第16話 初出勤①
昨日は色々な事が起きた。
友人、枡田こころとの出会い。
友人からのメール。
そして謎のお隣さん。
転移者探しを業務中に絞ろうと思っていたが、プライベートの方が先に交友が広がった。案外早く5人見つかるかもしれない。
そして、今日は初出勤。
ミクさんに教えられたとおりに化粧をする。面倒だが社会人のマナーだそうだ。ノーメイクで営業回りが許される社会になって欲しい。
俺は鏡を見る。
よし、こんなもんだろう。メイクをすると自分の美女ぶりに磨きがかかって楽し…いや!俺は男に戻るんだ。これは必要だからする事…髭剃りやネクタイと同じ…
「しのぶちゃん、美人だね!」
ナターリャが俺の肩に顎を乗せる。完璧に整った顔と並べられると皮肉にしか聞こえない。
「ナターリャ。なにしてんの」
「メイクいいねぇ」相変わらずの無視っぷりだ。
「ナターリャはノーメイクでもいいだろ」
「じょしこーせーだからね!」
今時女子高生でもメイクをしている、ということは秘密にしておこう。
ナターリャは友達と待ち合わせとかで、すぐに出て行った。
俺も出勤の準備をする。昨日、とりあえず昔付き合っていた女が持っていた様なカバンを買った。その中にミクさんに指示された通りのものを入れる。メイクが崩れた時対策の基礎の化粧品、ハンカチ、ポケットティッシュ、財布、ケータイ、女神フォン。以上で容量いっぱいである。何だこれは?カバン、買い直すか?
靴はビジネス向きに少しかかとの高いものを履いてみたが、爪先が痛い。女性はよくこんなものを履いていられるな…もう少し低いかかとの靴にしようか…
女性専用車両は気が引けたので普通電車に乗った。
いつもの満員電車。いつもの通勤。何も変わらない。転生前と同じ…ではなかった。
背後の男性の鼻息がやたらと荒い。痴漢かと思ったが触られる様子もなく、ただただ鼻息が荒かった。なんなんだ。明日は女性用車両に乗ろうかな…。
勤め先に着いた。今日からここが俺の会社。キヨミツホールデイングス子会社、清光商会だ。大手企業に試験なしで転職した様なものだ。
「おはようございます」
「おはようございます…ん?新入社員さん?」受付の女性も俺の顔がわからないらしい。
「えっと…東雲です」
「え?東雲さん!?あ、記憶喪失って…メイクの仕方も忘れるんですか…?」
「え?変ですか?」ミクさんに教わったとおりなんだが…
「いえ。ぜんぜん!私、そっちの方が好きです!東雲さん、可愛いです!」
しのぶ。おまえどんだけ不評だったんだよ。
「ありがとう。えっと、私の部署は3階のどの辺りでしたか?」
「はい、東側の突き当たりです」
「ありがとう」俺は階段の方を向く。
「あの、東雲さん?」
「え?」
「エレベーターは逆ですよ。いつもエレベーター使ってましたけど…」
「3階でしょ?階段で充分」前の職場は6階まで階段だった。3階なんて余裕だ。
職場に着くと、課長の等々力だけが席についており、他は誰もいなかった。
「東雲。復帰おめでとう。体調はどうだ?」
「はい。おかげさまで。あの…他の人は?」
「…東雲の復帰後初出勤だというのに皆、今日は朝から客先に直接訪問なんだ。しかも内勤の梅木さんは本社に出張中だ。すまんな」
「そうですか…」恐らく、皆のこの態度がしのぶに対する評価なのだろう。
「…しかし東雲、変わったな」
「え?」
「すごく…いいぞ」等々力は俺の全身を下から上まで見ながら呟く。
何だよそれ…キモいぞ…




