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ストイック  作者: ドライサーの小説の翻訳作品です
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第51章

 

 クーパーウッドがこの先切り抜けなくてはならない苦しい局面のひとつは、仕事のすべての部門でアシスタントにアメリカ人ではなくイギリス人を雇わねばならなかった、もしくはそうしなければならないと彼が考えていたことだった。デ・ソタ・シッペンスは最初の犠牲者だった。ロンドンが好きになっていたため、胸が張り裂けんばかりだった。いつもうまくやっていた大将と組んで、ここで輝けると思っていた。それ以上に、鉄道の仕事を何も知らない、と彼がすっかり満足していた、この自信満々で人を見下したこのイギリス人たちに、自分の知恵と力を見せつけたくて張り切っていた。しかし、クーパーウッドはそのショックをできるだけ和らげようと、彼にシカゴの財務の仕事をまかせることにした。

 クーパーウッドの資本調達方法の一つは、持株会社を利用することだった。持株会社は彼が支配したい会社を買収するために潤沢な資金を供給し、同時にその支配に必要な株式を供給してくれる土台となる組織だった。今回は鉄道設備建設会社が作られた。ダミーの取締役と会長がいて、彼を加えたその全員が最終的に創業者株を所有することになった。ジョンソンは、年俸三千ポンドで事務弁護士兼法律顧問に就任した。その後、ジョンソンに作成され……クーパーウッドの弁護士たちに細心の注意を払って検討され……ジョンソン、ステイン、クーパーウッドに署名され……た私的な合意書の中で、その時点で所有している分とそれ以降取得される〈ディストリクト鉄道〉と〈メトロポリタン鉄道〉の両方のいろいろな株式は、今後、後日組織される新会社へ移行する〈ディストリクト鉄道〉と〈メトロポリタン鉄道〉の再編、売却を視野に入れた公式投票では一票として投票されることが明記された。そして、この新会社で彼らは旧株一株につき、そこの発行株三株を受け取ることになっていた。

 そして、ジョンソンには〈ディストリクト鉄道〉と〈メトロポリタン鉄道〉両社の分散した株式の大口分を求めて走り回る大仕事があった。その株を五十万ポンド買い付ける注文をクーパーウッドから受けたが、その名義はさまざまだった。また、旧経営陣の間に、クーパーウッドと彼の目論む計画を知ってもらい機運を盛り上げる役目もあった。ステインは、新事業でクーパーウッドと共に議決権を行使することを視野に入れ、この既存の会社の株をできるだけたくさん買うことになった。そして彼もまた、やれるところで、自分の個人的影響力を自分の知るすべてに行使することになった。

 こうした活動の結果、投資家が雪崩を打ってクーパーウッドに押し寄せた。イギリスだけでなく大勢のアメリカの資本家が、彼が集めている権利の重要性に気がついて、今度は自分たちが運営権を取得しようとしたが、その時にはもう運営権はとても入手しづらくなっていた。興味を抱いた人物の一人が、やはりアメリカ人の資本家、スタンフォード・ドレイクその人に他ならなかった。彼は、もしそれが完成したらクーパーウッドの路線とかなりの距離を並走して、この地域の収入を事実上、分け合うことになる路線の運営権を議会に申請した。

 これは、少なからずクーパーウッドを悩ませた。ドレイクであれクーパーウッドであれ、イギリス人はアメリカ人のこの分野への参入に反対だったから、双方にイギリスの反発をまねかないようにして、これを阻止しなければならなかった。その結果、それぞれの立場でのいつもの法廷闘争が起こった。それぞれが相手に想定される欠陥を指摘して、相手がやろうとしていることの意義を過小評価した。

 クーパーウッドは、計画どおりだとドレイクの鉄道は、部分的にはかなりいい住居街を通過することになるが、採算のとれる地域に到達するまでに原野を十マイルも走らざるを得ないと指摘した。ドレイクの鉄道はトンネルが単線、つまり線路がひとつになってしまうが、自分の鉄道は全線複線になるとも指摘した。同時にドレイク陣営も、クーパーウッドの鉄道はテムズ川の堤防の下にあるが、ドレイクの鉄道はストランドやその他のビジネス街の地下にある、クーパーウッドの鉄道はビジネスとかけ離れているが、ドレイクの鉄道は人々をビジネスにつなげるものだ、と反論を続けた。しかし、クーパーウッドは、鉄道を並走させても相打ちになるだけで儲からないと付け加えた。もしドレイク陣営が鉄道の運営権を獲得することに成功したら、それがどう作られても、自分の鉄道会社にかなりの影響を及ぼすことが彼にはわかっていた。もちろん、そのときはこれを認めなかったが、その代わりに、ドレイクの会社がなぜこんな冒険に乗り出すのか理解できないと発表した。そして、できるだけ円滑に進めようとして、ドレイク当人よりドレイクの会社のロンドン支店に失策の責任があると思う、と述べた。さらに踏み込んで、ドレイクさんは立派な人物だ、問題点が明らかにされれば最終的にはそんなところへ資金を投じることはないと信じている、と言った。

