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ストイック  作者: ドライサーの小説の翻訳作品です
46/79

第46章

 

 しかし、ローナと別れるのは簡単ではなかった。ベレニス、アルレット・ウェイン、キャロライン・ハンド、過去にいたたくさんの魅力的な人たちと同じように、彼女も馬鹿ではなかった。かの偉大なクーパーウッドが身近にいてくれると、ものすごく引き立つから、ごねずに引き下がるのはもったいなかった。

「ロンドンには長く滞在するの? 定期的に手紙を書いてくれる? クリスマスには戻らないの? せめて二月はどう? あのね、私たちは冬中ずっとニューヨークに留まることが決まったわ。その後ロンドンに行こうって話まで出てるのよ。そっちに行っても平気かしら?」

 ローナはクーパーウッドの膝の上で丸まって、耳に話しかけていた。ロンドンに行っても、アイリーンと現地の仕事の邪魔にならないよう、ニューヨークでそうだったように目立たないようにすると付け加えた。

 しかし、クーパーウッドはベレニスとステインのことを考えはしても、そんなことは考えなかった。ローナが肉体を本当に官能的に興奮させることができたのは事実だが、社交力、美の認識、駆け引きではベレニスにかなわず、クーパーウッドは違いを感じ始めていた。終わりにしなくてはならなかった。それもきっぱりと。

 ステインがトレガサルに行き、自分も半分乗り気なのを知らせてきた手紙を最後に、クーパーウッドがいろいろな手紙や電報を打ったにもかかわらず、ベレニスからは何の音沙汰もなかった。クーパーウッドはベレニスの沈黙を徐々に〈タウン・トピックス〉の記事と関連づけ始めた。ずっと勘のよかった頭脳が、もうこれ以上手紙を書くのはやめて出発しようと判断した。それもすぐにだ。

 そういうわけで、ローナと一夜を過ごした翌朝、彼女が昼食の約束に備えて身支度しているときに、クーパーウッドは退路を作り始めた。

「ローナ、きみと私は話し合わないといけない。私たちのお別れと私がイギリスに戻る件についてだ」

 クーパーウッドはローナが時々挟もうとした質問や反論には耳を貸さず、できるだけ正確に自分の事情を説明し始めた。しかし、ベレニスの名前は出さなかった。そう、他にも女がいた。そして、彼女との幸せな関係は、このときの彼の人生で最も必要で大切なものだった。その上、アイリーンがいて、ロンドンの仕事の性質があった。二人のこの関係が限りなく続くとは、ローナだって考えていないに違いない。とても美しいものだった。今でもそうだ。だが……

 ローナが何を言おうと、要所々々で涙をあふれさせようと、その様子はまるで王様が、お気に入りだが捨てられる運命にある愛人に話しかけているようだった。ローナは座ったまま、がっかりして、傷つき、少なからずすごみ、にらみつけた。こんなあっけない終わり方をされるとは信じられなかった。でも、クーパーウッドを見ていて、思い当たる節があった。そういえば、二人で一緒に何時間も過ごしたが、大好きだとか、これは終わらないとか、彼は一度も言ったことがなかった。そんなことを言う人間ではなかった。それに、ローナには美貌と才能があったから、どんな男性も、たとえクーパーウッドであろうと、一旦この深い関係になって、自力でこの自分から離れる術を見つけられるとは信じていなかった。どうして、こんなことを言い出せるのだろう? フランク・クーパーウッド、大伯父、実の身内、そして恋人! 

 しかしクーパーウッドは、活動的で、思慮深く、冷酷で、死刑執行人であり、恋人だった。そしてローナを前にして言った。もちろん、血のつながりはある。これと、彼女への本物の愛情があるから、最終的な精神的断絶はありえない。しかし、肉体関係は断たねばならない。

 そして、その他にも、出航の準備をしていた数日の間にもっと長い話があった。その中でローナは、彼が自分を親類として見つづけるべきだと主張した。ローナはどんな形であれ彼に干渉するつもりはなかった。それに対し、クーパーウッドはそうしようと答えた。しかし同時に、心はずっとベレニスに向いていた。クーパーウッドはベレニスを知っていただけに、ローナのことくらいではおそらく自分から離れないだろうが、義務を感じなくなって、知的・精神的に支えるのをやめるかもしれないと思った。そして今はその背景にステインがいる。ぐずぐずしてはいられなかった。何しろ、間違いなくベレニスは彼に依存していなかったからだ。できるだけ早く彼女と和解しなければならない。

 クーパーウッドは必要な準備を全部整える前ではなく整えてから、ロンドンに戻るとアイリーンに伝えることにした。そして、ある晩、アイリーンに話す準備をして自宅に入ろうとしたときに、トリファーが帰るところにばったり出くわした。クーパーウッドは彼を心から歓迎し、ニューヨークでの行動に関する質問を一つ二つしてから、アイリーンと自分は一両日中にロンドンに戻るつもりだとさりげなく知らせた。トリファーがはっきり理解したこの小さな情報は、自分も渡航することを意味したので、トリファーは喜んだ。これで、パリに、おそらくマリゴールド・ブレイナードのところにも、戻れるからだった。

 しかし、この男ときたら、何とあっさり手際よく物事を片付けてしまうのだろう! 一度に、同時に、ニューヨークにローナを置いて、神のみぞ知る人を海外に置き、アイリーンと自分にロンドンへ、大陸へ、行けと命じることができるのだ! そしてその間中ずっと、初めて会ったときに気づいたあの同じ何の問題もない表情を続けていた。一方、この予定の変更を知らされたトリファーは、この別の男の人生の、勢いがあってくじけない進行を、調節して、可能にして、快適にするために、現在準備しているものをすべて中断しなくてはならなかった! 

 


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