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ストイック  作者: ドライサーの小説の翻訳作品です
28/79

第28章

 

 シッペンスをガイドにした地下鉄巡りは、最初の行動として〈チャリングクロス鉄道〉の運営権を確保することが重要であるという自分の意見を確認してくれたので、クーパーウッドは今日の午前中、事務所でグリーヴズとヘンシャーに会うのを関心を抱いて楽しみにしていた。最初、率先して話をしたのはグリーヴズだった。

「我々は知りたいのですがね、クーパーウッドさん」グリーヴズは始めた。「我々が鉄道の建設に必要な費用を比例して引き上げることにしても、あなたは〈チャリングクロス鉄道〉の五十一パーセントの権利を取得するつもりがありますか」

「比例して?」クーパーウッドは尋ねた。「内容によりますね。鉄道の建設費が百万ポンドかかるとしたら、あなたは四十五万ポンドを出すと約束しますか?」

「まあ」グリーヴズは何だかためらいがちに言った。「我々の懐から直に出すわけではありません。資金の供出にあたっては、我々に参加してもいいという方々が多少はおります」

「私がニューヨークであなたに会ったときには、そのような方々がいるようには見えませんでしたね」クーパーウッドは言った。「あのときから私は、運営権と多少の借金しかない会社の五十一パーセントの権利では三万ポンドが上限だ、と決めています。権利だけで他に何も持っていないのに、こうして物乞いをしに来る会社がここには多すぎますね。私にだってそのくらいのことを調べる時間はありましたよ。この鉄道の四十九パーセントの建設費が、四十五万ポンドになる確かな保証をあなたがもって来ているのなら、私も関心を持つかもしれません。しかし、あなたは自分の四十九パーセントを引き上げることを見越して、ただ私が五十一パーセントを引き受けることに同意するのを待っているだけなので、そんな面倒は見られませんよ。本来、あなたには提供する権利しかありません。こうなってしまっては、完全支配か何もしないかの二択を問わねばなりませんね。これだけのことを始める膨大な資本を私が集められるようにするには、完全支配をするしかありません。あなた方二人以上にこのことをよく知る者は誰もいないはずです。したがって、あなた方が私の最終案……あなた方のオプション代の三万ポンドと、あなた方の建設請負契約の継承……を受け入れることではっきり方針を見出せないのであれば、私はこれ以上この問題を考えることはできません」

 そして、クーパーウッドは腕時計を取り出した。この行動が、ここで今決断をしなかったら、この話は終わりだ、とグリーヴズとヘンシャー両名の疑心を強めた。二人はどうしようかと互いに顔を見合わせた。今度はヘンシャーが切り出した。

「我々があなたにこの完全な経営権を売却するとしてですが、クーパーウッドさん、あなたがすぐにこの鉄道の建設を進めるとどうやって保証するんですか? だって、妥当な期間内にこの工事を終わらせなければ、我々に何の得があるのかわかりませんからね」

「私もパートナーの考えに同感です」グリーヴズが言った。

「それに関しては」クーパーウッドは言った。「心配はご無用です。我々がどんな契約書を交わすことになろうと、署名後六か月以内に第一区画の鉄道建設費が提供されない場合、契約は失効するだけでなく、損害賠償としてあなた方に一万ポンドを支払うことに同意する、と私は必ず記入するつもりです。それならご満足ですか?」

 二人の請負業者は再び見つめ合った。二人は、お金が関わるとクーパーウッドは抜け目なく冷酷だと聞いていたが、署名した契約は守る相手だとも聞いていた。

「それならば結構です! 十分に妥当な内容です。では、その他の区画はどうなのですか?」これはグリーヴズからの質問だった。

 クーパーウッドは笑った。「実は、お二方、私は目下シカゴのすべての路面鉄道の三分の二を処分しているところなんです。私は過去二十年であの都市に、三十五マイルの高架鉄道と四十六マイルの電動スロット型交通網を建設してきました。そして七十五マイルにわたる郊外のトロリー線を建設し、今なお利益を出して経営しています。私はそのすべての大株主です。これらに関連して、投資家はこれまでこれっぽっちも損をしていません。儲けが出ていますし、今日に至るまで六パーセント以上の利益を出しています。それがまだ私のものなんです。処分しているのは儲からないからではありません……利益は出ているんです……私にとって腹立たしい限りですが、政治的、社会的な嫉妬のせいなんです。

 さらに言うなら、私がこのロンドンの問題に悩んでいるのだってお金が必要だからではありません。あなた方が私のところへ来たのであって、私があなた方のところへ行ったのではないことを忘れてはいけませんね。ですが、そんなことは気にしないでください。別に自慢しているわけではないし、したいとも思いません。こういう追加していく区画なんですが、それぞれの区画の期限と金額なら契約書に盛り込めます。ただ、あなた方も経験からご存知にちがいありませんが、すべてが、こういう物事にいつも影響を及ぼしがちな自然な遅延や偶発的出来事の対象になるにちがいありません。重要な点は、私はあなた方のオプションのために現金を用意し、契約が求めるその後のすべてのことを実行するつもりでいることです」

「あなたの意見は?」グリーヴズはヘンシャーの方を向きながら尋ねた。「クーパーウッドさんとなら絶対にうまくいくと思います」

「いいでしょう」ヘンシャーは言った。「私は腹をくくった」

「この権利の譲渡の件は、どう取り扱うつもりですか?」クーパーウッドは尋ねた。「私の理解では、私に譲渡できるようにするには、〈交通電化会社〉とオプションのことで話をつけないとなりませんよね」

「そうですね」すでにこうなることを予期していたヘンシャーは答えた。もし今、二人が最初に〈交通電化会社〉と直接取引し、次にクーパーウッドと取引するとしたら、オプションを取得するための三万ポンドをどこかから確保しなければならないだけでなく、さらに一時的に少なくとも〈交通電化会社〉が義務の履行のために政府に預けたコンソル公債の名義変更をするのに六万ポンドを借りなければならなくなるのである。

 総額九万ポンドは集めるのが簡単な金額ではなかったのでヘンシャーは、ジョンソンと〈交通電化会社〉の事務所へ出向いて、何が進行中なのかを説明した方がどれだけいいだろうかと考えた。それから、全取引にクーパーウッドの資金をあてて処理できるようにするために、クーパーウッドとグリーヴズと自分とに会うよう取締役たちに頼むつもりだった。この考えが気に入って、さっそくヘンシャーは言った。

「すべてをひとつの取り引きにしてしまえば、それが一番いいと思う」彼は理由ではなく方法を説明した。しかし、クーパーウッドは十分に理由を理解した。

「いいでしょう」彼は言った。「もしあなた方が取締役たちを調整してくれるのであれば私の準備はできています。数分ですべてをまとめられます。あなたは、自分のオプションを六万ポンドの国家供託金だかその分の証書と一緒に私の三万ポンドの小切手と引き換えに差し出せばいいですし、私は両方の分の小切手を一枚なり分けるなりしてお渡しするつもりです。我々が今やらなくてはならないことは、この詳細に関する仮契約書を作成することだけだと思います。そうすれば、あなた方はそれに署名できるでしょう」

 そして、彼は秘書を呼び、その合意内容の要旨を口述した。

「さあ、お二方」署名が済むとクーパーウッドは言った。「我々はもはや交渉相手ではなく、我々全員が賛同できる結果に至る重大な事業の仲間なんだと感じたいですね。これからのあなた方の心からの協力へのお返しに、私も同じものでお応えすることを約束します」そしてクーパーウッドは両名ととても真心のこもった握手を交わした。

「それにしても」グリーヴズは述べた。「ずいぶん早くまとまりましたね」

 クーパーウッドは微笑んだ。

「お国の言葉で言う『すばやい対応』という奴ですかね」ヘンシャーは付け加えた。

「関係者全員が良識を働かせた以外の何ものでもありませんよ」クーパーウッドは言った。「アメリカ風に言うなら、上出来だし、イギリス風に言っても、やはり上出来です! でも、これをやり遂げるにはアメリカ人一人とイギリス人二人が必要だったことを忘れないでください!」

 クーパーウッドは二人が帰るとすぐにシッペンスを呼び寄せた。

「信じてもらえるかどうかわかりませんが、デ・ソタ」シッペンスが到着するとクーパーウッドは言った。「今しがた、あなたのために〈チャリングクロス鉄道〉を買いました」

「やりましたか!」シッペンスは叫んだ。「それはすごい!」すでに彼は自分をこの新しい鉄道を作るゼネラルマネージャーだと見ていた。

 現にこの時点でクーパーウッドはシッペンスをそういう形で使おうと考えていた。その先ずっとではないにしても、少なくとも物事が動き出すまではそのつもりだった。シッペンスはおそらくいらいらしすぎるアメリカ人で、ロンドンの高度な金融界の人間とうまく渡り合うことはできない、とクーパーウッドは見ていた。

