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第二章 -22-

どうやら、早朝に麻奈古の馬が姿を消していた謎が解けたようだ。


太田の母親とこの佐底麿が誼を通じていると、昨夜史は言っていた。


おそらく、麻奈古の旅について知ると、母親は昨日の夜のうちに出雲郡の佐底麿の元へ使いを出したのだ。堅魚を脳の磯へ送った後、麻奈古がたった一人でこの峠道を通り、自分の母親の里へ向かうと。


そして、その報せを受け取った佐底麿が、遠出の準備をしてここで待ち伏せするだけの時間を稼ぐために、麻奈古の馬を遠くの放牧地まで連れて行かせた……まあ、そんなところだろう。


それほどまでして、麻奈古をこの卑しい男の餌食にしたいのか。


想像以上に激しい太田の母親の麻奈古へ対する憎悪と執念に、堅魚は正直驚きと嫌悪を禁じえなかった。


「あなたには関係ありませぬ。とにかく、これ以上あなたと話しても無駄なこと。もう失礼いたします」


麻奈古はそう言い捨てると、手綱を引き絞って馬をかえそうとした。


だが、佐底麿の背後に控えていた男たちが、急にばらばらと駆け寄ってきて、麻奈古と堅魚の周りを取り囲む。


そのうちの一人は、器用に麻奈古から手綱を奪い取り、馬の鼻先を取り押さえてしまった。


これでは、いかに乗馬の巧みな麻奈古であっても、これ以上馬を操れない。


男たちによって、堅魚と麻奈古は騎馬のまま、佐底麿の目の前まで連れてこられた。


佐底麿は先ほどまでのにやにや笑いを引っ込め、今度は残忍な素顔をむき出しにしながら言った。


「そうは行くか。これを見てみろ」


佐底麿は今まで焚き火から背けていた右側の頬を差し向けた。


そこには、暗い明かりにもはっきりとわかる太い刀傷がある。


佐底麿は麻奈古に詰め寄りながら喚いた。


「お前にこの傷をつけられたおかげで、あれから俺がどれほど恥をかかされたか。お前のせいで、出雲の郡家でも俺は笑い者だ」


佐底麿は悔しげに歯軋りする。


おそらく、それは本当なのだろう。周りの男たちも、こっそり苦笑いをもらしている。


麻奈古も青ざめた顔ながら、冷たい眼差しで佐底麿を見下ろしながら言った。


「それは自業自得というもの」


だが、佐底麿の方はますます猛り狂う。


「何だと。下手に出ていればいい気になりやがって。こんな機会が来るのを、俺はずっと待っていたのだ。逃がすものか」


「なにを」


「今度こそ、お前を俺のものにしてやる」


「結婚なら断ったはず」


「誰がお前と結婚などするか。俺がここで十分に楽しませてもらうだけだ。いや、ここにいる者どもも、全員でたっぷりとお前を可愛がってやるだろうよ」


佐底麿は下卑た笑みを浮かべながら、唇を歪めて舌舐めずりをした。


周りの男たちも同様で、中には気が早いのか、もう袴の紐に手を掛けようとしている者すらいる。


麻奈古は青ざめた顔を更に青ざめさせながら、馬を後ずさりさせた。


だが、しっかりと馬の鼻先を押さえられているせいで身動きできない。


麻奈古の気丈な顔にも、ついに恐怖の色が走る。


それを見た堅魚は、急に大声を張り上げて叫んだ。


「いい加減にしろ」

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