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ストイック  作者: ドライサーの小説の翻訳作品です
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第39章

 

 クーパーウッドはこのことから、トリファーは自分が期待していた以上に機知に富んだ人物だったと結論づけた。この男は明らかに才能に恵まれていた。最小限の激励と、もちろん経済的援助があれば、別れても、彼なら確かにアイリーンがかなり満足できる世界を彼女のために作れるかもしれない。これは少し考えを要する問題だった。もちろん、アイリーンがベレニスについて知ることになれば、おそらくトリファーに助言を求めるだろう。すると買収しなければならない問題になる。かなり面倒だ! また、アイリーン自身の社交が注目されて、その夫がめったに姿を見せないとなると、夫はどこにいるのだろうという憶測が広がる。憶測の行き着く先はひとつしなかい、ベレニスだ。自分と一緒にニューヨークに戻って、トリファーとは別れるよう、アイリーンを説得するのが一番だった。そうすれば、しばらくは、明らかにクーパーウッドがすでに達成したこの有利な立場に修正が加わって、それが他の人の目につきすぎるのを避けられる。

 アイリーンは完全に乗り気でいることが判明した。これには様々な理由があった。そうしなければ、クーパーウッドは別の女を連れて行くかもしれないし、ニューヨークで会うかもしれない、と心配だったからだ。そして、トリファーとその友人たちのことも考えた。ちょうど今クーパーウッドはかつてないほど公人として見られた。その人物の正式な妻であることは最高の栄誉だった。アイリーンの一番の関心は、トリファーが自分についてくるかこないかだった。何しろ、今回アメリカに行くとなると、六か月、おそらくはそれより長くかかるかもしれないからだ。

 すぐにアイリーンは、出発が迫っていることをトリファーに知らせた。トリファーの反応はかなり複雑だった。その背景にあるのはマリゴールドで、彼女はトリファーをノース岬への船旅に一緒に連れて行きたがっていた。今までトリファーは彼女のことを十分に見てきたので、このままアピールを続ければ実際に離婚して自分と結婚するかもしれないと感じた。マリーゴールドは自分の資産をかなり持っていた。トリファーは本当は彼女を愛しておらず、相変わらず若い娘とのロマンスを夢見ていた。それに、目先のお金と継続的な収入の問題もあった。それが途切れたら、自分の華麗な存在はすぐに終わってしまうし、クーパーウッドは何も匂わせなかったが、自分をニューヨークに戻らせたがっていると感じた。しかし、行くにしても留まるにしても、愛の告白もせずにアイリーンを追い続けるのは、彼女にも不可解に思えるところまで来ていると感じた。アイリーンは決して折れないだろし、これでうぬぼれるだろうと思った。それに、これ自体が近づく手頃な口実だった。

「何だ!」トリファーはアイリーンから知らせを聞いて叫んだ。「これですべてお終いか!」トリファーは神経質に行ったり来たりした。マダム・ジェミィのバーでマリゴールドと昼食をとった後でアイリーンに会いに立ち寄ったところだった。顔は深刻な懸念と失望を装っていた。

「どうしたのよ?」アイリーンに真剣に尋ねた。「何かよくないことでもあったの?」アイリーンはトリファーが酔っていることに気がついた。別段、正体をなくすほどではなかったが、彼の気持ちを暗くするには十分だった。

「これはひどすぎる」トリファーは言った。「ちょうど私たち二人に何かが始まりそうだと思っていた矢先でしたからね」

 アイリーンは少し戸惑いながら相手を見つめた。確かに、この多少異例な関係はアイリーンの中で成長を続けていた。はっきりと考えこそしなかったが、自分で認めていた以上にトリファーに惹かれていた。それでも、彼がマリゴールドや他の人たちと一緒にいたのを見たことがあったので、何度も言ったように、女性は彼を絶対に信頼できない、と確信していた。

