第15話 出勤前日〜隣人〜
明日の出勤に備えて寝ようとした時、機種変更したばかりの携帯電話がメッセージを受信した。
知らない番号からのメール。
『しの、ずっと未読無視なんだけどなんかあったの!?』
文面はこれだけだが、多量に絵文字が使われていた。
…枡田と離れた後の友人か?
一刻も早く男に戻るには、人との接触は増やさなければならない。だが、メールで事情を説明するには複雑すぎる。とりあえず返信して後日電話しよう。
『ごめん、ケータイが壊れてて。また連絡する』
『おけ。待ってる』
…割と淡白だな。
さて、そろそろ寝なければ…
そう思った時、ドアをノックする音がした。
「誰だ…?」
俺はミクさんの教えに従って、インターホンのカメラで外を見た。
女性だった。しかも、どうやらパジャマ姿だ。同じ階の住人か。まあ、開けても危険は無いだろう。
「はい」
「やあ、お隣の君。悪いが醤油を貸してくれないか」
ドアを開けると、男役でもやっていそうな長髪で高身長の女性が立っていた。凛とした佇まいなのだが、猫柄のパジャマが全てを台無しにしている。しかも醤油を借りたいとは…
「あ、はい。お待ちください」
「いや、すまないね!はっはっは!」
女性は高笑いした。変な人だ。
「どうぞ」醤油を渡す。
「ありがとう!しかしお隣の君よ、初めて開けてくれたね。引っ越したのかと思っていたよ」
転生前のしのぶは多分、このノリが嫌だったんじゃないだろうか。
「…入院してまして」
「なんと!?大事なかったかい?」いちいち言い回しが大げさな人だな。
「ええ。ただ記憶が無くて。すいませんが…お隣さんですか?」
「そうだ。私は隣の曽根崎、曽根崎裕佳梨だ。改めてよろしく!で、記憶喪失とは…」
「曽根崎さんですね。よろしくお願いします。頭の怪我で色々忘れてしまったんですよ」やれやれという顔をしておく。
「それは…なるほど…」
「え?」
「あ、いや。それで私を忘れたのだなと思って」
そういうことか。びっくりした。
「あ、今海外からの留学生を預かってまして。騒がしかったら言ってください」
「なんと…記憶喪失の中、留学生を預かるとは…?」まずい、疑われる。
「あー、えーと。知人の娘さんなんです。夜に家を空けがちだから、こんな時だけど私しか頼れないらしくて」
「なるほど…よし、何かあったらいつでも私に相談してくれ!」
「ありがとうございます。えっと…醤油、いいんですか?」
「ああっ!しまった!すぐ返すから待っててくれ!」
曽根崎は自室に戻り、数分後に戻ってきた。
「助かったよ。実はこれを作っていたんだが、あと一味で醤油が切れてしまってね。嫌じゃなければ食べてくれ」
肉じゃがだった。
「いいんですか?」
「うむ!口に合えば良いが。留学生の子にも日本の味を教えてやってくれ!」
「助かります」
「しかしお隣の君よ…」
「あの」
「ん?」
「その呼び方、なんなんでしょうか…」気になりすぎる。
「あぁ、私は君に名前を聞いていないのでね!」しのぶ…社交性のカケラもないな…
「それは大変失礼しました。東雲しのぶといいます」
「おお!しのぶさんだな!よろしく!ところでしのぶさん、君…」
「はい?」
「ナチュラルメイクの方が、可愛いよ」曽根崎はキメ顔を見せた。しかし、猫柄のパジャマが全てを台無しにしている。
「あ、ありがとうございます…」
「ではまた!」
曽根崎は颯爽と自室に戻っていった。
変な人と知り合ってしまったな…まぁいいか…




