第30章
当然、グリーヴズとヘンシャーは、クーパーウッドと自分たちの交渉の詳細をすぐジョンソンに報告した。ジョンソンとステインと〈交通電化会社〉関係者のほとんどは、ロンドンの他の地下鉄にも関心をもっていた。彼らの好意は、エンジニアとしてのグリーヴズとヘンシャーには貴重だった。二人は倫理的にも技術的にも、自分たちがちゃんと権利を持っていることに満足だった。要するに、まず自分たちの好きなようにできるオプションを自分たちが持っている。次に、買戻しを申し出るまでしばらく猶予を求めたジョンソン直々の要請には、実際には同意しておらず、検討した上で知らせる、と言っただけだった。二人はジャーキンスがジョンソンを訪問したことを知らなかった。ジョンソンは今、どういうわけで二人が自分に会いに来ているのか少し興味があった。
話の最初の数分でジョンソンは、クーパーウッドとの話し合いが提案されたことで、可能性の一番いい部分が消えてしまった、と感じていた。しかし次第に、彼らが提案した、会ってみる案について、もっと前向きに考える気にさせられた。要するに、一度の会合で、このアメリカ人は三万ポンド以上の支払いと、コンソル公債六万ポンド分の利息を引き受ける用意があるだけでなく、一年以内に建設に着手しなければまったく返還されない一万ポンドの手付金を払うことまで同意した事実は、ジョンソンを魅了するのに十分だった。おそらく、この〈チャリングクロス鉄道〉の問題は細部に過ぎず、ジャーキンスが言ったように、クーパーウッドの主な関心は地下鉄統合というもっと大きな局面にあるのは確かだった。だとしたら他の連中が取り込まれないうちに、ジョンソンとステインを含む何か全体的な計画が立てられてもいいのではないだろうか? 明らかにジョンソンとステインがクーパーウッドに会うことは依然として重要だった。まあ、おそらくそれは〈チャリングクロス鉄道〉の譲渡に関する最終交渉に関連してジョンソンがそこに出席するであろう、クーパーウッドの事務所での話し合いの席で決めればいいことだった。
会合の日の十一時三十分、クーパーウッドの事務所にクーパーウッドとシッペンスの姿があった。シッペンスは行ったり来たりしながら、彼の大将が耳を貸す気になれそうな発言をしていた。しかし、クーパーウッド自身は奇妙にも考え込んでいた。今振り返ってみても、行動は迅速だった。いつもの自分よりも早かった。それに、ここは異国の地であり、やり方も雰囲気もクーパーウッドには全然馴染みがなかった。実際のところ、権利を買いはしたが再び売ることができないわけではなかった。その一方で、彼には、ある種の不幸がこの問題全体を貫いているように思えた。せっかくこのオプションを買っても、それを失効させたら、それこそ勇気も方策もなかったのに試しに乗り出したように見えるだろう。
しかし、今、ジャーキンスとクローファインが到着した。二人はこの問題における自分たちの役割を十分に自覚し、彼らへの義務がおろそかにされないことをクーパーウッドに保証されていた。そして二人のすぐ後から、シッペンスの秘書のデントンと、シッペンスの調査チームのメンバーのオスターデがやって来た。その後に、クーパーウッドの〈シカゴ・ユニオン交通〉の社長に就任したシッペンスの後任のキトレッジが来た。彼はシカゴの問題をクーパーウッドと話し合うためにそこにいた。最後はオリバー・ブリストル、若いが極めて警戒心の強いクーパーウッドの法務部のメンバーで、現在のイギリスの手続きについての情報を仕入れるために派遣されていた。もう最初の仕事にかかる準備はできていた。しかし、この時、クーパーウッドが自分の部下に求めた大きな役割は……取引に立ち会うことの他に……このイギリスの紳士たちに印象を与えるために、部下を自分の特色や背景として職責を果たしてもらうことだった。
ついに、十二時ちょうどにグリーヴズとヘンシャーが、〈交通電化会社〉のジョンソン、ライダー、カルソープ、デラフィールドを伴ってやって来た。カルソープが社長で、ライダーは副社長で、ジョンソンは事務弁護士だった。そしてついに、机の後ろに座って左右に弁護士と助手の全員に付き添われた偉人本人の前にやって来たとき、彼を見て全員が少なからず感銘を受けた。
クーパーウッドは立ち上がって、グリーヴズとヘンシャーにとても丁寧に挨拶した。すると、今度は二人がジャーキンスとシッペンスの助けを借りて各グループのメンバーを紹介した。しかし、クーパーウッドとシッペンスの両方の注意を引いたのはジョンソンだった。クーパーウッドは彼の人脈を思い、シッペンスはひと目でライバルだと感じた。この男の権威を笠に着た態度といい、まるで昆虫を調べている科学者のように、咳払いをしてじろじろ見回す偉そうな態度は、シッペンスを激怒させた。そして、話を切り出したのは、ジョンソンだった。
「さて、クーパーウッドさん、そしてみなさん」ジョンソンは始めた。「我々は全員、ここで起ころうとしていることの本質を完全に理解していることと思います。したがって、始まるのが早ければ、それだけ終わるのも早くなります」
