第36章
ブラウンズ・ホテルでクーパーウッドと話し合った結果ジョンソンは、クーパーウッドとステイン卿の対面は、今後の交渉で両者が果たす役割を決めるための次の避けられない段階だと判断した。
「彼と話しても何の危険もありません」とジョンソンはステインに言った。「もちろん、我々がクーパーウッドと行動を共にする場合、彼がループを支配できるように我々が協力するからには、支配がどのようになるにせよその五十パーセントを彼に負担してもらわねばなりません。それから我々は〈メトロポリタン鉄道〉と〈ディストリクト鉄道〉の株主の一部と協力して、参入して、五十一パーセントを確保するのを手伝い、支配を維持すればいいのです」
ステイン卿はうなずいて「続けてください」と言った。
「それで解決するでしょう」ジョンソンは続けた。「それで他に何があっても、我々と他のメンバー……コイベイ、ジームス、あと多分ダイトンあたりが経営に参加する。彼はこの中核事業の共同オーナーとして我々と取り引きしなければなりません」
「これなら確かに大丈夫だと思います」ステインは冷静に相手をうかがいながら言った。「とにかく、その人に会ってみたいな。あなたのいい時に、私のうちに誘えばいいですよ。いつになるかを知らせてくれればそれでいい。彼に会えばこの件についてもっと話ができますね」
こうして、六月のある暖かい日に、クーパーウッドはジョンソンと馬車に乗り込み、一緒に快適なロンドンの通りをドライブしてステイン邸へと向かった。
これから始まる対面の場で、自分の複雑な秘密の計画をどのくらい明かすべきか、クーパーウッドは迷っていた。実際、ステインとジョンソンを相手にどれだけ順調にいこうとも、アビントン・スカーに探りを入れた方がいいだろうという考えをずっともてあそんでいた。スカーなら〈ベーカー・ストリート&ウォータールー〉の経営に加えてくれるかもしれない。それを手に入れて、ハドンフィールドとおそらくエティンジ卿から他の議会承認を取得できれば、このループ会社にでさえ口出しできる立場になるだろう。
バークレー・スクエアのステイン邸に近づくと、その四角い威厳のある堅牢なたたずまいに感動した。商業とは絶対に無縁な安らぎが息づいているようだった。中の、そろいの服を着た召使いと、一階の広々としたサロンの静けさが、クーパーウッドにとって心地のよい雰囲気を作り出していたが、彼個人の価値観をかき乱すほどではなかった。この男にとっては、できる限り安全であることはまったく正しいことだった。この男にとっては、できるのであれば、彼を巻き込んで、彼をもっと金持ちにしようが、彼を利用してうまく破産させようが、まったく構わなかった。
しかし数分遅れるとステインから電話があったと執事が告げたので、さっそくジョンソンが、ステイン卿の絵をご覧になりたくありませんかと勧めてきた。急遽もてなし役になった事務弁護士の態度はそわそわしていた。そうやって時間をつぶすのは実に楽しそうだとクーパーウッドは言った。ジョンソンは彼を正面玄関にある大きなギャラリーに案内した。
ロムニーやゲインズバラの希少な肖像画数点を観賞するために立ち止まりながらギャラリーを歩く間に、ジョンソンはステイン邸の歴史を簡単に語った。故伯爵は用心深くて研究熱心な人で、主にヒッタイトの遺跡や翻訳に興味を持っていて大金を費やした。歴史家は当然それに感謝したと言われている。どちらかというと父親の古物研究仲間に多少疎外されていた若いステインは、社会と金融に目を向けて多角的な投資や進歩を学ぼうとした。彼はとても人気者で、ファッション界の有名人であり資本家でもあった。そして、シーズンになると、この屋敷は数多くの社交行事の舞台になった。トレガサルの私有地は、イギリスでも名所の一つだった。テムズ川のマーロー付近のプライアーズ・コーブにもすてきな夏の別荘があり、フランスにはワイン農場があった。
ベレニスの現在の住居に話が及び、クーパーウッドは頬が緩むのをこらえたが、ステインが到着して二人に気軽な打ち解けた態度で挨拶したために何も言えなかった。
