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ストイック  作者: ドライサーの小説の翻訳作品です
58/79

第58章

 

 ノルウェーの休暇でクーパーウッドは体調がとてもよくなったので、一九〇五年一月までに資本金一億八千五百万ドル、路線百四十マイルの敷設、地下鉄の全面電化という自分に課した目標を達成するために、集中した努力で事業を推進したかった。この仕事を完了させて、その価値を証明したいという新たな野心と願望に駆り立てられたので、プライアーズ・コーブでもどこか他の場所でも、ほどんど休めなかった。

 そして、その後の数か月間は、取締役会議、関係機関や重要な投資家との話し合い、技術的な問題、そして時には夜にステイン卿とエルバーソン・ジョンソンとの個人的な会合があった。最後に、ガンツという名の男に発明された電動モーター装置を調べにウィーンに出かける用事ができた。これを使えば地下鉄の運営費用の大幅削減が見込まれた。モーターを見て機能を観察した後でその価値を確信し、すぐに電報を打って自分の意見を確認するために技術者数名をウィーンに来させた。

 ロンドンへ戻る途中、パリのリッツ・ホテルに立ち寄った。そこでの最初の夜、ホテルのロビーで昔の仲間のマイケル・シャンリーに会った。一時期シカゴで雇っていた男で、パリのオペラ座のコンサートを聴きに行こうと誘ってくれた。そこで演奏されるショパンという名のポーランド人の作品のことで話が盛り上がった。クーパーウッドはその名前に何となく聞き覚えがあるだけで、シャンリーに至ってはそれ以下だったが、二人は出かけた。クーパーウッドはその曲にすっかり魅了されてしまい、ショパンがペール・ラシェーズ墓地に埋葬されたことをプログラムの解説で読むと、翌日その世界的に有名な墓地に行こうと提案した。

 翌朝、クーパーウッドとシャンリーはペール・ラシェーズに行って、現地でガイドを雇った。ガイドは墓地の糸杉の並木道を歩きながら英語で多くの情報を提供した。こうして二人は、この縦穴の下に、かつてその黄金の歌声でシカゴで彼を感動させたサラ・ベルナールが眠っていることを知った。少し先にはバルザックの墓があったが、その作品が偉大だと考えられていることしか知らなかった。クーパーウッドは立ち止まって見つめる間、自分のような特殊な仕事をしていると、他の多くの分野の天才の知的、芸術的価値を知らずにすごしてしまうと改めて痛感した。二人はビゼー、デ・ミュッセ、モリエールの墓を通り過ぎ、最後にショパンの眠る場所に来た。そこはリボンで結ばれたバラやユリの花束が散乱していた。

「今、考えても」シャンリーは叫んだ。「確かに、偉大な音楽家ですよ。しかし死んで半世紀以上たつというのに、ここにこれほどの花があるとは! まあ、自分には誰もこんなことをしてくれないでしょうね、きっと!」

 その考えがきっかけで、たとえ死後一年でもいいが、自分の墓に花が散乱することがありえるだろうか、とクーパーウッドは疑問を抱いた……腹立たしいというより面白い発想だった。何しろ、働き者であろうがなかろうが、何年も経ったあとで花が散乱している墓はどこにもほとんどないことがよくわかったからである。

 しかし、ペール・ラシェーズ墓地を去る前に、もう一つの驚きが彼を待っていた。出口に向かって南に曲がると、思いがけず、アベラールとエロイーズの美しい二人の墓に行き当たった。ガイドはそれにまつわる不運な二人の有名な悲劇のロマンスを語り始めた。エロイーズとアベラール! 精神的に優れた修道士を想う少女の愛と、十一世紀の冷酷な司教座聖堂参事会員であるその父親の野蛮な仕打ち! クーパーウッドはこの時まで、この恋人たちの話を聞いたことがなかった。しかし今、ガイドの話に聞いている間にも、明らかに上品でとても魅力的な女性が、花がいっぱいのかごを持って墓に近づき、色とりどりの花を墓の上と周りにばらまき始めた。クーパーウッドとシャンリーは、これにすっかり感動して帽子を脱ぎ、相手と目が合うとうやうやしくお辞儀をした。女性は「ありがとう、みなさん」と言って相手の気遣いを受けとめて立ち去った。

 しかし、この華やかで感動的な出来事は、出会った頃の自分とアイリーンに関係する一連の思い出をクーパーウッドの頭に再現させた。生涯の一時期、フィラデルフィアで投獄されたとき、結局、実父を含む彼の敵すべてを向こうに回して、誠実に彼のもとへ通い、変わらぬ愛を宣言して、自分にできるあらゆる方法で彼の境遇をいたわってくれたのはアイリーンだった。アベラールとエロイーズのように、アイリーンが求めたのは彼だけで他の誰でもなかった。クーパーウッドが知るように、今でもそうだった。

 突然、自分たち二人の墓、美しい永遠の安らぎの場、というアイデアが頭にひらめいた。そうだ、建築家を雇って、設計してもらおう。少なくとも一度はアイリーンが自分を大事に思ってくれたのと同じくらい、自分もアイリーンを大事に思っていた事実を記念する美しい墓をつくろう。

 


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