第32章
ブラウンズ・ホテルでのディナーは、ジョンソンと彼が代表するすべてのものだけでなく、クーパーウッドと彼が達成したいと願うすべての運命をも握っていた。しかし、その時は二人ともこれを十分には認識していなかった。
すぐにクーパーウッドが知ったことだが、ジョンソンは地下鉄の取締役と投資家の身に起きたばかりの出来事に深い感銘を受けていたが、これまでの熱意とは裏腹に、クーパーウッドが何を提案するつもりなのかを正確に知るまでは、中間の道を歩もうとしていた。とはいえ、ロンドンの交通分野の開発には将来の利益が大きく関わるので、ジョンソンはできれば自分の側につきたがっている、とクーパーウッドは信じていた。そして、資本家として復帰するだけでなく社会的な欲望もあったので、これを実現する覚悟だった。自分が考えている目的でこの問題に取り組もうとする外国人が直面しそうな問題を率直に教えてほしい、とジョンソンに尋ねるところから始めた。
この明らかに率直な質問に安心したジョンソンは、同じように率直にこの問題を説明した。実際にジョンソンは、自分の個人的な立場をステインに語ったのと同じようにクーパーウッドにも、自分の雇用主は頑固で、鈍感でさえあり、ここでゆっくりとだが確実に進んでいる社会と経済の大きな変化を考えていない、と自分が信じるところを完全に明らかにした。何がなされなければならないかについての共通認識が、この時までまったくなかった、とも認めた。そして現在の関心にしても、問題の本質を考えて解決したいという知的な欲求ではなく、どちらかというと外国人に対する嫉妬に由来するものだった。情けない話だが、それが真実だった。賢明なことをしたいというクーパーウッドの意向にいくら自分が賛同したとしても、〈メトロポリタン鉄道〉と〈ディストリクト鉄道〉の事務弁護士である自分が、個人的に外部からの干渉計画を推進していると疑われたら、株主としての権利があろうと、背を向けられ、現在の重要な人間関係を奪われ、何をするにしても権限を剥奪されてしまうだろう。これでは立場がとても苦しくなった。
それでもジョンソンは、乗っ取りは合法であり、純粋に現実的な見地から実行されるべきだと主張した。そういうわけだから、できれば協力したがっていた。しかし、自分たちがどこまで協力できるかを知るために、ジョンソンはクーパーウッドの計画の正確な詳細を知らなければならなかった。
クーパーウッドの私的な計画は、実際には、ジョンソンが現時点で疑う準備ができていたものよりもはるかに巧妙で冷酷だった。まず、〈チャリングクロス鉄道〉の権利を一つ買収しただけで得た評判と強みを念頭に置いて、すでに議会によって承認済みだが、そのすべてが運営資金不足らしい、他のさまざまな権利を検討しながら、クーパーウッドは誰にも告げずに自分用にこれらをできるかぎりたくさん買おうと考えていた。そして後々、あくまで頑なに戦いを挑まれたら、それらを一つにまとめて、競合する鉄道網を提案するつもりだった……この手段なら敵を降参させられると感じた。同時に、旧〈交通電化会社〉の継続に過ぎない〈チャリングクロス鉄道〉に関しては、必要とあらばそこの創業者の株式のかなりの割合を〈ディストリクト鉄道〉の支配権を獲得するのに協力できるイギリスの投資家たちと共有する用意があった。
クーパーウッドはベレニスに、このロンドンでの事業を自分がこれまでに手掛けたどの事業よりも高いレベルに置くつもりだと言っていたが、それでも、自分の絶対的な誠意が馬鹿をみたり台無しにされて出し抜かれることがないと確信できるまで、大きな利益は自分が握っている必要がある、と経験で学んでいた。彼は、自分が社長であるすべての会社の少なくとも五十一パーセントを所有し支配するだけでなく、常にダミーを通じて設立し運営するさまざまな小会社も少なくとも五十一パーセントを所有することを原則としていた。
例えば新しい路線に必要な電気設備に関しては、すでに〈チャリングクロス鉄道〉の電化契約を引き継ぐ鉄道設備建設会社を作ることを計画していた。車両、レール、鋼桁、駅の設備などを供給するために、他にも子会社が作られる。当然、利益は巨大なものになる。シカゴではこれを独り占めしてきたが、ロンドンでは、困難が予想される戦いに勝つために、クーパーウッドは今、この利益の何割かを自分の最も役に立つ相手と分かち合う計画を立てていた。
例えば、必要なら、ステインとジョンソンにこの設備会社の計画も教え、もし相手が本当に協調的で、自分が、あるいは自分と彼らが共同で、〈メトロポリタン鉄道〉と〈ディストリクト鉄道〉を所有した場合は、どうすれば初期の確実な利益がこの建設と設備の仕事からあがるのかを教えるつもりだった。さらに、彼は、この総合的な交通網の追加延長ごとの工事や設備で、この設備と建設の会社からの利益が、増え続けることを強調するつもりだった。しかも目的達成の手段を作りながらであり、それが莫大なのを経験上知っていた。
この友好的な話し合いの席でジョンソンの前にいるクーパーウッドの態度は、何も隠しごとがない人間のものだった。同時に、こういう男を出し抜くのは容易ではないと思っていた。実際、もし調整がつけられるのであれば、彼はシッペンズのいい後継者になるかもしれない人物だった。その結果、ジョンソンのいろいろな可能性を探って、控えめだが受けそうだとわかった後で、完全なロンドンの地下鉄網に必要な路線と権利のすべてを統合する前にあるとても必要な一連の交渉で、主任弁護士と財務代理人として行動する意思があるかどうかを尋ねた。クーパーウッドが今ジョンソンに言ったように、〈チャリングクロス鉄道〉の買収は他の鉄道への参入の楔として使えることを除けば、本当は重要でも何でもなかった。
「実を言うと、ジョンソンさん」クーパーウッドは最も効果的な態度で続けた。「ここに来る少し前にこの問題はすべて調査済みでした。そして、あなたと同じように私も、この中央のループこそが事業全体の鍵だとわかっています。あなたとステイン卿が〈ディストリクト鉄道〉の少数大株主であることも知っています。今、私はあなたを通して〈メトロポリタン鉄道〉と〈ディストリクト鉄道〉、さらには他の鉄道を合併させられる何かの方法がないかを知りたいのです」
「簡単にはいきませんよ」ジョンソンは厳かに言った。「我々は伝統に直面しているんです。イギリスは伝統を守りますよ。しかし、もし私の理解が正しければ、あなたは自分の鉄道とこの鉄道、特にループと結びつけようとしているんですね。もちろんあなたが責任者で」
「そのとおりです」クーパーウッドは言った。「私ならあなたにとって価値あるものにできますよ」
「そんなこと言わなくてもわかってます」ジョンソンは言った。「しかし、こればかりは少し時間をかけて考えないとなりませんね、クーパーウッドさん、少しは私自身の地下鉄の仕事をしませんと。そして、自分ですべてをじっくり考えてから、改めて二人で全体を考え直せばよろしいかと」
「もちろんです」クーパーウッドは言った。「そういうことにしましょう。それに、私はしばらくロンドンを留守にしたいのでね。十日から十二日のうちに、お電話いだだければ」
それから、二人は心から握手を交わした。ジョンソンは活躍と所有の夢を見て興奮した。自分の全人生が捧げられていたこの分野で勝ちかけているのに彼にすれば少し遅かった。それでも今ならできそうだった。
クーパーウッドには、自分がやらねばならない現実的な資金繰りの課題を考える仕事が残された。突き詰めると、この問題の解決方法は単純だった。ポンドで十分な額を提示することだ。争う投資家の目の前に十分な現金をぶら下げるのだ。対立の理由が何であれ、どちらも現金を受け取って争いを放っておく可能性が高い。仮に、反抗的な取締役や投資家に、彼らが今支配している一ポンドに対して二、三、四ポンドを支払わなければならないとしたら? ロンドンのような偉大で成長を続ける都市では、彼の建設会社の計画や交通そのものの成長から生じる利益は、実際に今彼が出す用意をしていた破格の額を補うどころか、最終的にはこういう人々の想像も及ばない利子を生む。やるべきことは、どれだけ法外に思える費用をかけてでも、支配を確立し、その後で鉄道各社を統合することだった。時間と、世界で今も続いている経済成長とが、このすべてを解決するだろう。
もちろん、このすべての準備費用のために自分の蓄えに手を伸ばしたくはなかったので、おそらくは近いうちにアメリカに戻って、状況の見通しをうまく説明して、特定の銀行や信託会社、彼がその手口や欲深さを知り尽くした個人投資家から、基礎になる持株会社への出資金を確保しなくてはならないだろう。そして今度はこれがロンドンの資産を買収して、その後、取得した株式を、投資した一ドルに対して二、三ドルを基準にいろいろな出資者に配分するのである。
しかし、今すべきことは、ベレニスと休暇をとって疲れをとることだった。それが済んだら、ジョンソンと相談してステイン卿との面会を手配してもらうつもりだった。何しろたくさんのことがこの二人の態度にかかっていたからだ。




