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ストイック  作者: ドライサーの小説の翻訳作品です
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第63章

 

 一方で、ジェームズ医師はクーパーウッドの病気と、彼を悩ます経営責任について考えることがたくさんあった。ロンドンの医者がすぐ死に至るかもしれないと示唆したブライト病についても、何年ももった症例を知っていた。だが、クーパーウッドの症例には深刻な一面があった。一つは胃拡張で、もう一つは時々襲う激痛、確かにこれらが仕事の心労と重なれば彼に大きなダメージを及ぼすかもしれない。もう一つの不安な要因は、過去の人生のいろいろな問題について彼が心配していることだった。ジェームズは事情……最初の妻、息子、アイリーン、そして時々新聞で取り沙汰された他の愛人たち……をよく知っていた。

 どうしたらいいんだ、とても大切なこの男のために何をすべきなんだ! たとえいっときでも、薬以外のどんな特別なものが、彼を回復させてくれるのだろう! 心だ! 心! もし彼が精神と、医学の面から、自分の心に影響を与えて、自分を救う方向へ進めればいいのだが! ふと、必要なアイデアを思いついたと感じた。これはクーパーウッドがのんびりと海外旅行に出かけたくなるほど強くなくてはならなかった。単に気分転換に関心を持たせるだけでなくイギリスとアメリカ両方の国民を、彼が旅行するほど元気だというニュースで驚かせてこう言わせたくなるようでなければ。「この男が病気なものか! 旅行で余暇を満喫できるほどすっかり回復しているではないか!」この効果はおそらく、クーパーウッドのやや枯渇した気力を回復させるだけでなく、自分は元気だ、少なくともかなりよくなった、と自信を持たせることになるだろう。

 変な話だが、この名医がこの問題の有望な解決策として何度も考えを巡らせた場所は、リビエラ、偉大なギャンブルの中心地モンテカルロだった。もし新聞がお偉い大公やアジアの王族たちに混じってギャンブルのテーブルにつく彼を報じることにでもなれば、効果満点だ! 人の心理として、これはクーパーウッドの資本家としての地位を高めはしないだろうか? そうなることは間違いない! 

 翌日、プライアーズ・コーブに戻ってクーパーウッドの精密検査をしたときに、医師はこれを提案した。

「私は個人的に思うんだが、フランク」ジェームズは切り出した。「きみは三週間もすれば、ここを離れて悠々自適な旅をするほど元気になるよ。だから、今の私の処方箋は、きみが一時的にここの生活を捨てて、私と一緒に海外へ行くことだ」

「海外ですか?」クーパーウッドは驚きをにじませた口調で尋ねた。

「そうだよ、そのわけを知りたいかい? それはね、きみが旅行できたという事実を必ず新聞が注目するからだよ。これだろ、きみがほしいのは?」

「そのとおりだ!」クーパーウッドは答えた。「行き先はどこだい?」

「そうだな、パリかな、それとおそらく、カールズバッドに行くかもしれないな……ろくでもない海岸のリゾート地だが、きみの体には最高だ」

「頼むよ、そのあとはどこに行くんだい?」

「そうだな」ジェームズは言った。「プラハ、ブダペスト、ウィーン、リビエラ、モンテカルロも入れてもいいが、好きなのを選んでいいぞ」

「何だって!」クーパーウッドは叫んだ。「私がモンテカルロにかい!」

「そうだよ、自分を病気だと思っているきみが、モンテカルロにだ。この特別な時期にモンテカルロに現れれば、きみに関することで確実にきみの狙いどおりの反応を生み出すだろうよ。それだって、実際には、カジノの一つに顔を出して二、三千ドルをする以外のことはする必要はない。それでニュースが海外に広げられるからね。世間は、きみがそこにいることや、すった金額などきみにとっては痛くも痒くもないんだ、と話題にするよ」

「待った、待ってくれよ!」クーパーウッドは叫んだ。「その体力があれば行くよ。もし駄目だったら、契約不履行で訴えてやるからな!」

「やればいいさ」ジェームズは返事をした。

 その後、ジェームズ医師がプライアーズ・コーブに住み着いて、三週間監視の目を緩めず治療に専念すると、クーパーウッドは自分でもかなり具合がよくなったのを感じた。ジェームズは日々観察して、提案された旅行の計画を実行できるほど十分に患者の体調は回復したと判断した。

 しかし、ベレニスはクーパーウッドの健康状態が回復していることを知ってよろこびながらも、この旅行の計画には悩まされた。ベレニスは、不治の病と噂されればおそらく彼の事業計画全体を混乱させることはよくわかっていた。彼を愛していたので、ジェームズ医師とクーパーウッドが考えるほどには、こういう旅行に価値も効果もないかもしれないことに不安を覚えずにはいられなかった。しかしクーパーウッドは、体調は良くなったし、計画は理想的だから何も心配することはないとベレニスに保証した。

 次の週末、二人は出かけた。そして、事実、ロンドンの新聞がすぐに、最近重病と噂されていたフランク・クーパーウッドが完全に回復したらしく、ヨーロッパ観光ができるようになったと報じた。少し遅れて、パリ、ブダペスト、カールズバッド、ウィーン、モンテカルロ、何とまあモンテカルロからもずっと他の新聞の記事が続いた。「つい最近病気になった不死身のクーパーウッドが、モンテカルロを娯楽と静養の場に選んだ」と報じて、新聞各紙はこの最新情報を強調した。

 しかし、ロンドンに戻ると、記者たちからの質問は、とても率直で明け透けなものだった。ある記者は尋ねた。「あなたが重病だったという噂がありますが、クーパーウッドさん、事実なんでしょうか?」

「実を言うとね」クーパーウッドは答えた。「ずっと働き詰めだったから、静養が必要だと気がついたんだ。この旅行には私の医者の友人が同行しました。二人でヨーロッパをぶらついてきたところですよ」

 メトロポリタン美術館に貴重な美術品の数々を遺贈したというのは本当ですか、と〈ワールド〉の特派員が尋ねたときは心から笑った。

「私の遺言の中身が知りたかったら、私が芝生の下に収まるまで待たなければなりませんよ。私には世間の慈悲が好奇心なみに強いことを願うことしかできません」

 プライアーズ・コーブの広々とした芝生の上でこのコメントを読んだとき、ベレニスとジェームズ医師の顔は笑顔になった。ジェームズ医師はニューヨークと現地での診療に戻らねばならないと着実に意識していたが、自分がますますクーパーウッドとベレニスの気持ちに引き込まれているのに気がついた。クーパーウッドを一応普通の健康と体力の状態に戻したことで、二人はジェームズに計り知れないほど感謝していた。そして、医者との別れの時が来たときには、三人の間に感謝の気持ちと精神的な結びつきが生じていた。

「本当にきみには何も申し上げる言葉がないよ、ジェフ」クーパーウッドは、自分とベレニスが医者と一緒に、医者の乗る汽船のタラップまで歩くときに言った。「私がきみのためにできることは、きみの言いつけを守ることですね。私の願いはただひとつ、これまでのように私たちの友情が続くことです」

「礼には及ばんよ、フランク」ジェームズは口を挟んだ。「これまできみと知り合えたことで十分さ。できれば、ニューヨークに会いに来てくれよな。また会えるのを待ってるよ」鞄をとりながら付け加えた。「さて、船は待っててくれないな!」そう言って微笑むと、ジェームズはまた握手を交わし、ついに船に乗り込む人混みに溶け込んだ。

 


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