「やあ、いらっしゃい、ジョンソン! そして、もちろん、こちらがクーパーウッドさんですね」ステインは手を差し伸べた。クーパーウッドはすばやく好意的に相手を推し量りながらその手をとって心を込めて握った。
「これはうれしいばかりか名誉なことです」と言った。
「とんでもない、とんでもない」ステインは答えた。「あなたのことはエルバーソンからすべてうかがってますよ。書斎の方がもう少しくつろげるかもしれませんね。まいりましょうか?」
鐘の紐を引いて、飲み物をもってくるよう使用人に言いつけ、壁に囲まれた庭園を一望するフランス窓のあるすてきな部屋に案内した。ステインがもてなし役を演じて動き回る間、クーパーウッドは相手を研究し続けた。この男に対する自分の気持ちが明らかに好意的であることに気がついた。ステインには、彼の信頼を勝ち取ることができる人物にふさわしい価値を示す、気さくで温和な礼儀正しさと認識力があった。この信頼ばかりはそう簡単には勝ち取れなかった。彼は公平で有利な扱い方をされねばならないのだ。
やはり、自分の提案の内部の仕組みを現段階で明かすのは絶対によそう、とクーパーウッドは決心した。同時に、自分がベレニスのことを考えていることに気がついた。ステインのような人たちとの関係でベレニスが社交的な役割を果たすよう求められるかもしれない、と二人の間で暗黙のうちに合意が成立していたからだ。しかし、相手がとても魅力的であることが判明した今となっては、ベレニスにこれをしてもらいたいと自分が思っているのか自信がなかった。しかしジョンソンが地下鉄の状況について自分の考えを説明し始めると、クーパーウッドは気持ちを落ち着かせた。
ジョンソンが話を終えると、クーパーウッドは穏やかに、すらすらと自分の統合計画を説明し始めた。特に、電化、照明、各車両の個別のモーターに電源を供給する新しい方式、エアブレーキ、自動信号について詳しく話した。たった一か所だけ、ステインが口を挟んで尋ねた。
「あなたが、ご自身で、というか取り仕切って、このシステム全体を経営するお考えでしょうか?」
「もちろん、取り仕切ってです」クーパーウッドは答えたが、本当はそういうことを何も考えていなかった。「つまりですね」二人が黙って自分を見つめるのでクーパーウッドは続けた。「統一されたシステムを実現できたら、新会社を設立して、私が今所有しているこの〈チャリングクロス鉄道〉を加えるのが私の計画です。そして、ループ会社の現在の株主に参加してもらうために、彼らが今保有しているこの小さな会社の株一株につき、この大きな会社の株三株を割り当てるつもりです。〈チャリングクロス鉄道〉の建設には少なくとも二百万ポンドはかかるでしょうから、彼らの資産価値がかなり増えることはおわかりでしょう」クーパーウッドは話をやめて、これが聞いている者にどのような影響を与えたかに注目し、いい効果だったのを確認した。さらに続けた。
「特に、この新会社の全線が最新式になってひとつのシムテムとして運営されることと、株式を一般に売却するだけで株主には追加の費用負担を全くかけないと事前に取り決めておけば、あなた方でもこの計画は利益を生むはずだと言うのではありませんか?」
「確かに言いますね」ステインは言った。その意見にジョンソンも同意して頷いた。
「これで、大まかな私の計画はわかりましたね」クーパーウッドは言った。「もちろん、追加の支線があるかもしれませんが、それは大きくなった新会社の経営陣が判断することになるでしょう」クーパーウッドはスカーやハドンフィールドや、もし自分が経営権を確立したら買収しなければならなくなる議会承認を持つ他のメンバーのことを考えていた。
しかし、ここでステインは考え込むようにして耳を掻いた。