(「ほお、そうかい!」シッペンスは独り言を言った。)
「ええ、いいお考えです」クーパーウッドは言った。そして、ボタンを押して、ジェーミソンに業務用の小切手帳と仮契約書を持ってくるように命じた。
今度はジョンソンが、四角い革鞄……彼の後をついて回る事務員に持ち運ばれたもの……から、〈交通電化会社〉の帳簿数冊、公印、議会承認証書を取り出してすべてをクーパーウッドの机に置いた。クーパーウッドはブリストルとキトレッジを脇に従えてそれらを調べ始めた。
いろいろな約束、決定、支出額の確認を終えると、グリーヴズは買う対象のオプションを出した。会社は役員を通じて、その効力を証明した。デラフィールドは〈交通電化会社〉の秘書兼財務責任者として、鉄道を建設する権利を成立させている議会承認の写しを出した。そこへ、〈ロンドン州銀行〉のブランデッシュが、現時点では自分の銀行にあってフランク・アルガーノン・クーパーウッドに渡す英国コンソル公債六万ポンドの預金証書を持参して到着した。銀行は、その金額を記載した小切手と引き換えにこれを相手に引き渡すのである。
それから、クーパーウッドは署名を済ませ、それまでに〈交通電化会社〉に裏書きされていた三万ポンドの小切手をグリーヴズとヘンシャーに渡した。同社は役員を通じて、クーパーウッドにこれを裏書した。それをうけてクーパーウッドは六万ポンドの小切手を書き、それと引き換えに〈ロンドン州銀行〉からコンソル公債の所有権を法的に承認してもらった。これが済むと、クーパーウッドは正式に署名されて保証された一年間の交渉不能の契約書をクリーヴズに渡した。こんな短いやりとりでは説明しづらい興奮に包まれて、会合は終了した。
これを説明できるのは、クーパーウッドの個性とその場にいる全員に及んだ影響だった。たとえば、〈交通電化会社〉の社長で、金髪のがっしりした五十歳の男性のカルソープは、ロンドンの鉄道会社を運営しようとしているアメリカ人に偏見をたっぷり抱いてやって来ていた。それでも、彼がクーパーウッドの活気に富んだ早業に感銘を受けたのは明白だった。ライダーはクーパーウッドの服装を観察して、美しくはめ込まれた翡翠のカフスボタンと、暗褐色の靴と、見事な仕立ての砂色のスーツに注目した。明らかにアメリカは新しい他とは違うタイプを生み出していた。その気になれば、ロンドンの問題で大きな力になれる男がここにいた。
ジョンソンは、クーパーウッドは抜け目なく、気持ちいいほどの狡猾さで、この問題を処理したと思った。この男は冷酷だったが、人生の混沌とした利害と対立が求めたひとつの形だった。クーパーウッドが近づいてきたとき、ジョンソンは帰ろうとしていた。
「聞くところによると、ジョンソンさん、あなたは個人的にこの地下鉄の問題に関心をお持ちですね」クーパーウッドは心から微笑みかけて言った。
「ええ、ある程度は」ジョンソンは礼儀正しく、それでも慎重に答えた。
「私の弁護団が教えてくれました」クーパーウッドは続けた。「あなたはこの国の鉄道の運営権分野では、なかなかの専門家なんですね。まあ、他所では私はベテランですが、ここだと私にとってすべてが新しい領域なんです。お差し支えなければ、もっとお話ししたいことがあります。私のホテルか、あるいはどこか邪魔の入らなそうなところで、ランチかディナーでもいかがですか」
翌週の火曜日の夕方にブラウンズ・ホテルで、と話がまとまった。
全員が立ち去った後で、シッペンスと二人っきりになると、クーパーウッドは彼の方を向いて言った。
「さあ、あなたの出番だ、デ・ソタ! 問題をたくさん買い込みましたよ。それにしても、あのイギリス人たちをどう思いますか?」
「まあ、仲間内で取り引きする分にはあれでいいんでしょうね」シッペンスは言った。ジョンソンの態度に未だに怒りがおさまらずにいた。「あいつらに気を許さずに済む日なんか来ませんよ、大将。大将を確実に支えるのは、大将が鍛え上げた部下なんです」
「そのとおりだと思うよ、デ・ソタ」シッペンスの胸の内を察しながら、クーパーウッドは言った。「しかし、すべてをスムーズに正しく運ぶには、こっちの連中をある程度加えなくて済むとは思わない。すぐに彼らが我々の味方になるような過度な期待はできない。それはわかりますね」
「心得てますが、大将、不意打ちをされずにすむだけのアメリカ人の数をそろえることは必要ですよ!」
しかし、クーパーウッドの頭の中では、おそらく必要となるのは、ジョンソン、グリーヴズ、ヘンシャーのような誠実で熱心なイギリス人と、こっちを注意深く観察していたが何も言わなかったおとなしいライダーあたりだろう、という考えが回転していた。急速な展開が続いていくうちに、長年にわたるアメリカの人脈も多少は価値を失うかもしれない。どんな重大局面でも保身を正当化するのに足りるものは、感情からは生まれないことをクーパーウッドは知りすぎるほど知っていた。もし人生が彼に何かを教えたことがあったとすれば、これを教えていた。そしてクーパーウッドは、最も容赦なく残酷でそれでいて建設的な教師に背を向ける人物ではなかった。




