表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ストイック  作者: ドライサーの小説の翻訳作品です
45/79

第45章

 

 一方、ニューヨークで、クーパーウッドは依然として最新のロマンスを満喫しているように見えた。しかしその裏では、それもすぐ真裏では、ベレニスのことを考えていた。クーパーウッドの場合ほぼ毎回そうだが、純然たる情事にうつつを抜かす期間は限られていた。血流そのものに何かがあって、それがやがて決まって突然、本人ですらほとんど説明できないのだが、興味がなくなった。しかし、ベレニスから連絡があって、ついに、そして人生で初めて、自分で敗北を招いていると確信して困っていることに気がついた。これはただの情事の問題ではなくて、美を失うだけでなく精神的ダメージになるかもしれなかった。女性の中でただ一人、ベレニスはクーパーウッドの人生に情熱と賢さ以外のもの、美と創造的思考に敏感に関係する何かをもたらした。

 そして今、彼を躊躇させたものが他にも二つあった。一つ目で、最も重要なのが、ステインがプライアーズ・コーブに立ち寄ったことと、ベレニス親子をトレガサルに招待したことを伝えるベレニスの手紙を受け取ったことだった。ステインの肉体的、精神的な魅力は彼も知っていたから、これはクーパーウッドをとても動揺させた。これはベレニスにとっても魅力的に映るだろう、とクーパーウッドは感じた。すぐにローナとの関係を清算して、ステインが幅を利かせるのを防ぐためにイギリスに戻るべきだろうか? それとも、心ゆくまでローナとの関係を楽しむためにもう少し長居して、そういう行動をとることによって、自分はまったく嫉妬しておらず、これほど顕著で有能な恋敵を冷静に許せるところをベレニスに示して、それによって彼女を説得し、二人のうちで自分の方がしっかりしていると思わせるべきだろうか? 

 しかし、その他にも、彼の気持ちを複雑にする別の問題があった。キャロライン・ハンドの突然の、まったく予期せぬ発病だった。ベレニスの前にいたすべての人の中で、キャロラインは最も役に立った。彼女の知的な手紙は、彼女の変わらぬ献身をクーパーウッドに誓い、ロンドン・プロジェクトの成功を祈り続けていた。ところが今度は、すぐに虫垂炎の手術を受けねばならなくなったという知らせが届いた。キャロラインはせめて一、二時間でいいからクーパーウッドに会いたがった。話したいことがたくさんあったのだ。帰国していたから、クーパーウッドは行こうと思えば行けた。そうするのが義務だと感じて、キャロラインに会いにシカゴへ行くことに決めた。

 クーパーウッドは生まれてこの方、愛人に軽い病気で見舞いを求められたことはなかった。どれもがすべて、明るくて若さあふれる通り一遍の情事だった。そして今、シカゴに到着し、自分がキャリーと呼ぶ人がひどい痛みに苦しみ、病院に運ばれようとするのを見て、クーパーウッドは人間の存在のはかなさについて真剣に考える気になった。キャロラインがわざわざクーパーウッドに来てもらいたがった用件の一つは、アドバイスが欲しかったからだ。口調は十分に明るかったが、事態がうまくいかないことを想定して、キャロラインは彼に自分のある願いが実行されることを確認してもらいたがった。コロラドに二人の子供を持つ妹がいて、彼女は妹に献身的で、ある債券が譲渡されることを望んでいた。これはクーパーウッドが彼女に購入を勧めたもので、今は彼のニューヨークの銀行に預けられていた。

 クーパーウッドはその年齢で死に備えたキャロラインの用心深さをすぐに軽視した……彼は彼女より二十五歳年上だった……同時に、ありうることだと考えていた。誰もが死ぬかもしれないのと同じように、もちろん、キャロラインだって死ぬかもしれない。ローナもベレニスも、誰だって死ぬかもしれない。六十歳の自分が若者同然の熱意を持って挑み、その一方で三十五歳のキャロラインが手放さざるを得なくなることを恐れている、この短い戦いは何とむなしいのだろう。おかしなことだ。かわいそうに。

 しかし、あろうことか、用心深さがぴたりと的中してしまい、キャロラインは病院に入ってから四十八時間とたたない内に死んでしまった。彼女の死を聞くと、地元では彼女が彼の愛人だったことが知られていたから、すぐにシカゴを離れた方がいいと思った。出発前にシカゴの弁護士の一人を呼び寄せて、何をすべきか指示を出した。

 同時に、キャロラインの死はクーパーウッドの心を蝕んだ。病院に向かうときでさえ、彼女はとても勇敢で、とても生き生きとしていて、気が利いた。家を出る前に、そして彼が一緒に行けないことを残念がった後で、彼女が最後に言った言葉があった。「ねえ、フランク、私はこれでもいい伴奏者なんだから。戻って来るまで、どこにも行っちゃいやよ。やり残したデュエットが、まだ少し残ってるんだから」

 それなのに、彼女は戻って来なかった。そして、シカゴの思い出で一番楽しかったものの一つが彼女と共に消えてしまった。そのとき彼は大きな戦いの中にいて、彼女と一緒の時間はほんの少ししかとれなかった。そして今、キャロラインがいなくなった。どんなに身近にいるように見えても、本当はアイリーンもいなくなってしまった。ステファニー・プラトーや他の人たちがいなくなったように、ハグエニンもいなくなった。もういい年だ。自分にはあとどれくらい残っているのだろう? 急にベレニスのもとへ戻りたくてたまらなくなった。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