表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ストイック  作者: ドライサーの小説の翻訳作品です
72/79

第72章

 

 その日の午後と翌日の午前中に、自宅に弔問に来たクーパーウッドの友人で、バックナー・カーの名簿に載っていた人たちは、二階の広々とした応接室に安置されている遺体との対面を許された。他の人たちは、翌日午後二時にブルックリンのグリーンウッド墓地で行われる墓前祭に出席するよう勧められた。

 その間にクーパーウッドの息子と娘がアイリーンのもとを訪れた。二人はアイリーンと先頭の喪主用の馬車に同乗することになった。しかし、その頃にはニューヨーク中の新聞が、ほんの六週間前にニューヨークに到着したばかりのクーパーウッドの言わば突然死に大騒ぎだった。友人が大勢なので、葬儀は家族の親しい友人だけが参列すると記事にはあったが、この発表は多くの人たちが墓地に出かけるのを妨げなかった。

 そのため、翌日の正午にはクーパーウッド邸の前に葬列ができ始めた。その光景を見物しようと、外の通りには人だかりができた。霊柩車の後ろに、アイリーン、フランク・A・クーパーウッド・ジュニア、クーパーウッドの娘のアンナ・テンプルトンの乗る馬車が続いた。それから、他の馬車が一台ずつ列に並んで、曇り空の下、幹線道路を進み、最後にグリーンウッド墓地の門をくぐった。砂利道は徐々に長い上り坂になった。太い木々が道を縁取り、その後ろにはいろいろな特徴を持つ石碑や記念碑が並んでいた。道は四分の一マイルくらい上り続けると右に分岐した。大きな木々の間をさらに数百フィート行ったところに、墓が堂々とそびえ立っていた。

 その三十フィート以内に他に記念碑はなく、灰色の、質素な、ギリシャ神殿の北部型がぽつんと立っていた。修正を加えたイオニア風の優雅な四本の柱が「ポーチ」を形成して、いかなる種類の装飾も宗教的なシンボルもついてない平凡な三角形のペディメントを支えていた。墓の扉の上には、いかつい四角張った文字で『フランク・アルガーノン・クーパーウッド』と彼の名前があった。花崗岩でできた三層の土台には花が高く積み上げられ、巨大な青銅の両開きの扉がいっぱいに開かれて、著名な入居者の到着を待っていた。初めて見た人は誰もが感じたに違いないが、これはデザインにかけてはとても印象的な芸術品だった。高くて堂々とした静かなたたずまいが、その全域を支配しているように見えた。

 馬車が墓全体を見渡せるところまで来ると、アイリーンは自分の夫の自己顕示欲に改めて、そして最後の感動をさせられた。しかし、そんなことを考えながら、アイリーンはまるでこの墓を視界から締め出して、自分の前で元気に生き生きと自己主張をして立つ夫の最後の印象を甦らせようとしているかのように、目を閉じた。霊柩車が墓の入口に到着するまで、彼女の馬車は待機した。重い青銅の棺が担ぎ上げられて、牧師の演壇の前の、花に囲まれた中に置かれた。それに続いて、馬車に乗っていた人たちが出てきて、墓の前に設置された大きなテントに移動した。テントの下ではベンチと椅子が彼らを待っていた。

 馬車の一つでは、ベレニスがジェームス医師の隣に静かに座って、自分の愛する人を永遠に封印してしまう墓を見つめていた。涙を流すことができなかったし、流すつもりもなかった。彼女にとっての人生そのものの意義を、すでに跡形もなく消し去った雪崩に、挑んでどうするのだ? いずれにせよ、これがこのすべてに対する彼女の気持ちというか反応だった。しかし、心の中で何度も繰り返された言葉があった。「耐えろ! 耐えろ! 耐えるのよ!」

 友人と親族全員が着席してから、米国聖公会のヘイワード・クレンショー牧師が進み出て演壇についた。すぐに全員静かになり、厳粛なよく通る声で牧師は話し始めた。

「私は復活であり命です、と主は言われる。私を信じる者は死んでも生きています。生きて私を信じる者はみな、決して死にません。

 私の救いの主が生きていることを、主が後日、大地に立つことを、私は知っています。たとえこの肉体が滅ぼされても、私は神を見ます。私の味方として見ます。私の目が見ます。見知らぬ者として見ません。

 私たちはこの世に何も持ち込みませんでした。私たちが何も持ち出すことができないのは確かです。主が与え、主が取り上げたのです。主の名をたたえなさい。

 見なさい、あなたは私の日々をつかの間としました。私の一生はあなたからすると無に等しいのです。まさに、生きている者みんなが、はかないのです。

 人はむなしい影の中を歩み、むなしく心を乱します。富を積み上げるが、それを集めるのが誰なのかを知りません。

 さあ、主よ、私の望みは何ですか、私の望みはあなたの中にあります。

 あなたは罪を責めて人を懲らしめるとき、その美しいものを、シミが衣服を食うように、食い荒らします。すべての人はむなしいだけです。

 主よ、あなたは代々私たちの住み家でした。

 山々が生まれる前、大地と世界が作られる前でさえも、あなたは神です。永遠に、とわに、神です。

 あなたは人を滅ぼして再び言います。帰れ、人の子どもたち。

 あなたの目からすれば千年は、過ぎ去った昨日のようなもので、夜の見張りのようなものです。

 あなたが彼らを追い散らすとすぐに彼らは眠ったようになります。そして急に草のようにしおれます。

 朝は青々と栄えても、夜には切り倒され、しおれて、枯れてしまいます。

 私たちはあなたが不満であれば消えてしまいます。あなたの激しい怒りを恐れています。

 あなたは私たちの悪行をあなたの前に置き、私たちの隠れた罪をあなたの顔の光の中におきます。

 あなたが怒ると、私たちの日々はすべて過ぎ去ります。私たちは、語られる物語のように、私たちの年月を終わらせます。

 私たちの寿命は七十年です。強靭でも八十年ですが、強くても、苦しみであり、悲しみです。それは瞬く間になくなって、私たちは飛び去ります。

 私たちの日々を数えることを教えて、私たちが賢くなるようにしてください。

 父と子と聖霊に栄光あれ。

 初めのように、今も、いつも、世々に。アーメン」

 牧師がひざまづいて祈る間に、棺が担ぎ手に持ち上げられて、墓に運び込まれ、石棺に納められた。アイリーンは中に入るのを拒んだ。他の会葬者たちはアイリーンと一緒に残った。それから間もなく、牧師が外に出ると、重い青銅の扉は閉ざされた。フランク・アルガーノン・クーパーウッドの葬儀が終わった。

 牧師はアイリーンのところに行って、少し慰めの言葉をかけた。友人や親族が帰り始めた。すぐに墓の周りは誰もいなくなった。しかし、ベレニスが他の人たちと一緒に帰りたがらなかったので、ジェームズ医師とベレニスは大きな白樺の木陰にしばらく居残ってから、曲がりくねった道に沿ってゆっくりと坂を歩いた。小道を数百フィート歩きながら、ベレニスは最愛の人が最後の眠りについた場所を見ようと振り返った。ベレニスが立っている場所からは名前が見えなかったので、誰のものとも知れないものが、誇らしげにそびえ立っていた。その周囲で守りにつくように大きく成長したニレの下だと、高くそびえはしても、小さかった。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