第二章 -25-
青白い月明かりが、灰色の岸壁を照らし出している。
脳の磯で見た松の巨木のある岸壁より少し低いが、それでも濃紺の夜空を背景にした岩壁は、その異様さを誇っていた。
暗闇に目を凝らすと、崖の下に大きな裂け目があるのが覗える。
高さ、横幅も共に六尺ほどはあるだろうか。
月光を受けて仄かに輝く岸壁とは対照的に、崖下の裂け目は底知れぬ冥さを湛えていた。
狭い砂浜のある小さな入り江に降り立った堅魚と麻奈古は、しばしの間黙って目前の窟戸を見つめていた。
この稲目の窟戸は、丸く切れ込んだ入り江の西側にある。
脳の磯からすれば、ちょうど対岸の位置だ。
波の向こうに目を凝らすと、遠くに松明らしき明かりがちらちらしているのが見えた。
おそらく、佐底麿たちはあの坂道を真っ直ぐ下って、とりあえずその先にある脳の磯辺りを探しているのだろう。
ただ、脳の磯からここは、あの松の木の茂る岸壁を挟んで目と鼻の先だ。こちらに隠れていることを、すぐに感づかれやしないだろうか。
しかし、麻奈古は対岸の明かりを見て、小さく安堵の息をついた。そして、すぐに馬を降りると、手綱を引っ張りながらどんどん稲目の窟戸の方へ向かっていく。
麻奈古は恐ろしくないのだろうか。
この窟戸は昼間でも里人は誰も近づかないという、曰くつきの場所なのに。
しかも、今宵はもう月が中天に差し掛かっていた。
満月の明かりがあるとはいえ、深夜の海岸は不気味に静まり返り、ただ低い波音だけが響いているばかりなのである。
堅魚はそっと稲目の窟戸の方へ目をやった。
漆黒の裂け目は、今宵の明るい月光さえも跳ね返すかのように、ただ黒々と口をあけている。
その不気味さは、まさに黄泉穴……黄泉への入口と呼ぶに相応しいものだった。
麻奈古は何も言わずに先に立ち、堅魚を振り返りもせずに窟戸の中へ入っていく。
堅魚もようやく気を取り直し、馬から下りて麻奈古の後に続いた。
すぐ側まで近づいてみると、岸壁だと思っていたものは、実は海に突き出した小さな半島の一部だった。
しかし、入り江に面した部分がすっぱりと切り落とされたようになくなっている。
幾重もの地層が走る露出した岩肌は、大きく斜めに傾いでおり、その下に開いた暗い裂け目は、陸側の端が崩れて塞がっていた。
反対に、海側の端は鋭く切れ込んだようにきりりと口を開いている。
その様子は、まるで巨人が大鉈を振るって半島を両断し、その下に棒を突っ込んで片端を持ち上げたかのようだった。
陸側の崩れた部分はすでに潅木に覆われており、そこに麻奈古の馬が繋がれている。
堅魚もその隣に馬の手綱を結びつけ、月明かりを頼りに窟戸の中へ入った。