「私の見る限り」ステインは言った。「この三対一の配分は、単にこの条件であなたとの提携に興味を持つかもしれない株主を誘う問題の解決になっているだけです。あなたは感情の問題を忘れていると思います。これは確実にあなたに不利に働きます。それに、これが本当だとして、一株に対して三株を提供しても、あなたがあなたの条件でやりたいようにやる、それはつまりあなたの全面的支配を意味すると思うのですが、それをあなたに許すほど十分には現在の保有者は集まらないでしょう。これはあなたが確信してもいいことですよ。だって、これらはこのとおり、純粋にイギリス流で支配されているんですから。ジョンソンも私も、あなたの〈チャリングクロス鉄道〉買収の発表があってから、これに気がついたんです。それに、〈メトロポリタン鉄道〉と〈ディストリクト鉄道〉の双方で、すでにかなりの反対活動が起きていて、あなたに反対しようと団結さえしかねません。これまでこの二つの鉄道の経営陣が、お互いを思いやるなんてことは絶対になかったのにですよ!」
ここで、ジョンソンが皮肉に笑った。
「だから、あらゆる点で細心の注意を払い、機転を利かせて行動し、適切な人物に適切な方法で、それもなるべくならアメリカ人ではなくイギリス人に働きかけてもらわなければ、あなたは行き詰またと気づくことになりかねませんよ」ステインは続けた。
「そうですね」クーパーウッドは言った。ステインの考えていることがとてもよくわかった。もし彼らが、このイギリスで火中の栗拾いまでして、クーパーウッドを手伝う仕事を引き受けようと説得させられるとしたら、彼らが要求することになるのは……クーパーウッドがすでに提示した以上のものを彼らはほとんど要求できないのだから……追加の報酬ではなく、何らかの形のクーパーウッドとの共同経営になりそうだった。あるいは、それがかなわないのであれば、自分たちの投資に対する保証、さらに、かなりありそうなのが、この提案されたシステムの今後の発展に関わるクーパーウッドに比例しての処遇、を要求するだろう。さて、これはどうすればまとまるだろう?
一瞬、クーパーウッドは少なからず当惑したが、自分と彼らの考えをはっきりさせるためにも、さっそく付け加えた。
「これは、私がどうすればお二人に関心を持ってもらえるだろうか、と考えていたことに関係があります。あなた方がこの状況を理解していて、私に協力する意志があると仮定すると、もっと親善気運を盛り上げる大きな取り引きができますからね。一株に対して三株を割り当てる他に、どんな埋め合わせが必要だとお考えですか? 我々三者の間にどんな特別な取り決めがあれば、あなた方は納得するのでしょう?」クーパーウッドはここで間をあけた。
しかし、これに関する会話は、あまりにも多岐にわたり複雑過ぎるのでここでは説明しきれない。主に、これはステインとジョンソンにやってもらわねばならない準備作業に関係していた。そして、二人が今クーパーウッドに説明したように、この準備作業は他の何よりも社会的人物への紹介に関係していて、これがなければ彼がただお金に物を言わせても問題は大きく前進しそうもなかった。
「イギリスでは」ステインは続けた。「どんなに才能があろうと、特定の個人を通じてやるよりは、財界や社交界の好意や友情を通じた方がはかどるのです。もしあなたが特定のグループに良くも好意的にも知られていなかったり、受け入れられていなければ、進めるのは難しいかもしれません。おわかりですよね?」
「わかっております」クーパーウッドは答えた。
「そして、もちろん、これはどこから考えても、単なる冷たい現実的な交渉の問題ではありません。相互理解と尊敬がなければなりません。それにこういうものは一瞬ではできません。これはただの紹介にとどまらず、日常の場でも明確な社交の場でもその個人を認めることにかかってきます。おわかりですか?」
「わかっております」クーパーウッドは答えた。
「しかしその前に、株式の交換とは別に、あなたとあなたの事業にこういう有益な社会への進出を可能にした人々の報酬がどういうものになるのかについて、とても明確な合意がなければなりません」
ステインが話をする間、クーパーウッドは椅子に座ってくつろいでいた。十分に共感して聞いているようだったが、近くで観察していたら、ある程度目がこわばりと唇がひきしまっているのに気がついただろう。クーパーウッドはステインが見下した態度でこれを自分に通告しているのをはっきりと認識した。もちろん、ステインはクーパーウッドのキャリアにまつわるさまざまなスキャンダルを聞いていたし、シカゴやニューヨークの社交界に認められていない事実も知っていた。彼は非常に外交的で礼儀正しかったが、クーパーウッドは彼の説明をその値打ちどおりに受け取った。それは、上流階級に拒絶された者への、上流階級で通用する男の説明だった。それでも、彼は少しも腹を立てたり、狼狽したりしなかった。実際、むしろ皮肉にも面白がっていた。自分が優勢だったからだ。彼は、他の誰もできずにいたことを、ステインとその仲間ができるようにするつもりだった。