「あなたがこれを感じているかどうか、知りませんが」トリファーは計算しながら続けた。「あなたと私の間には、交流のある知り合いよりも大きなものがあります。正直に言いますが、初めて会ったときは、こんなことになるとは思いませんでした。私はあなたがクーパーウッド夫人である事実に、私がさんざん耳にしてきた人の関係者である事実に、興味を覚えました。しかし、何度か一緒に話をしてみて、何か違うものを感じ始めたんです。私は人生で多くの困難を経験しました。浮き沈みもありましたし、これからもずっとあると思います。しかし船での最初の数日で、多分あなたもそうだ、と私に思わせる何かがあなたにありました。あなたもご覧になったでしょうが、一緒にいられたかもしれない女性は他にも大勢いましたが、これが理由で私はあなたと一緒にいたくなったんです」

 トリファーは真実以外を語ったことがない人の態度で嘘をついた。そして、このちょっとした演技がアイリーンを感動させた。アイリーンは彼を財産目当てだと疑っていた。おそらく、これは真実だった。もし彼が本当に自分を好きでなかったら、どうして外見を改善して、人を魅了するかつての力を取り戻すためにあれほどの努力をしただろう? アイリーンは突然の感動を経験した。おそらく半分は母性で、もう半分は若さと欲望だった。この浪費家を好きにならずにはいられなかった。トリファーはとても優しくて、快活で、微妙な形で愛情深かったからだ。

「でも、私がニューヨークに戻ることで、どんな違いが生じるのかしら?」アイリーンは不思議そうに尋ねた。「同じように友人でいられないかしら?」

 トリファーは考えた。愛情の問題ははっきりした、今度は何だ? 常にクーパーウッドを考えることがトリファーを支配していた。クーパーウッドは自分にどんな行動を望むだろう? 

「ちょっと考えください」トリファーは言った。「ここの理想的な季節、六月と七月にいなくなるんですよ。せっかく物事が順調に行き始めたところなのに!」トリファーはタバコに火をつけて飲み物を用意した。どうしてクーパーウッドは、アイリーンをパリに留めておきたいのかどうか、自分に連絡を寄こさなかったのだろう? おそらく、出すつもりだろう。だとしたら、そういうことは早めにしてほしかった。

「フランクがあたしに行くように頼んだのよ、あたしには他のことはできないわ」アイリーンは静かに言った。「あなたが寂しがるなるんて想像もつかないわ」

「あなたはわかっていません」トリファーは言った。「あなたはここで私の中心になってしまいました。今はこの何年で感じたよりも幸福と充実を感じます。もし今あなたが帰ったら、それが壊れるかもしれない」

「何言ってるのよ! お願いだから、馬鹿なことは言わないでください。そりゃ、あたしだってここにいたいわ。どうすればそんなことができるか、わからないだけよ。ニューヨークに戻って状況がわかったら、お知らせするわ。すぐに戻って来ることになるって、あたしは信じてますけど。もしそうでなくても、あなたがまだそう感じているなら、あなたも帰ればいいんだわ。そうすればあたしはニューヨークで同じようにあなたにお会いします」

「アイリーン!」トリファーはしめしめと思いながらも愛情を込めて叫んだ。近寄って、アイリーンの腕をとった。「それはすばらしい! あなたがそう言ってくれるのを待っていたんです。そういうお気持ちなんですね?」トリファーはおだてるように目をのぞきこみながら尋ねた。そして相手がとめるのもきかずに、両腕をウエストにまわして、情熱的ではないが本物に見える愛情のこもったキスをした。しかしアイリーンは、トリファーを引き留めておきたいのと、クーパーウッドにも不平の格好の理由を与えたくない自分の支配的な欲求を意識していたので、感じのいい態度だったがきっぱりと抵抗した。

「だめです、だめ、だめ」アイリーンは言った。「ご自分がたった今言ったことを思い出して。もしあなたがそういうのをお望みなら、これは本当の友情になるわ。でも、それ以上のものは何もありません。それよりも、どこかへ出かけませんか。今日は外出してないのよ、着てみたい新しいガウンがあるの」

 トリファーはこの問題をしばらく棚上げすることにして、フォンテーヌブロー近くの新しい店を提案し、二人は出かけた。

 


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