第31章
〈チャリングクロス鉄道〉の譲渡に関連するいかなる情報も現時点では報道に提供されないことが合意されていたのに、どういうわけか、おそらく、ライダー、カルソープ、デラフィールドが出どころの世間話が原因で情報がもれた。彼らは財産がこうして譲渡される前は〈交通電化会社〉の株主でも役員でもあったので、自分たちの将来を懸念してこの問題を話し合いたかったのだ。だから、クーパーウッドに事実確認を求めに、経済記者やニュース記者が現れるまでに長く時間はかからなかった。
クーパーウッドは、そういう譲渡が目下進行中であることと、いずれ登録証が提出されるだろう、と率直に伝えた。また、アメリカの仕事にまだかなり時間がかかると見ているので、もともと買い物をしにロンドンに来たわけではなかったが、ロンドンの地下鉄会社のとある代表が訪ねてきて、彼らが関係するルートの運営と投資の検討を求めてきたことも伝えた。〈チャリングクロス鉄道〉の買収はこの提案を受けての結果であり、自分が注意を払うと約束した事業は他にある。これが自分の作りたいと思う統一組織に行き着くかどうかは、今後の調査で判明する内容次第になるだろう。
シカゴでは、この発表の後の社説のコメントは怒号でしかなかった。つい最近、都市を追放された、あの冷酷な詐欺師がロンドンに進出するとは。しかも現地で、財力と悪知恵といつもの厚かましさを使って、その大都市の実力者を甘言で釣って、自分に目を向けさせて、現地の交通問題の解決策を期待させられるとは大したものだ! 明らかに、イギリス人はわざわざ彼のかなり暗い経歴を詮索しはしなかった。しかし、いったんそれが表沙汰になれば、今の彼のように、この時間、そして過去何年もシカゴでそうであったように、そこでも歓迎されないだろう! 他の多くのアメリカの都市の新聞にも、同じように好意的でない論評が掲載されたが、それらの都市の編集者や出版社は、シカゴの態度を参考にして自分たちの態度を決めていた。
一方で〈ロンドン・プレス〉は……社会的、経済的、政治的論調がかなり現実的であり、民衆の不満を拠り所にすることは絶対にありえなかったので……不思議ではないが、クーパーウッドに対する反応は極めて好意的だった。〈デイリー・メイル〉は、彼のように有能な人間なら、何年も公共のニーズのはるか後方でよちよち歩きを続けてきたのろまなロンドンの地下鉄界の中心に据えられても損にはならないかもしれない、とあえて意見を述べた。〈クロニクル〉は英国資本のていたらくを嘆いて、シカゴのような遠くの地にいるアメリカ人にロンドンが必要とするものがわかるなら、ロンドンの鉄道業界のリーダーたちだってそろそろ目を覚まして自ら前進するだろう、と実現しそうもない希望を表明した。〈タイムズ〉、〈エクスプレス〉、その他の新聞にも似たようなコメントがあった。
クーパーウッドが見たとおり、経済的見地からすると、こういうコメントはありがたくなかった。これではイギリスでだけでなくアメリカの資本家の野心までも彼の目標に集中させてしまい、邪魔な活動を呼び覚ましかねなかった。これに関しては確かにクーパーウッドは間違っていなかった。この鉄道売却のニュースが確認され、その他にも打診することを彼が認め、ロンドンの交通の問題にもっと関与する可能性があることが公になるや、最も攻撃される可能性がある二つの路線〈ディストリクト鉄道〉と〈メトロポリタン鉄道〉の大株主は怒り心頭に発し、将来的に彼に反対するのがほぼ確実だった。
「クーパーウッド! クーパーウッドめ!」〈メトロポリタン鉄道〉と〈ニューシティ&サウス・ロンドン鉄道〉の株主であり、十二名の取締役の一人、コルベイ卿は鼻を鳴らした。いつもお高くとまって〈タイムズ〉を右側において朝食をとっていたが、この時はお気に入りの新聞〈デイリー・メール〉を読んでいた。「一体、このクーパーウッドとは何者だ? 成り上がりのアメリカ人の一人が、世界をほっつき歩いて、人さまに意見をしとる! さて、知恵袋はどいつだ……〈ベイカー・ストリート&ウォータールー〉計画のスカーと、〈デットフォート&ブロムリ・ルート〉のウィンダム・ウィルレットか。やはり、グリーヴズとヘンシャーが契約を狙っているのか。それに〈交通電化会社〉は退散したがっているしな」
同じく、〈ディストリクト鉄道〉の取締役で〈メトロポリタン鉄道〉の株主でもあるハドスペス・ダイトン卿は悩んでいた。すでに七十五歳の、超保守派で、抜本的な鉄道改革にはまったく関心がなく、特にそれが大きな出費となるもので、儲かる結果を断言できないとあってはなおさらだった。五時三十分には起きて、お茶を飲み、新聞を読んだ後でブレントフォードの地所内の花々の中を散歩しながら、全てのことに斬新な考えを持つこのアメリカ人の問題を考えていた。確かに、地下鉄はあまりうまくいっていなかった。利益を出すために装備が近代化されるのはいいことかもしれない。だからといって〈タイムズ〉や〈メール〉が、そんな事を指摘するべきだろうか? ましてや、やるとなったら何十人のイギリス人の誰と比べてもきっと大して変わらないアメリカ人が来たことに関連づけてまで。これではイギリスの能力を見下している以外の何ものでもない、馬鹿げている。イギリスは世界を支配した。そしてこれからも支配し続けるだろう。外からの助けなど絶対に必要ない。そして、ダイトン卿はこの瞬間からロンドンの地下鉄の開発に関しては、どんな外国の干渉にも反対する覚悟ができた。
また、ウィムブレイ公園の近くに邸宅を持つウィルミントン・ジームス卿も同じだった。卿も〈ディストリクト鉄道〉の取締役で、近代化と拡張が望ましいことは認めていた。だが、何でアメリカ人が? その時が来れば、イギリス人にだって作れるはずだ。
そして、この三人の男性の意見に似たようなものが〈メトロポリタン鉄道〉と〈ディストリクト鉄道〉、さらには他のロンドンの各地下鉄会社の取締役と大株主の多数派の反応を構成した。
しかし、最終的に防衛活動に気がついたのは三人のうちで最も積極的で行動的だったコルベイだった。その同じ日、コルベイはこの問題にどんな行動を取るべきか、他の取締役、まず第一にステインに相談した。しかし、これまでにステインは、クーパーウッドについてのジョンソンの報告と、新聞で読んだ内容に十分感銘を受けていたので、コルベイにはとても慎重に答えた。ステインは、クーパーウッドのこの提案は自然な展開だと述べた。これは、両方の会社の年配の取締役を除けば、誰もが必要だとわかることだった。確かに、ライバル会社が提案された今、〈メトロポリタン鉄道〉と〈ディストリクト鉄道〉の取締役会を招集するのは当然で、両グループは適切な方針について話し合うべきだった。
コルベイが次にウィルミントン・ジームス卿を訪ねると、卿は気持ちが揺らいでいるのがわかった。「まず、間違いないよ、コルベイ」卿は言った。「我々と〈メトロポリタン鉄道〉が組まなければ、こいつは両方の会社の株主をひとりずつ引き抜いて、我々を全滅させてしまうぞ。我々の個々の利益が完全に守られるのなら、クーパーウッドへの対抗勢力に私も加えてくれ」
これを励みにして、コルベイはできるだけ多くの取締役に声をかけ始めた。十二名のうち七名が、自分が言わねばならないことの重要性を理解してくれたのがわかった。続いて、両社の臨時取締役会が次の金曜日に予定された。そして、その会議で、次の木曜日に両社の取締役の間で合同会議を開催する要請が決議された。そこでこの新しい問題が検討されるのである。
ステインとジョンソンはこの急展開について話し合った。ジョンソンとクーパーウッドの間で近々ディナーの約束があったから、これはとても興味深い絶好の機会だった。
「大丈夫です!」ジョンソンは言った。「彼はあのジャーキンスを通じて、我々のことをすべて知っています。我々の腹を探りたいんですよ」
「まあ、蒸気機関には車輪どめを二つ置いてある」ステインは言った。「クーパーウッドが先に何かをしない限り、〈ディストリクト〉も〈メトロポリタン〉も何もしない。今、向こうはかなり盛り上がっているだろうが、我が国の国民は急激な変化を受け入れそうもない。この期に及んでも、二本のループの統合も、電化も、一体化して運営することもできないんだ。クーパーウッドが自分の計画を進めない限り、彼らは何もしないさ。私の感覚では、彼の計画がどれくらい包括的なのかと、彼がそれを確実に実行するのかを確認するところまで、彼とは一緒に行動すべきですね。そのときに、それが我々にとってどういう意味を持つかを判断すればいい。〈メトロポリタン〉と〈ディストリクト〉の連中が同等以上のことをやる意志と覚悟ができたと完全にはっきりするまでは、我々はクーパーウッドと組み、我々の旧友たちとは後で折り合いをつけるべきだと思います」
「そうですね、全くそのとおりです!」ここでジョンソンが口を挟んだ。「それに関しては、まったく同感です。少なくとも理屈の上では。しかし、忘れないでください、この問題での私の立場はあなたの立場と少し違います。両方の鉄道会社の株主としてはあなたと同じように、今の責任者から期待するものはほとんどないと感じてます。しかし、両方の会社の事務弁護士としては、この二つの立場での自分の活動がどうなるかを考えなければなりません。あなたならおわかりでしょうが、双方代理はできませんからね。私の義務と心からの願いは、どちらの立場を取るでもなく、この問題を徹底的に研究して、イギリス人とアメリカ人の利益が一致させられないもかどうかを見極めることです。私が先方の総体的な態度についてクーパーウッドさんから話を持ちかけられたことは、事務弁護士として、打ち明けても問題はないように思います。そして、これらの会社の株主として最善の策は何なのかは自分で判断できるはずですから、少なくとも個人としてはそれに従って行動できるはずです。それって何も道義には反しませんよね?」
「全然反しないね」ステインは言った。「これは、我々双方がとる、とても公平で率直な立場だと思います。もし向こうが不服を唱えても、大丈夫。そんなことは問題じゃない。それに、もちろん、クーパーウッドさんだって自分を大事にするでしょう」
「さて、あなたがそう言うのを聞いて正直ほっとしました」ジョンソンは言った。「少し悩み始めていたんですが、今はうまくいくかもしれないと思っています。少なくとも、私がクーパーウッドとこの協議の場を持ったところで害にはならないでしょう。それで、もしそれがあなたが満足するものに思えれば、我々はもっと先へ進めるかもしれません。つまり、我々三人はです」ジョンソンは慎重に付け加えた。
「そう、我々三人はね」ステインは答えた。「何かはっきりしたことがわかったら、いつでも知らせてください。少なくとも一つ言えることがある」ステインは立ち上がって長い足を伸ばしながら、付け加えた。「我々は動物たちを少し刺激してしまった。まあ、いずれにしても、クーパーウッドは我々のためにやってくれたわけだ。そして、我々がしなければならないことは、彼らがどっち側に跳びつくのか、しっかり腰を据えて見極めることです」
「そうですね」ジョンソンは言った。「火曜日にクーパーウッドに会った後で、すぐに連絡します」




