第43章
ベレニスとステインには、気質に似通ったものがあった。ベレニスと同じように、ステインはクーパーウッドに比べたら無骨ではなく、やや実務経験も不足していた。一方、ステインはクーパーウッドが輝きを放つ実践的領域から排除されていた分だけ、ベレニスが最も楽しめる雰囲気の中で、美しく支配された贅沢のあの雰囲気の中で、一層効果的に輝いていた。ベレニスは夜、散歩したほんのわずかな時間でステインの趣味と哲学を吸収した。そのときステインは自由に自分のことをベレニスに話した。クーパーウッドと同じように、ステインも気づいた運命を受け入れ、それを喜びさえする傾向があった。彼は裕福だった。一応、才能にも恵まれ、爵位があった。
「しかし、私は自分が持っているものを、獲得するためのというか、受けるに値することを何もしていません」ステインはそこを認めた。
「それは確かですね」ベレニスは笑いながら言った。
「しかし、私はここにいます」ステインはベレニスが口を挟んだのに無視をきめこんで続けた。「世界はそういうもの、不公平なんです。ある者には恩恵がいっぱいで、ある者には何もないんです」
「そこはあなたの意見に同意します」ベレニスは急に真面目になって言った。「人生は狂った運命に貫かれているようです。美しいものもあれば、恐ろしいもの、恥ずべきもの、残忍なものもあります」
ステインはそれから自分の人生を語り続けた。ステインの話では、父親が同じ伯爵でもある友人の令嬢と結婚させたがった。しかし、ステインが語ったように、二人の間には十分な愛情がなかった。そしてその後ケンブリッジで、もっと世界を見るまで、どんな条件であっても結婚を遅らせようと決めたのだった。
「しかし、困ったことに」ステインは言った。「旅行の習慣がついてしまったようでしてね。そして、その間の暇なときには、ロンドン、パリ、トレガサル、プライアーズ・コーブに行きますからね」
「でも、悩んじゃいますね」ベレニスは言った。「孤独な独身男性ってそういう場所で何ができるのかしら」
「それが私の大きな気分転換になるんです。パーティーですよ」ステインは答えた。「きっとあなたもその目でご覧になったでしょうが、ここはそういうものがたくさんあるんです。到底逃げきれませんからね。でも私だって時々とても一生懸命やるんですよ」
「楽しいからですか?」
「ええ、そうだと思います。少なくとも、自分を自分のままでいさせて、自分が健康だと思うバランスを確立してくれます」
そして、ステインは個人の実績の伴わない称号は大して価値がないという持論を展開した。また、世界の関心は、科学や経済の分野で働く人の方に向いていた。ステインの関心を最も引いたのは経済だった。
「でも、私がお話ししたいのはそういうことじゃなくて」ステインは話を締めくくった。「トレガサルのことです。あそこは普通のパーティをするには少し遠過ぎるし、殺風景過ぎるんです。だから本格的な人寄せをするときは、ちょっとした段取りをしなくてはなりません。ロンドン周辺で起きることと比べたら大きく違いますからね。私はそこをよく避難所に利用するんです」
すぐにベレニスは、ステインが二人の理解をもっと深めようとしているのを感じた。この問題をすぐに終わらせて、これ以上発展しないように、今ここで確実にしておくのが一番いいかもしれない、と考えた。それでも、自分と同じくらい広い人生観をもつ相手にまで、このような行動をとる必要があることには腹立を立てた。散歩する間にステインを見ながらベレニスは、クーパーウッドとの本当の自分の関係をステインに打ち明けたら、彼は自分の自然な興味に支配を許し、社交の丁重な気遣いを続けたいと思わなくなるかもしれない、と思った。結局、ステインは今クーパーウッドと仕事のつながりがあったし、ベレニスのことも尊重するくらいに彼に敬意を払っているかもしれない。
同時に、彼にはこの本物の魅力があった。ベレニスはこの夜の会話を延期することに決めた。しかし翌朝、日の出直後に早めの朝食をとって乗馬に出かけようと集まったときに再開した。ステインは、数日間の休養をとるだけでなく、注意を必要とするいくつかの重要な財務の問題をはっきりと検討するためにも、トレガサルに行くつもりだと言った。
「あなたの後見人の地下鉄計画に関連した仕事が山積みなんですよ」ステインは打ち明けた。「ご存知かもしれませんが、非常に複雑な作業工程を抱えてらして、そのために私の助けが必要だと考えているようです。私が本当にお役に立てるものなのかどうかを判断するつもりです」ステインは、ベレニスに何か言うことがあるかどうかを確かめるかのように話をやめた。
しかし、ベレニスは彼のすぐ横をゆっくりと走りながら、どんな形であれ自分の気持ちを打ち明けまいと強く決めていた。今度はベレニスが言った。
「クーパーウッドさんは、たまたま私の後見人ですけど、私じゃ金融のことはわかりません。私は、どうすればお金が儲かるかよりも、お金が作り上げるすてきなものの方に興味があります」ベレニスは煮え切らない微笑みを向けた。
ステインはしばらく馬の点検をして、振り向きざまにベレニスを見て叫んだ。「ほお、あなたは私と全く同じ考え方をしますね! 私は美しいものを愛しているのに、どんな形であれ、どうして現実的な問題で悩むのだろうとよく考えます。これを巡って、私はよく自分と戦っていますよ」
そして今、ベレニスは再びステインと、自分の積極的で冷酷な恋人とを比べ始めた。クーパーウッドの金融の才と飽くなき権力欲は、芸術や美を愛することで、ある程度和らげられた。しかし、ステインの著しく発達した美意識は圧倒的だった。その上、同じように富と個性を持ち、加えてクーパーウッドはとうとう勝ち取れなかったが、高貴な称号の重要性を世間が認めていた。明らかにベレニスはステインに際立った印象を与えていたので、この対比はおもしろかった。アメリカの資本家にして路面鉄道王のフランク・クーパーウッドとは対照的なイギリスの貴族!
