第53章
このすべてがパリでアイリーンに起こっていたのと同じ頃、まだプライアーズ・コーブにいたベレニスは、自分が本当に驚くほど立て続けに社交的な招待や紹介の対象になっていることに気がついた。そして予想をはるかに超える成功を収めた。ベレニスは、この成功のかなりの部分はクーパーウッドのおかげだと感じたが、それ以上に、ステイン卿の思い入れと、とても重要な上流社会の人たちからなる彼のサークルにベレニスを紹介したいと彼が望んだからなのをよく知っていた。
アイリーンはパリにいるから、ベレニスと自分がステインのヨットのイオラ号で船の旅をする誘いを受けても大丈夫だとクーパーウッドは判断した。乗船するゲストの中には、夫がイギリス最古の称号を持つチャドレイのクリフォード夫人、女王のお気に入りの一人でステインの大の親友の一人のマールボロ公爵夫人、宮廷生活と密接なかかわりを持つ外交官のウィンダム・ウィトレー卿がいた。
やがてイオラ号がカウズで停泊すると、ステインは王妃が滞在中で、午後、彼と友人たちをお茶に迎えるとお言葉をいただいたとゲストに知らせた。この発表は全員をとても興奮させた。特にベレニスはこれがもとで世間で注目を浴びるかもしれないので神経を尖らせた。王妃はとても寛大で、この非公式な訪問を楽しんでいるように見えた。王妃はベレニスに特別な関心を示してさまざまな質問をした。もしベレニスが正直に答えていたら、自分にとって大きな傷害となったかもしれないが、そうしなかったため、王妃からロンドンでもっとベレニスに会いたいという希望が表明された。実際、次回の宮廷レセプションに自由に出席してほしいとのことだった。王妃のこのはからいは、ベレニスを驚かせ、自分が望めば、自分のためにどんなことができるのか、さらに大きな自信になった。
これでベレニスの愛情を求めるステインの欲求はものすごく高くなった。同時に、これがクーパーウッドに与えた影響は、ステインがベレニスに与えるかもしれない影響をさらに誤解させた。
しかし、ロンドンのホテルの部屋に戻った彼を待っていたのは、もっと大きな心配事だった。ニューヨークに出航する直前に彼に宛てて出したアイリーンからの手紙があった。その内容は、
ついにあたしは、あなたの使用人のトリファーとあなたが関係している我が身の屈辱的立場の真相を知りました。あたしをのけものにして、あなたがいつものように自由奔放に振る舞えるようにするために、恥ずかしくも彼を雇いましたね。長年の献身に、何という報い方でしょう! しかし、心配は無用です。もう勝手にしてください、好きなところへ、好きなときに。自分の売春婦たちと行ってください。本日、あたしはパリをたちニューヨークへ向かいます。そこで、あなたの浮気や好き勝手から最終的に解放されることを期待します。あたしを追って来ないよう警告します。もし来れば、あたしはあなたと今の愛人たちを法廷に引きずり出し、ロンドンとニューヨークの新聞にあなたのことを暴露します。
アイリーン
これを受け、クーパーウッドはかなりの時間をかけて、自分へのこの厳しい非難から生じるかもしれない局面と結果を考えた。すぐニューヨークに戻って、もし何かあったら、大きなスキャンダルを避けるために何ができるのかを見極めた方がいいように思えた。しかし、これと密接に関係するのがベレニスの立場だった。もしアイリーンが脅しどおりに事を起こしたら、ベレニスの将来は大きく傷ついてしまう。何を犠牲にしても、そんなことは起こってほしくなかった。
したがって、最初の行動は、すぐにベレニスに会いに行くことだった。彼女はご機嫌でかなり野心に満ちた様子だった。しかし、アイリーンの最新の非難と脅しの内容を話したとたんに、表情が急変したことから、これを深刻な問題ととらえたことがわかった。どういうわけでトリファーが自分の立場を告白したのか、ベレニスは知りたかった。
「黙っていれば、どうってことなかったのに」ベレニスはぴりぴりして言った。
「あなたはアイリーンという女をわかっていませんね」クーパーウッドは皮肉っぽく答えた。「最終的な結論に至るまでじっくり問題を考える人じゃないんです。それどころか、自分にも関係者全員にも有害無益な怒りをふくらませます。実際に、どんな相手でも双方が同じくらいダメージになる自白に追い込めるほど凶暴になれるんです。現時点で私が考えられることはただ一つ、一番はやい船でニューヨークに戻り、先に現地入りすることかもしれません。その一方で、すぐロンドンに来るようトリファーにはすでに電報を打ちました。雇い続けておけば、何も言わないように簡単に手配できますからね。だけど、あなたならどんな提案をするのでしょう、ベヴィ」
「あなたと同じ意見よ、フランク」ベレニスは言った。「あなたはできるだけ早くニューヨークに戻って、アイリーンをなだめるために何ができるかを確かめるべきだと思います。あなたが話してあげれば、こんな風に爆発することがいかに無駄なことか、わかるかもしれないわ。だって、彼女はこれ以前から私や他の人たちのことを知ってたんでしょ」ここで、ベレニスは皮肉に微笑んだ。「それに、これをアイリーンに言えるのは、きっとあなただけよ。結局、今回あなたは、アイリーンに何も害を与えていません。これに関しては、トリファーもです。実際、あなたはアイリーンに誰もが望むパリの観光に最高のガイドをつけたのよ。ついでに言うと、あなたはここでの仕事にかかりっきりだったことも彼女にはっきりさせるといいわ。結局、これで何かの改善効果をもたらさないはずはないように思うんだけど。新聞は、あなたが彼女に指摘できそうな、努力と成果でいっぱいでしょ」……クーパーウッドにも決して引けは取らない知恵の爆発だった。今も言ったが、嘆かわしいのは、ステインではなく、自分が行かなくてはならないことだった。
「心配ないわよ」ベレニスは慰めるように言った。「あなたは偉大な人だから、こんなことに負けないわ。あなたがいつものように凱旋することを、私はちゃんとわかってますから。それに、私がずっとあなたと一緒にいることを、あなたはわかってるでしょ」ベレニスは両腕を彼にまわし、深々と愛情をこめて顔に微笑みかけた。
「もしそうなら、すべてがうまくいくことを私はわかっているわけだ」クーパーウッドは自信をもって言った。




