第76章
クーパーウッドの財産が崩壊してアイリーンが亡くなったこの時期に、ベレニスは、時々考えたような、お金と贅沢をその唯一の神とする西洋の物質主義的なとらえ方全体を自分の思考から完全に排除する、知的で精神的な知識を身につけることができれば、自分はどんな形であっても社会と人生に適応できる、と感じた道をゆっくりとだが確実に歩み始めた。主に、こうして考え方を変えたくなったのは、クーパーウッドの死後、彼女を襲い、彼女の人生をつらいものにしたと言っていい、悲しみとの戦いが発端だった。それから、まったくの偶然か、あるいはそう見えただけか、ベレニスは『バガヴァッド・ギーター』として知られる小さな本に出会った。それは数千年分のアジアの宗教思想を凝縮し要約しているようだった。
アートマンを知る者は
純粋な知識より出ずる
幸せを知る。
サットヴァの喜び。
深い喜びが、
厳しい自己修練の後にはある。
最初は嫌な苦労だが、
最後は甘美となり、
悲しみは終わる。
誰が探し求めるのか、
その完全な自由を?
おそらく、何千人に一人だ。
では、私の存在の完全な真実を知る者は、
自由を見つけた人の中に、
何人いるか
言うがいい。
おそらく、一人しかいない。
自分が神の歌を口ずさんでいるのに気がつくと、ベレニスは自分なら真実と理解を見つけるかもしれないと思い始めた。それは努力する価値のあるものであり、彼女はそれを探しに行ったのだ。
しかしインドに勉強しに行く前に、母親を同行させる手配をしにイギリスに渡った。ステイン卿が彼女に会いに来たのは、プライヤーズ・コーブに到着してからたった数時間後だった。ヒンズー教の哲学を本格的に学ぶためにインドに行く決意をしたと話したとき、ステインは興味を持ちながらもショックを受けた。彼は長年、政府や他の関係機関のためにインドに派遣されたイギリス人の報告を聞いていたのでそれを思い返しながら、インドは若くて美しい女性の行くところではないと感じた。
ステインは、ベレニスがクーパーウッドにとって被後見人以上の大切な存在であり、母親の過去に何らかの影があることを今では十分に理解していた。しかし、まだベレニスを愛していて、たとえ彼女が社会的な負い目を持っていたとしても、彼女が近くにいてくれて、彼女との付き合いや彼女の自由で知的な視点を楽しむことができれば、自分の人生は知的にも精神的にもより幸せになると感じていた。実際、こういう魅力的で優れた気質の女性と結婚できれば幸運だと考えただろう。
しかしベレニスが、クーパーウッドが亡くなってからこの数週間で、自分の心の中で何が結晶化していたか、西洋世界とその愚かな物質主義から離れて、そこで知的・精神的な助けを受けられると自分がどれだけ確信しているか、を説明したとき、彼女自身の体験が、いまのところ彼女を支配しているさまざまな相反する感情や関心をはっきりさせるときが来るまで、ステインはベレニスに対する自分の個人的な欲望を先延ばししようという気になった。だからステインには、親友のセヴェレンス卿の助言を参考にするといいでしょう、と言うだけにして、ベレニスに対する自分の気持ちについては特に何も触れなかった。ベレニスも知ってのとおり、セヴェレンスはインドの実情に豊富な情報を持っていて、よろこんで力になってくれそうだった。ベレニスは、必要なことには何でもすぐに導かれそうだとわかっているんですが、セヴェレンス卿が与えてくださる助言や援助は喜んで受け取ります、と答えた。ベレニスは言った。「何かが磁石のように、私を引っぱっているみたいなんです。絶対にそらされないと思います」
「別の言葉で言うなら、あなたは運命を信じているんですね、ベレニス」ステインは言った。「まあ、私だってそういうのをある程度は信じてますよ。でも、明らかにあなたには自分の願望を実現させる力と信念があります。そして今、このことで私が考えられることは、私でお役に立てるかもしれないことは、何なりとどんどん声をかけてください、ということです。時々私に手紙を書いて、進捗状況を知らせてほしいですね」ベレニスはそうすることを約束した。
この後、ステイン卿は、ベレニスと母親がインドへ向けて出発するためのすべての手配を自ら引き受けた。この中にはセヴェレンス卿から何通か紹介状を確保することも含まれていた。そしてボンベイがベレニスの訪問先の都市に選ばれ、ステインは必要なパスポートと切符を手に入れて二人を見送った。




