人混み…催事場で会うことになった!」
北武デパートの催事…あれ?それって…
「あの、そこに俺も行きますね…」
「おお!それなら話が早い!で、しのぶさんは何の用事で北武デパートに?」
「その…キャンペーンで…」
そう。北武デパートの催事場は、明日の国枝食品の新商品販売の会場だ…




