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ストイック  作者: ドライサーの小説の翻訳作品です
25/79

第25章

 

 次の週末、クーパーウッド夫妻はバーリトン荘園のハドンフィールド卿のゲストとして興味深いグループの真っ只中にいた。実際、ここは十六世紀の英国建築様式の中でも群を抜く広壮な建物で、ハーダウン・ヒース南東の端にあって、保存状態のいい歴史的遺産の代表だった。北西からそこに接近しているのは、何百年たっても鋤や種をまく人や大工と歴史的な対立を続ける、うねる緑の広がりを持つ、荒涼とした、まるで海のようなヒースそのものだった。富豪だけでなく貧者にとってもそうだが、ここの主な価値はこのヒースが、野兎、鹿、その他の狩猟動物および、馬や猟犬や赤いコートの騎手を従えた狩猟隊に提供する自由な放牧地だった。荘園が面する南西側は、木々が生い茂る斜面と原野であり、中心には小さな茅葺きの市場町リトル・バーリトンがあり、住みやすそうな片田舎の印象を与えていた。

 バーリトン駅でクーパーウッド夫妻を出迎えたハドンフィールドは、五年前と同じ洗練された陽気な人物だった。楽しい思い出だったので、ハドンフィールドは夫妻を見て喜び、実に印象的な芝生と中庭を見せながらアイリーンに言った。「ずっと考えていたのですが、クーパーウッド夫人、あなたやご主人にとってはヒースなど興ざめでしょう。そこで、庭を見渡せる部屋をご用意いたしました。もし旅行でお疲れでしたら、応接間にお茶を用意してあります」

 自分にはニューヨークに大豪邸があり、大勢の使用人がいて、この男性の富などはその足元にも及ばないのに、アイリーンは少なくともこの瞬間、こっちの方がはるかにすてきだと確信した。ああ、この男性のような社会での揺るぎない地位と人脈があって、このような場所を所有できたなら! もう苦労する必要はない。永遠に続く平和。一方のクーパーウッドは、こういう場面を喜びはしたが、称号や不労所得に威圧されたり、感動さえしなかった。彼は自力で富と名声を築いたのだ。

 この週末にハドンフィールド卿が招待したゲストは、いろいろいたが著名人ばかりだった。前日に、ロンドンからチャールズ・ストーンレッジ卿が到着していた。ロンドン演劇界で地位も名声もある俳優だが、芝居がかった気取り屋で、あらゆる機会をとらえて貴族の友人や知人を訪ねていた。ストーンレッジ卿は当時人気があった『センチメント』に出演していた女優のミス・コンスタンス・ハサウェイを同伴していた。

 それとは対照的なのがエティンジ卿夫妻だった。エティンジ卿は鉄道や船舶関係者の間ではかなり有名だった……大柄で血色のいい独裁的な男性だが、大酒飲みで、コップが満ちていればほどほどに温厚だった。完全にしらふでいるときは、安易な議論というよりはむしろ鋭い付随的意見を任された。一方で、エティンジ夫人はことのほか外交的で、今回はもてなし役としてハドンフィールド卿に招待されていた。夫人は夫の気性や癖を心得ていたので、それに寛容に耐えつつも、決して自分の個性を埋没させることはなかった。夫人は背が高くて、がっしりした体格で、青筋が目立ち、頬が赤く、かなり鋭い青い目をしていた。かつて彼女は十六歳のどのかわいい娘にも引けを取らないほど美しくて魅力的だった。そのことをエティンジが覚えていたように、彼女もよく覚えていた。エティンジ卿は熱心に求愛した。夫人は夫よりもバランス感覚が優れていた。エティンジ卿は長い歴史を持つ家系の出で財産を相続していたため、たとえ卿自身が仕事で十分に活躍していたとしても、目先の業績より長子相続を重視、優先しがちだった。しかし、夫人は夫と同じくらい名門の出でも、時代の勢力の移り変わりにもっと関心を持ち、認識していたので、クーパーウッドのような無冠の巨人を称賛する傾向があった。

 また、ボスビケ卿夫妻の姿もあった。二人とも若くて、おしゃれで、とても人気があった。夫妻はスポーツ万能で、ギャンブルやレースを楽しみ、夢中になるし、陽気なので、どんな集まりでも貴重な存在だった。内心ではエティンジ夫妻を笑っていたが、同時に彼らの地位を高く評価していて、受け入れてもらえるようにこだわりなく振る舞った。

 本当に重要なゲストはアビンギョン・スカーだった……ハドンフィールドとエティンジの目にははっきりしていた。かなり出自の疑わしい男……称号も家名もない……にもかかわらず、彼はこのとき投資で名を馳せていた。一つ目は、過去四年で、彼はブラジルに畜産会社を作ることに成功していた。ここからの利益は、すでに彼の投資家たちをかなり儲けさせていた。今はアフリカの牧羊に関心をもっていた。そこで、政府から得たほぼ前例のない免許と、コストを削減するために彼が考案した方法と、市場を見つけていたことから、すぐに大富豪になるかもしれない人物と目された。疑いたがる者の、彼の事業に対する最も辛辣な批判でさえ、未だに彼の主張に本気で対立するものに発展していなかった。ハドンフィールドもエティンジも、彼の成功に感銘を受けたが、同時に二人とも彼に続くことには慎重だった。彼の株式の一部に手を出したが、飛び込んでもすぐに撤退した。このときスカーが進めようとしていたもののひとつが、それまでの事業のほとんどに比べてあまり成功していない、ロンドンの新しい地下鉄〈ベーカー・ストリート&ウォータールー鉄道〉であり、この運営権は議会から取得済みだった。そして、これに関連して、クーパーウッドの予想もしなかった出現がスカーの関心を引いた。