「そいつを見てください!」机から書類を一枚をひろい上げて話を続けた。仮のものだが、それでもグリーヴズ、ヘンシャー、クーパーウッドとの三者間では拘束力がある合意書だった。

 シッペンスは、クーパーウッドが差し出した箱から長い金箔包みの葉巻を一本選んで、読み始めた。

「すごい!」読み終わると、葉巻を腕の長さいっぱいに伸ばしてびしっと言った。「シカゴ、ニューヨーク、そしてここの連中がこいつを読んだら、大騒ぎになりますね! 見ものだな! こっちで発表させたら世界中に広まりますね」

「私があなたに話したい用件の一つがそれなんだ、デ・ソタ。こういう発表が、しかもここに来た直後に……その影響が少し心配なんだ……帰国はしない……世間が驚こうが衝撃を受けようが構わない……だが、ここでの地下鉄の権利の価格への影響が気がかりでね。これが明らかになったら上昇するかもしれない、確実に上がるだろう」クーパーウッドはそこで話をやめた。「そして、特に一度の会席でテーブルの上をどれほどの大金が動くかを読んで知ったら。しかも小さな鉄道一社でだ。ざっと十万ポンドだからな……もちろん、私はその鉄道を作らなければならない、さもなければ約七万ポンドを失うんだ」

「そうですね、大将」シッペンスは納得した。

「これには馬鹿げたことがたくさんあるしな」考え込むようにして、クーパーウッドは続けた。「ここに、あなたと私がいる。我々は二人とも長年一緒にやってきて、今この仕事で駆け回っている。やるにせよ、やらないにせよ、我々二人には大して意味がないことかもしれない。何しろ、ここに長居するつもりはないからね、デ・ソタ、それに我々はどちらもお金が必要なわけではない」

「それでも、作りたいわけですね、大将!」

「まあね」クーパーウッドは言った。「どうせ我々は、少し食べて、少し飲んで、少し長く遊び回る以上のことはできないんだ。たかが知れている。私が驚いてるのは、我々がこれにこんなに興奮できるんだってことなんだ。あなたも少しは自分に驚きませんか?」

「まあ、私が大将のことを言うのもなんですが、大将は偉大な方だ。大将ならすることも、しないことも大事なことなんです。私はこのすべてを、これをやるために私がここにいるある種のゲームなんだと考えています。以前は今よりもすべてを重要に感じたものです。多分、そのとき私は正しかったんです。だって、もし忙しくして自分のためにたくさんのことをしてこなかったら、人生は私からすり抜けて、自分がなし得たたくさんのことをできなかったでしょうから。そして、私が思うに、それが答えなんです。ずっと何かをしてるってことが。ゲームは始まりました。好むと好まざるとにかかわらず、我々は自分の役割を果たさなくてはなりません」

「そうですね」クーパーウッドは言った。「この鉄道が予定どおり建設されることになれば、すぐにやることがたくさんできますからね」

 そしてクーパーウッドは小柄で活気のある友人の背中を景気良く叩いた。

 ベレニスにとって、この〈チャリングクロス鉄道〉取得というクーパーウッドの発表は、お祝いすべき出来事だった。そもそも、このロンドンでの事業を最初に提案したのは自分ではなかったか? そして今、ついに自分はここに来て、昔はぼんやりと想像するだけだった物事からなる偉大な世界の一部になっていることに気がついていた。ベレニスはクーパーウッドが得意になっているのを察知して、その出来事とお互いに乾杯しようとワインのボトルを持ち出した。

 会話のある時点で、ベレニスは茶目っ気たっぷりで尋ねずにいられなかった。「ひょっとして、あなた、あなたの、私たちのステイン卿にはお会いした?」

「私たちの?」クーパーウッドは笑った。「本当はあなたのステイン卿と言いたいんじゃありませんか?」

「私のものであり、あなたのものであるわ」ベレニスは反論した。「だって、私たちの両方を助けることができるんでしょ?」

 大したものだ! と、クーパーウッドは考えた。この小娘の大胆さと強がりときたら! 

「確かにね」クーパーウッドは諦めたように言った。「まだ、会ったことはありません。しかし、彼が重要であることは認めます。現に私は彼が大きく影響するかもしれないと期待しています。しかし、ステインがいようがステインがいまいが、私はこの計画を進めるつもりです」

「そして、ステインがいようがステインがいまいが、あなたは自分のやりたいことをやり遂げるわ」ベレニスは言った。「そんなことあなたは知ってるわね、私もだけど。あなたは誰も必要ないのよ、私でさえもね」ベレニスは近寄って、クーパーウッドの手を取った。

 


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