ベレニスはまだらの灰色の馬に乗って木々の下を駆けながら、自分をステイン夫人だと考えようとした。二人にはステイン伯爵の位を継ぐ息子が授かるかもしれない。しかし、悲しいかな、ベレニスは、ルイビルの悪名高いハッティ・スターである自分の母親と、いつスキャンダルとして表に出るかもしれないクーパーウッドとのただならぬ関係を考えた。アイリーンがいた。クーパーウッドの怒りとそれに続く反目があるかもしれない。陰謀と復讐に長けた彼の才能を考えれば、何だってありえた。現実の厳しさの前でこれまでの興奮が霧のように消えた。どの道を選んでも難関なので、一瞬ベレニスはまさしく凍りついた。しかしその直後にステインに言われてある程度なだめられた。
「あなたは美しいだけでなく聡明で理解力のある方だと言わせてもらえますか?」
悲しい気分だったにもかかわらず、ベレニスは陽気に手を振って応えた。
「あら、どうぞ、身に余るものを私が拒否すると思ってますか?」
ステインは余計に興味をそそられた。彼女とクーパーウッドとの関係はごく普通のものかもしれないと考えるようになった。あの男は五十五から六十歳はいってるに違いない。それに、ベレニスはせいぜい十八か十九歳だ。非嫡出子の娘かもしれない。いや、ベレニスの若さと美貌に目をつけて、クーパーウッドが母親と娘に贈り物や心遣いをたっぷり与えて娘の気を引きたがっている可能性はないだろうか? カーター夫人を見ていて、ステインは簡単には説明できない何かを感じ取っていた。ベレニスは夫人にとてもよく似ていたから、夫人がこの娘の母親なのは明らかだ。ステインは釈然としなかった。今、ステインはベレニスをトレガサルに連れて行きたかった。その方法を考えながら言った。
「まずは、お祝いしないといけませんね、フレミングさん、こんなにすばらしい後見人をお持ちなのですから。あの方は非常に才能がある方だと思います」
「ええ、そうなんです」ベレニスは言った。「そして、あなたがその方に協力しているというか、協力を考えていることを知るなんて面白いわ」
「ところで」ステインは言った。「クーパーウッドさんが、いつアメリカからお戻りになるか、ご存知ですか?」
「最後に聞いた話では、ボストンにいました」ベレニスは答えた。「シカゴや他の場所でやる仕事をたくさんかかえていましたから、本当のところ、いつ戻るかは私にはわかりません」
「戻って来たら、あなた方みなさんをおもてなしするのを私は楽しみにしているんですよ」ステインは言った。「でも、トレガサルの件なんですが、クーパーウッドさんのお戻りを待つ必要がありますか?」
「待った方がいいと思います、せめて、三、四週間はいただかないと。母の具合がよくないんです。ここにいて休みたいというのが今、一番の希望なものですから」
ベレニスはステインを安心させるように微笑みかけた。その一方で、クーパーウッドが戻りさえすれば、あるいは手紙を書くか電報を打つ時間がとれれば、何とかなるかもしれないとも感じていた。ベレニスとしては、この招待を受け入れられたら最高だと思った。クーパーウッドがいなくてもクーパーウッドが認めれば、ここでの親交がステイン関係のクーパーウッドの仕事をはかどらせるかもしれない。すぐにベレニスはクーパーウッドに手紙を書くつもりだった。
「じゃあ、三、四週すれば、大丈夫だと思いますか?」ステインは尋ねた。
「その頃なら大丈夫です。それに、私たちみんなにとって、これに勝る喜びはないことを、はっきりと申し上げます」
そして、ステインは世界一優雅な態度で、この曖昧な返事を受け入れた。明らかに、この若いアメリカの美人は、ステインも、トレガサルも、称号を持つ彼の縁者も必要としていなかった。ベレニスは一人前の人間であり、自分の条件でしか受け入れられようとはしなかった。




