第14話 出勤前日〜親友〜
しのぶの同級生の枡田こころに出会った俺は、しのぶの無事を知って号泣する枡田をなだめ、喫茶店に来ていた。
「私、あなたに告白したの。恋人になりたい、って」
「恋人!?」こ、これは同性愛というやつか。いや、今ならアリだな。むしろこちらからお願いしたいくらいだ。
「あっ…あのね!今は違うの!彼氏もいるし、気の迷いというか、なんというか…」
枡田は慌てて否定する。なんだ、残念。
「…なんだ、良かった」まぁ、原因が金や男じゃなくて良かった。
「え?」枡田は驚いた顔をする。
「友達だったんでしょ?私達。もう彼氏もいるんだし、私も全部忘れちゃってる。だからまた、友達になってくれる?」
「しのぶ…」枡田はまた泣き始めた。角の席にして良かった。
「…それでね!しのぶったらスカートのまま木登りして、パンツが見えてて…私…あ、ごめん…」
「いや、そこは気まずくならなくていいから!」
「そ、そうね!」
まあ、好きな女の子のパンツが見えたら見るよ。わかる。でも男に股間を性的な目で見られるのはキツいな。そういう気分かな。今度喜多嶋…ミクさんに聞こう。
「でも無事で良かった…本当に。しかも、こうしてまた友達に戻れるなんて。夢みたい」枡田は目を輝かせる。
「大げさだなぁ…」
「大げさにもなるわよ。もうお互い時効だから言うけど、私の告白を聞いてあなたなんて言ったと思う?『キモっ…死ねよ』って言って走って逃げたのよ!?それっきり連絡も一切取れなくて!本当に死のうかと思ったわ!」
「うわぁ…」しのぶ!断り方どうなってんだよ!
「そんなしのぶが、また友達になろうって言ってくれて、本当に嬉しい。死ななくて良かった。死んだら終わりよ。何もかもが終わり。本当に何もなくなっちゃうんだから」
「…」
「だからしのぶ、本当に気をつけてね。あんなに活発な子だったのに、エスカレーターから落ちるなんて信じられなかったんだから」
「うん、ありがとう。ここちゃん」
枡田こころから連絡先を聞いた俺は、また会う約束をして家に戻った。
「おっつー。しのぶちゃん、遅かったね!」ナターリャが帰ってきていた。
「どうだ?部屋、キレイになっただろ。晩飯のついでにそれぞれ必要なものでも買いに行くか」
「はい!アレ欲しい!ファミコン!友達とペンキ塗るゲームする!」
「だからファミコンは古いって!」
家に帰ると2人で新しい生活の準備をした。
ナターリャはゲーム機と少女漫画を買った。そして、それらを元々あったしのぶのテレビごと自分の部屋に持ち込んだ。
俺も最低限の物を揃えた。ケータイも変えて、連絡先をもらった皆にメッセージも送った。ようやく新しい生活を始められる様になった。
「明日から仕事だなぁ」
電子タバコをふかしながら呟く。結局あの後加熱式たばこも買ったがむせたのでこれに落ち着いた。
前の職場にいた時と違って、会社に行きたくないという気持ちは無い。むしろ期待している。
大企業で、どんな仕事ができるのか。
「せっかくのチャンスだ。早く男に戻って、出世するぞー」伸びながら一人、宣言をする。
ナターリャはいつのまにか自室で寝ていた。こうして見てみるとまったく女神には見えず、ただの女の子だ。
俺は年上好きのためか、ナターリャの寝姿を見てもまったく欲情しない。女神の力でそうしているのかもしれないが、どちらにしろいい事だ。
そろそろ寝ようと思い、携帯電話のアラームを設定している最中に、メッセージを受信した。
「誰だ…?」




