第13話 出勤前日〜再会〜
スーツ店で転移者を取り逃がした俺は止むを得ず自宅へ向かっていた。
ちょうど、自宅近くのコンビニ前に差し掛かったところだった。
ブー、ブー、ブー…
女神フォンのバイブレーションだ!俺はすかさず周囲を見渡す。
路上には誰もいない。コンビニの中に客は1、2、3…5人。店員は2名。全部で7人だ。この中か!?
俺はコンビニに飛び込んだ。そこで気づいた。そもそも、女神フォンが反応しても転移者を特定出来ないんじゃないのか?通知が出てたりするのか?
ケータイを開く。履歴が何件か残っている。履歴は…5件?
「転移者が近くにいます」
「転移者が離れました」
「転移者が近くにいます」
「転移者が離れました」
「転移者が近くにいます」
表示はそれだけだ。しかも、スーツ店で取り逃がした他にも反応していたらしい。
「くそっ…役に立たねえ…」小声で文句を言う。
いや、待て。離れた事がわかるなら、立ち読みをするふりをして待っていれば退店した客から転移者の特定が出来る!
立ち読みしながら待機する。
…
…
1人退店。
…
…
2人退店。反応はまだ無い。
「しのぶ?」
「へ?」突然声をかけられた。
「しのぶ!よかった。元気そうで!」俺と同い年くらいの女に声をかけられた。今はそれどころじゃないのに!
「えっと…人違いじゃ?」
頼む、諦めてくれ。
3人退店。まだ反応は無い。
「…しのぶを間違うわけないじゃない。やっぱり記憶喪失ってほんとだったんだね」女は涙目で俺をみつめる。
「えーと…」
「私よ!こころ。枡田こころよ!本当によかった…」
枡田という女性は俺の両肩に手を置いて号泣しだした。
店中から注目を受ける。
「あの…」
「ごめん…でも…」コンビニの床に涙がポタポタと落ちる。まずいな…
「ば、場所変えようか…」俺はいたたまれなくなり、近くの喫茶店に枡田を連れて行った。
また転移者を取り逃がしてしまった。
「ごめんね、しのぶ」
目の前でカモミールティーを飲んでいる女性は枡田こころ。しのぶの中学の同級生だそうだ。
しのぶの母、愛子さんが入院中にしつこく話していた思い出話に出てきた「ここちゃん」で間違いないだろう。
しのぶの服装が乱れ始めたのは高校くらいからで、その頃から枡田こころとは全く遊ばなくなったらしい。確かに、俺になる直前のしのぶと仲が良い様にはまったく見えない、大人しめな女性だ。
「こっちこそごめん。何も思い出せなくて」
「…ううん。むしろ、私たちにはその方がいいかも」
「え?」連絡も取り合っていなかったし、もしかしてケンカ別れしたのか?
「私、何かしたの…かな?」恐る恐る聞いてみる。
枡田は首を振る。
「いいの。気にしないで」枡田は悲しげな顔をして微笑みかけてくる。そんな顔されたらかえって気になるだろうが。
「私、なんにも覚えてないから言ってくれても大丈夫だよ。それと、私はあなたのこと、なんて呼んでたのかな」
「…ここちゃん」枡田は少し嬉しそうにそう言った。
「じゃあ、ここちゃん。どんな話でも大丈夫。教えて」とりあえず枡田と和解しておけば、中学時代の情報も増やせるだろう。
「でも、あんな事言わなければしのぶもあんな風にならなかったかもって…」
「…嫌なら、言わなくてもいいよ」これ以上はかえって逆効果だろう。それより情報が欲しい。
「…いえ。言うわ。あのね。中学卒業した時、私、あなたに告白したの。恋人になりたい、って」
へぇ。恋人。
恋人!?




