第二章 -23-
佐底麿は驚いて堅魚の方を見た。
だが、堅魚のいかにも文官らしい柔和な風体や、腰につけた細くて華奢な剣を侮ったのか、すぐに横柄な口調になって言う。
「何だ、お前は。怪我をしたくなければ、とっとと引っ込んでろ」
だが、堅魚はやにわに懐に手を突っ込むと、何かを掴み出して叫んだ。
「そうはいかぬ」
堅魚の手に握られていたものは、掌に乗るほどの錦の布袋だった。
堅魚はそれをいきなり、佐底麿の傍らの焚き火の中に投げ込んだ。
猛烈な爆裂音が、辺り一面に轟き渡った。
錦の布袋は木っ端微塵に弾け飛び、中に入っていたものが次々と炎の中で爆発する。
堅魚は音に驚く馬を押さえるのに必死だった。
麻奈古の馬は仰天のあまり棹立ちになり、麻奈古は危く振り落とされかけている。
だが、そのおかげで、麻奈古の馬を押さえていた男は、馬の蹄で胸を蹴られて吹っ飛んでしまった。
麻奈古は巧みに馬を制して立ち直ると、すぐさま堅魚に向かって叫んだ。
「今のうちに逃げよ」
そう言うと、麻奈古はすぐに馬をかえして、元来た道を駆け下る。
堅魚も頷く間も惜しむように、一目散に麻奈古の後へ続いた。
だが、敵の方もそう簡単に逃しはしない。
堅魚の耳の側を、鋭い矢音がすり抜けた。
驚いて振り返ると、焚き火の前に仁王立ちになった佐底麿が、弓を構えてこちらを狙っている。
矢が外れたのを見極めると、佐底麿は再び弓に矢をつがえて、今度は麻奈古に向けて矢を放った。
堅魚は慌てて麻奈古へ叫んだ。
「気をつけろ」
麻奈古はその声に気づいて後ろを振り返る。
そして、何とか飛んでくる矢を避けようと馬を跳ねさせたが、思いのほか矢の勢いが強くて間に合わない。
佐底麿の矢は麻奈古の左腕に深々と突き刺さった。
麻奈古の衣の袖が、みるみるうちに朱く染まっていく。
麻奈古は痛みに思わず顔をしかめたが、それでも馬を止めようとしない。
力を込めて無理矢理矢を引き抜くと、それを脇に放り投げて更に馬に鞭を当てる。
堅魚も必死に馬を励まし、何とか麻奈古に追い縋った。