 こういう甘い言葉を無視して、ドレイクの弁護団は議会に運営権を求める法案を提出した。するとクーパーウッドの弁護団は彼が建設したい鉄道のために対抗する法案を提出した。その結果、議会は翌年の十一月まで両方の法案を延期し、どちらも支持しなかった。この延期は一応クーパーウッドの勝ちだった。開発計画は全体的にかなりはかどっていた。実際、多少の反対がないと、どんな計画だろうとやっていて楽しくない、愛と戦争ではすべてのことが公平だから、私は最後の最後までドレイク陣営に反対する用意がある、と言う声が聞かれた。

 しかし、スタンフォード・ドレイクの関心は高まり、クーパーウッドとの本格的な戦いは必然となった。自由に使える莫大な資金を持っていた彼は、ピカデリー・サーカス駅を共有する特権としてクーパーウッドに五百万ドル出すことを提案した。この駅はクーパーウッドのものであり、ドレイクが自分のシステム内で明らかに必要なものだった。同時にクーパーウッドに対し、彼が目論む鉄道建設の許可を求めて議会に提出した申請と戦う準備をしている弁護団を即刻引き上げさせるなら、二百五十万ドル出すことも提案した。もちろん、そんな申し出はクーパーウッドに断られた。

 同じ頃、ハイド・パーク・コーナーからシェパーズ・ブッシュまでの鉄道建設を計画していた〈ロンドン・ユナイテッド鉄道〉が、予備交渉を始めた。彼らはドレイクのところへ行き、自分たちの鉄道とドレイクの鉄道を統合しようと提案し、市に運営権を求めた。また、完成の暁には、その鉄道全体を運営するようドレイクに求めた。ドレイクは断った。今度は、自分たちの保線区を運営する許可を求めた。ドレイクはまたも断った。すると、彼らはまだ運営権も獲得していないのに、自分たちの保線区をクーパーウッドに持ちかけた。クーパーウッドは、イギリスとアメリカだけでなくヨーロッパ全土で手広くやっている金融会社シュパイアー&カンパニーに会うよう彼らに勧めた。この会社はこの問題を検討し、クーパーウッドに利益をもたらすことによって最終的に自分たちにも利益をもたらすことになると見て、問題の会社が持つすべての既存の権利を買収する決断を下し、その後で株式全体を組織で引き受けた。彼らの弁護士は即刻、他の問題を審議中の議会の地下鉄委員会で、運営権の申請の撤回を求めた。ドレイクは一年間、ひとつにまとめた運営権しか求めていなかったので、これが訴え全体を無効にした。ドレイクは自分たちの分の区域の運営権を認めてほしいという要望書をもって戻った。しかし、元々の請求がそういうものを一切求めておらず、委員会にもそういう法案は何もなかったので、クーパーウッドの弁護士はこの問題全体が却下されねばならないと主張した。そして、ドレイクの計画は撤回された。

 この傑出した敵対者二人の間で繰り広げられた戦いの劇的な結末は、英米両国の新聞で詳細に報じられ、ロンドン全域の移動を便利にする交通システムの発展を支持するロンドン郡議会は、クーパーウッドの勝利に沸き、彼をどこででも最大の好意で受け入れられるに値する、大きくて貴重な社会的資質を備えた人物だ、と評した。

 クーパーウッドは、この気運に乗じて、自分の巨大な事業がもたらす社会的利益を大いに強調した。彼のシステムは、最終的に年間二億人の乗客を運び、客車は二等、運賃は一律五セントで、乗客が地下鉄で全区間移動できる完全に接続されたシステムとなり、高速輸送、安い運賃、多くの運行数のいい実例になる、と発表した。

 この頃、クーパーウッドは個人的にも大成功していたので、株集めや利益をあげる以外の問題に力を注ぐことができた。たとえば、単なる宣伝のためにターナーの絵『のろしと青い光』を七万八千ドルで購入して自分の事務所にかけた。

 


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