ステインがようやく話をやめると、クーパーウッドはこの合意というものの詳細について彼に質問した。しかし、ステインは、それはジョンソンにまかせるのが一番だと思うととても丁寧に言った。しかし、彼はすでに〈ディストリクト鉄道〉と〈メトロポリタン鉄道〉の自分の持ち株の一株に対して三株を保証するだけではなく、クーパーウッドとの間に、この大開発の一員として自分とジョンソンを参加させ、保護し、財力強化をはかるという秘密の破ることのできない協定も考えていた。
そして、ステインが相手をよく見ようと片眼鏡を静かにつけて右目の調整をする間に、クーパーウッドはこの問題の要点を明確にすることにステインが個人的に関心を持って親切にしてくれたことに、自分が本当にどれだけ感謝しているかをさっそく強調した。双方が満足するようにすべてをまとめられる自信があった。しかし資金調達の課題があって、こればかりはクーパーウッドが自分で準備をしなくてはならないだろう。おそらく、いろいろなイギリス人株主と話をする前に、この資金を調達するためにすぐにアメリカに戻る必要が生じるかもしれない……ステインはこれに同意していた。
しかしクーパーウッドは、このイギリスの会社に十分な資金を貸し付けて、もしものときにここを掌握して支配できるようにする融資会社の四十九から五十一パーセントを支配しようとすでに考えていた。彼は先のことを考えた。
ベレニスとステインについては、とりあえず、様子を見るつもりだった。彼は六十歳だった。名声と世間的な評価を除けば、あとほんの数年で特別な違いはなくなるかもしれなかった。実際、今にも自分を飲み込もうと猛威を振るっている容赦のない責務の渦のせいで、クーパーウッドは少し疲れを感じ始めていた。時々、忙しい一日が終わる頃、今さら自分がこのロンドンの事業に取り組んでも意味がないと感じることがあった。ほんの一、二年前シカゴで、運営権の延長さえ実現できたら、経営から身をひいて引退し旅行でもしたいものだ、と内心では考えていた。そのときは、もしベレニスが最終的に自分の申し出を拒んでまた独りぼっちになったら、アイリーンと何かの形で仲直りをしてニューヨークの自宅へ戻り、自分が当然だと思う余暇を度を過ごさないように楽しんでやろうとさえ思っていた。
しかし、今はここにいる。一体どういうことだろう? ベレニスと一緒にいる楽しさ以外にそこから何を得るのだろう。もしベレニスがそれを他の形で望んでくれていたら、もっと穏やかな形で見つけていたかもしれないのだ。そして、ベレニスには、そしてクーパーウッド自身でさえ、思いがあって、彼はこういう大きな見せ場を作る形で前進してキャリアを締めくくることを、自分のために、自分の人生のために、巨大な想像力と第一級の資本家を代表している自分の名声のために、やらねばならない、というものだった。しかし、彼の名声や財産を損なうことなく、これを成し遂げることはできるだろうか? アメリカでの彼についての意見の現状を考えた場合、帰国してかなり短い時間で、必要な資金を集められるだろうか?
要するに、そういう見方をするとほぼ全面的に彼の立場は要注意で厳しいものだった。疲れて考えがまとまらなかった。年齢に忍び寄る冬の到来を告げる最初の息吹きかもしれなかった。
その夜ディナーが済んでからクーパーウッドはベレニスに自分の計画について話をした。アイリーンに同行してもらってニューヨークに行くのが一番いいとクーパーウッドは考えた。大勢の人を考慮に入れる必要があるし、その場に妻がいた方が見栄えがよくなるだろう。さらに、今はすべてがどちらに転ぶかわからないから、二人はアイリーンの機嫌を損なわないように特に注意しなければならなくなりそうだった。




