第17話 初出勤②
初出勤を迎えてくれたのは、入院中に見舞いに来てくれた等々力課長だけだった。そして…
「すごく…いいぞ」
等々力は俺の全身をくまなく見ながら言った。視線が気持ち悪い…気がする。
見舞いの時の爽やかさはどうした!
「あ、あの…」
「俺は感動している」
「へ?」
「あんなに…あんなに注意しても直さなかったおまえの服装と化粧が…完璧に直っている!今の東雲の姿は理想のビジネスパーソンだ!」等々力は涙目で叫んだ。そういう視線かぁ…。
しかししのぶよ…課長泣いちゃったぞ…どんだけ酷かったんだよ…
「そんな、泣くほどですか…」
「ああ、すまん…」等々力は目頭を押さえながら言った。
「でも、変じゃなかったみたいで良かったです」
「ああ。不謹慎だが、記憶喪失になって良かったというか…なんというか…」等々力は複雑な表情をしている。
「そうですよ。記憶喪失なんです!だからちゃーんと、仕事教えてくださいね」俺は等々力に微笑みかけた。
我ながらたいへん気持ち悪いが、転移者に勘付かれない様にするためだ。
…入院中の事が思い出される。
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「いい?しのぶちゃん!あなたは女性です!」喜多嶋は人差し指を立てた。
「いや、き…ミクさん。これって男性に戻るためのアドバイスじゃないんスか?」
「うっさい!言うことを聞きなさい!」
「はぁ…」
「あのねしのぶちゃん。転移者にあなたの正体がバレない様にするって事の重大性を分かってないでしょ」
「…それなんですよね。バレてもべつにいい様な」
喜多嶋はちっちっち、と言いながら立てた人差し指を振った。
「甘い!転移者はね。この世界に紛れて暮らしてるけど…女神さまの都合で元の世界に還される事を望む人はゼロ!」
「え?そうなんですか?魔法も何もないから、帰る手段ができていいじゃないですか」
「…転移者は自分の意志でこの世界に来てるの。なんらかの目的を持って。その目的が、元の世界からの逃亡だったら?」
「…そもそも帰りたくない」
「そうね!だから、あなたの正体と目的がバレると確実に逃げられるわよ」
「うーむ…」
「だ、か、ら!女の子レッスン…するわよ!」
「ヒェェ…」
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「ではまず基本からだ。我が社、清光商会はいわゆる総合商社。何でも売る会社。我々関東圏第3営業課はその中でも…中小企業が主なお客様だな」
「はい」営業マンなら清光商会を知らない者はいない。この時代に唯一、分社化せずになんでも取り扱う、恐るべきマンモス企業だ。
「まぁ、なんでも売るとはいえ当然、得意分野はある。我々第三営業課はオフィス用品、社内環境改善品が主力商材だな」
…会社説明から丁寧に話してくれている。こんなの初めてだ。俺が今まで務めた2社は、やはりブラック企業だったのだろう。
あの頃はまるで馬車馬だった。
「…以上で会社概要は終わりだ。質問はあるか?」
「いえ」
「では次はいよいよ仕事の進め方だが…その前に休憩するか」
「は?」
まだ出社して2時間しか経ってないぞ?
「ん?何かおかしな事言ったか?」
「い、いえ…」
「ちょっと待ってろ」
等々力はそう言って席を外し、飲み物を2本持って戻って来た。
「いつも飲んでたろ」
渡された缶には
【どろ甘!練乳コーヒー】
と、書かれていた。
あ。俺が好きなやつ。しのぶも好きだったのか。
「…ありがとうございます…」
練乳コーヒーが、いつもより甘く感じた。