 アイリーンが念入りに化粧をすると決めたせいで、クーパーウッド夫妻はディナーの席につくのが遅れた。二人が応接室に入ると、他のゲストはほとんど集まっていて、待たされていることにややいらいらしていた。特に、エティンジはクーパーウッド夫妻にあまり関心を払わないことに決めていた。しかし夫妻が現れてハドンフィールドが心から歓迎の意を表明すると、その他はすぐに気を取り直して、愛想を取り戻し、アメリカ人に素直な関心を示した。エティンジは紹介されると前かがみに立ったまま、堅苦しくお辞儀をし、それでも熱心にクーパーウッドを観察した。エティンジ夫人は彼の問題に関する最近のイギリスの論調を追い続けていただけあって、自分の夫を除けば、クーパーウッドがこの集まりの主役だと即座に判断した。夫人は本能的にアイリーンのことでは彼を許した。彼が若くして結婚し、後に不幸な結婚をせいぜいいいものにしようと割り切ったのだと判断した。スカーは、自分の世界の巨匠の前に自分がいることを理解するだけの十分な知性を持っていた。

 ニューヨークで長い間放ったらかしにされていたため少し落ち着かないアイリーンは、自然体でいようと最善を尽くしたが、それでもみんなに微笑みかけたときに、過剰なまでに心を込めて頑張ることしか成功しなかった。自分に全く自信がないということを、みんなの心に植え付けるような発言をする始末だった。クーパーウッドはそれに気づいたが、結局アイリーンのことは自分が何とかできると判断した。そして、いつもの外交手腕を発揮して、最も年上で、明らかに最も重要な女性のゲストであるエティンジ夫人に話しかけた。

「私はイギリスの田舎の生活をあまりよく知りませんが」クーパーウッドは極めて素朴に言った。「今日の午後ほんの少し拝見しただけでも、そこに称賛が向けられるのも当然だと言わなくてはなりませんね」

「全くですわ!」エティンジ夫人はクーパーウッドの感性と気質に少し興味を覚えて言った。「何ものにも負けないほど魅力的でしょ?」

「はい、それに、その理由も説明できると思います。私の国の今のところ最高であるものの原点ですからね」夫人が気がついたように、彼は『今のところ』という言葉を強調した。「イタリアの文化は」彼は続けた。「我々とは全く異なる人々の文化だとわかりますし、同じことがフランスとドイツにも言えると思います。しかし、完全にイギリス系ではない我々でさえここでは自然に、そして共感をもって、自分たちの文化と進歩の原点を認識しますね」

「ずいぶんとイギリス贔屓に聞こえますわ」エティンジ夫人は言った。「あなたはイギリス系なのかしら?」

「はい、両親はクエーカー教徒でした。イギリスのクエーカー教徒の素朴さを十分知らされて育ちました」

「あいにく、アメリカ人全員が心から通じるわけじゃありませんものね」

「クーパーウッドさんは、どんな国のことでも詳しくお話しできますよ」ハドンフィールド卿が近づきながら言った。「その全ての国の芸術品を集めることに、財産と多大な年月を費やしたのですから」

「私のコレクションなんか、まだまだです」クーパーウッドは言った。「私はまだ始まりとしか見てません」

「そして、そのアートコレクションは、私がこれまでに訪問した中で最も美しい美術館の一つに収められているんですよ」ハドンフィールド卿はエティンジ夫人に語りながら続けた。「それはニューヨークのクーパーウッドさんの邸宅の中にあるんです」

「前回ニューヨークに行ったとき、あなたのコレクションについてのお話を聞けて楽しかったですよ」ストーンレッジが口を挟んだ。「それに追加するために、こちらにいらしたというのは本当ですか? 確か先日そういう記事を読みましたが」

「根拠のない噂です」クーパーウッドは答えた。「現時点では感想以外は何も集めておりません。大陸に向かう途中なだけですよ」

 アイリーンは、クーパーウッドが達成したかに思える成果が言葉では言い表せないほどうれしくて、ディナーの間中とても明るかった。とりわけ好印象を与えたかったので、クーパーウッドは時々妻の方へ問いかけるような視線を投げかけた。もちろん、ハドンフィールドとエティンジが投資に関心を持っているのを知っていたし、今ここにいるスカーが地下鉄を作ろうとしているのを耳にしていた。エティンジ卿に関しては、その影響力と人脈について何がわかるか関心があった。エティンジ夫人が夫の政治との関係を率直に話してくれたから、その方面での失敗はなかった。彼はトーリー党員で、トーリー党幹部とは親密で、このときはインドの要職が検討されていた。全ては当時イギリスを揺るがしていたボーア戦争に関わる政治の動向次第だった。今までのところ、負け続きの状態だった。しかし、今そこにいる人の流れはその不運な事実を最小限にすることだった。そして、クーパーウッドは当たり障りなく同じ態度をとった。

 ディナーの間に他のゲストとも軽くおしゃべりしながら、この中でベレニスと同じくらいに自分の役に立ちそうな相手はいるだろうかと自分に問い続けた。ボスビケ夫人はスコットランドにある自分のロッジに招待してくれた。女性たちがテーブルを離れると、スカーが真っ先に近寄ってきて、イギリスに長く滞在するつもりなのかどうかを尋ねた。もしそうならば、スカーはクーパーウッドにウェールズの自分のところへ来てもらうつもりだった。エティンジでさえこのときにはアメリカや世界の問題を論じるほど打ち解けていた。

 そして、射撃のパーティーがあった月曜日に、この関係は強化された。クーパーウッドは、技量がない人ではないと見られた。実際、アイリーンについては必ずしも同じとは言えなかったが、クーパーウッドは帰る準備ができるまでに、ハドンフィールドのゲスト全員の称賛を勝ち取っていた。

 


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