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ストイック  作者: ドライサーの小説の翻訳作品です
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第56章

 

 戻ってきてニューヨークのアイリーンに会いに行くと、クーパーウッドはうれしい驚きの展開に遭遇した。彼がいなくなってから、アイリーンは家を増築するかもしれないという彼の提案と、改築に関して彼女の好みを考慮したいと彼が表明したことを重く受けとめていた。これは、クーパーウッドに言えたどんなことよりもアイリーンを喜ばせた。その結果、アイリーンはすでに建築家に用意してもらっていたいくつかの図面、デザイン、配色を持ち出して、クーパーウッドに見てもらいたがった。

 クーパーウッドは、この邸宅を最初に設計したアメリカの建築家レイモンド・パインが、古い家を新しい家に調和させた変更案のスケッチを一通り作成していたことを知って喜んだ。アイリーンは、あれやこれやと芸術的な解釈をする段階が好きなことを強調した。クーパーウッドはパインに会って、この問題にはゆっくり時間をかけるよう忠告した。最後に、二人の芸術的嗜好を反映させるだけでなく、二人の社会との融和をもたらすかもしれない何かの重要な役割が与えられた気持ちにさせてアイリーンのもとを去った。

 それでも、このときニューヨークやアメリカにいることは、クーパーウッドにとって容易なことではなかった。ロンドンに行ってから、彼の社会観は変わった。自分の利益を図るための努力において、イギリス人が抜け目なさや鋭さで劣ることはなかった。しかし、ステイン、ジョンソン、その仲間たちに出会ってから気づいたように、商売や取引に、休息や楽しみを織り交ぜる必要性がほぼ無意識に考慮された。しかしここアメリカでは決まり文句があるように、ビジネスはビジネスだった。

 ニューヨークに到着してからずっと、仕事上のやり取りしかなかった。ここではやろうにも他には面白いことが何もないようにクーパーウッドには思えた。このため、彼の心は絶えずベレニスとプライアーズ・コーブに戻っていたが、資金源として挙げた都市をすべて回らねばならないことはわかっていた……東部中を駆け足で回る旅は、多少なりともクーパーウッドを疲れさせた。生まれて初めて、自分も年をとったのかもしれない、と感じるのではなく考えるようになった。しかし、うまい具合に、いろいろな圧力団体の活動があって、彼のいることが最も重要だと告げる、ジョンソンから緊急電報が届いたおかげで、ようやくこの問題から解放された。

 アイリーンに電報を見せたところ、それを読んでから、クーパーウッドの顔に浮かんだ疲れに話を振って、結局、自分の健康が一番重要なのを覚えておくよう警告した。できることなら、ヨーロッパの仕事をやめて引退すべきだった。クーパーウッドは、そのことならすでに考えている、自分が不在の間、アイリーンがつつがなく過ごせるように、カスバートにアートコレクション全体を管理する指示を出した、彼は信頼できる判断力を持つ男だ、と答えた。

 その一方で、ベレニスは、クーパーウッドがいつ戻るのだろうと思い始めていた。クーパーウッドがいないと時間が経つにつれて、どんどん孤独になることに気がついていた。ステイン卿が、より多くの友人に引き合わせるためにいろいろなレセプションや夜のパーティー、宮中のレセプションにまで連れ出したが、ベレニスは何だか奇妙な説明できない気分でクーパーウッドがいないのを寂しがった。クーパーウッドは、ベレニスの人生では支配的な力であり、ステイン卿を囲んでいる高貴な雰囲気でさえ小さく見せてしまう力だった。ステインは優しくて魅力的な仲間だとわかっていたが、プライアーズ・コーブの静けさに戻ると、いつも考えや気分、感情の中で再びクーパーウッドと一緒になった。彼は何をしていて、誰を見ているのかしら? またローナ・マリスに関心を持つかしら? それとも新しい人かしら? それとも、明らかに恋をしている自分のところに、以前に戻ったように、戻ってくるかしら? そして、彼と一緒にアイリーンも戻ってくるのかしら、それとも、彼に休息の時間を与える気にさせるくらい十分になだめることができたかしら? 

 女は嫉妬深い! 彼のことになると、自分まで嫉妬する! 

 結局は、彼が頼りなのだ! 自分だけでなく母親もそうだっだ! 学費を払ってくれたのも、その後におしゃれなパーク・アベニューのすてきなニューヨークの家をくれたのも彼だった。

 精神的にも哲学的にも、ベレニスは他の誰よりも冷たい現実的な性格だった。クーパーウッドがアイリーンの脅しのせいでニューヨークに戻らざるを得なくなる直前、もしアイリーンのこの最新の急襲でよほど大きな悪影響が自分に及ばなかったら、今までとってきたよりももっと寛大な態度をステイン卿にとってもいいかもしれない、と決心したほどだった。明らかに、ステインはベレニスに深くのぼせ上がっていた。結婚を考えていると信じさせようとさえしていた。

 私がちゃんと気遣いさえすれば十分だ、とこの時ベレニスは思った。ステインがあんなにイギリス的ではなく、伝統的でなければよかったのに。イギリスには、不正な手段で男性を騙した妻と離婚する男性を妨げる法律はないと聞いていた……それで女性が男性と結婚したら女性の方が悪くなってしまう。クーパーウッドがいない間ずっと、この可能性がベレニスを沈黙させ、やや距離をとらせていた。アイリーンが行動を起こすことにした場合の自分の社会的立場を考えていた。

 しかし、ベレニスの不安は、ロンドンの新聞の日々沈黙と、健康と体力の急な衰えを含むさまざまな問題をざっと説明し、同時に、休養とベレニスに再会するためにイギリスに戻りたいという願いが記してあったクーパーウッドからの手紙で徐々に和らげられた。この健康に話が及んだのがきっかけで、仕事の慌ただしさから多少解放されたどこか静かで美しいところへ二人で旅行するのがいいだろう、とベレニスは思いついた。しかし、そういう場所がどこにあるだろう? 彼は随分たくさんのところ……イタリア、ギリシャ、スイス、フランス、オーストリア=ハンガリー、ドイツ、トルコ、聖地……へ旅行していたから、すでに見飽きているかもしれない。

 しかし、ノルウェーはどうだろう? 今思い出す限りでは、クーパーウッドがここを話題にしたのを聞いたことがなかった。それでベレニスは、見知らぬ異国の地で休養するようクーパーウッドを説得したいという思いに駆られて、そこの目新しさと美しさを詳しく知るために、その国についての本を購入した。ベレニスは夢中でページをめくり、暗く高い崖や、厳しい容赦のない自然が切り開いた渓谷の上に何千フィートも垂直にそびえ立つ山脈や山岳や、美しい穏やかな湖の麓にある瀑布や急流の滝の写真を研究した。高い山の中腹に、難破した船員が救命いかだにしがみつくようにして、小さな農場があった。ベレニスは異国の奇妙な神々について読んだ。戦いの神オーディン、雷の神トール、戦いで死んだ人々の魂のために用意された天国のようなものヴァルハラ。

 文章を読んだり写真を見る限りでは、この国は産業主義とは無縁のようだった。この土地はクーパーウッドの休養に実にちょうどいい。

 


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